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氷竜の決断

地面に、粉々になった冬の結晶があります。

ユマやグラース。そして村人たちは、ただ呆然とそれを見ています。


「すまん。フローラ。私はお前を護れなかった」


その時、グラースの眼から涙がこぼれたのを、ユマは見ました。


「グラース……」


「すまない、ユマ。どうやら私は、村を護れなかったようだ」


「どうして?」


その時、大きな地響きが聞こえました。

山の方から聞こえるようです。


「あの結晶が壊れれば、世界の均衡が保てなくなる。この村を起点に、氷河時代が始まっていくだろう」


「それって?」


「災厄とはこの事だ。『冬の結晶』によって封じられていた雪が、一気に流れてくるぞ!」


グラースの言葉で、みんなが山を見ました。

なんと、山の頂上からたくさんの雪が流れてきます。


「なっ……雪崩だ!」


村人の一人がそう叫びました。


「ここは危ない!皆、逃げろ!」


長の一言で、みんなが急いで逃げていきます。


「これだけの規模。逃げても遅い……」


グラースが、がっかりしたように首を振りました。


「グラース……わたしたち……死ぬの?」


ユマが、泣きそうになりながらグラースに聞きました。


「……いや。死なせはしない」


粉々になった冬の結晶へと、グラースが歩いて行きます。


「ユマを護ると、約束しただろう?」


その時、グラースの周りを包むように、白い光りが現れました。

そしてグラースの体も、同じように白く光ります。


「グラース!何をするの?」


「壊れた結晶を、私の命で元に戻すのだ」


「命……?」


「かつて……私が愛した人間のように。命を賭けて、『冬の結晶』を元に戻す」


命を賭ける。

いくらユマでも、その言葉の意味はわかりました。

「冬の結晶」を直すために、グラースは死ぬのです。


「だめだよ!そんなことしたら、死んじゃうじゃんか!」


「私が犠牲にならねば、ユマや村の者たちが死んでしまう。ならば私一人の命で村を救おう」


「嫌だ!グラースが死んじゃうなんて嫌だよ!」


こうしているあいだに、光りはどんどん強くなっていきます。


「私は……最後にお前に会えて……幸せだった」


「グラース!お願い!そんなことしないで!」


泣き叫ぶユマをなだめるように、グラースは静かに言いました。


「力を失っていた私に、力を取り戻させてくれた。絶望の中にいた私に、光を見せてくれた」


吹雪のような音が聞こえてきます。

しかしその時の言葉は、まるですぐ近くで聞いているかのように、ユマにははっきりと聞こえていました。


「お願い……一人にしないで……」


「大丈夫。お前はもう、一人ではないよ」


光りと音は大きくなり、ユマの最後の叫びも掻き消してしまいます。


――ありがとう……ユマ。


その一言を聞いたとたん、光りが弾けました。

そこには、まるで氷のように透き通ったグラースの体がありました。


「ばか……ばかぁ……うぅ」


雪崩がおさまったようです。

地響きも、もう聞こえません。


ユマがグラースに近づくと、グラースの体は光となって天に昇って行きます。

そのかたわらには、元通りになった「冬の結晶」がありました。




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