表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/62

第八幕 行く手を阻む怪しき妖婆の陰謀

その頃、虎視眈々と人間界の支配を目論んでいた婆沙羅将軍は…これまでに送り込んだ刺客が次々と晴明たちによって倒された事を憤慨し、婆沙羅将軍の参謀である妖魔元帥ようまげんすいは怒りを沈めるのに必死だった。

しかし、しばらくして婆沙羅将軍は落ち着いた様子で玉座に座り…妖魔元帥に何か良い策はないかと問い詰めるが、さすがの妖魔元帥も頭を痛めながら今後の策を練っていた矢先の事…突然妖魔元帥が何か閃いたかの如く婆沙羅将軍に話していった。

『ええい、どいつもこいつも役立たずな連中ばかりだ…。』

『御大将、少し落ち着かれては如何かと…。』

『馬鹿者、これが落ち着いて居られるか…。よりによってあの宿敵である安倍晴明に殺られるとは全く情けない…。』

『ですが、奴等は我々の秘密にまだ気付いていない様子で御座います故、此処は一つ何か対策を練る必要があるかと…。』

すると、婆沙羅将軍は何としてでも晴明を倒そうといろんな策を練るも…中々良い策が浮かばず迷走していたが、しばらくして婆沙羅将軍は落ち着いた様子で晴明に対抗する秘策を思いついたのであった。

『…そう言えば、奴等は武蔵国へ向かっているとの報告があったらしいが、恐らく連中は西園寺家の屋敷へ向かうはずだ…。』

『御大将、それならうってつけの刺客が居りますが…。』

妖魔元帥が刺客として婆沙羅将軍の前に現れたのは…黒刀自くろとじと名乗る妖婆が姿を見せ、婆沙羅将軍に謁見したのである。

『これはこれは御大将、この黒刀自に何か用でも御座いますかな…。』

『よくぞ参った黒刀自よ…。話は聞いているとは思うが、今から武蔵国へ向かってはくれぬか…。奴等は間もなく西園寺家の屋敷へ到着する予定だ。そこで、お主は奴等を待ち伏せて一気に始末してもらいたい。』

それを聞いた黒刀自は、うっすらと笑いながらこう答えたのだった。

『ひゃっひゃっ…。御大将も考えている事が酷でいらっしゃるのう…。よろしい、万事この黒刀自に任せてもらうとするかのう…。こう見えても人を騙すのは得意中の得意ゆえ、例え相手が陰陽師だろうが凄腕の剣士だろうが相手に不足は御座いませぬ…。』

『ならば、黒刀自のお手並み拝見と参ろうか…。』

『黒刀自よ、念のためにこいつを持っていくがよい…。』

妖魔元帥が黒刀自に〔獨髏葛どくろかずら〕を粉末状に処方した煎じ薬を手渡し、黒刀自は不気味な笑みを浮かべながらその場を立ち去っていった。

『妖魔元帥、お主黒刀自に何を渡した…。』

『御大将、万が一に備えて黒刀自に獨髏葛の煎じ薬を持たせておきました。』

『何っ、獨髏葛の煎じ薬を持たせただと…。ふはは…これで奴等は我が手中に堕ちたも同然だな。』

『左様に御座いますな…。御大将、奴等が絶望する姿が目に浮かびまするなぁ…。』

『確かに…。安倍晴明め、今度こそ貴様を絶望の淵に追い込んでやる。その時が、貴様の最後になろうぞ…。』


一方その頃、晴明たちは飛鳥の双子の姉を捜す為…次の目的地である武蔵国へと向かっていた。

その道中で街道沿いに立て掛けられていた立て看板を見つけた導満は、そこに書かれていた文字に警戒を示していたのである。

「この先、猛獣出現により通行を禁ずる…って、此処等一帯は危険な猛獣が現れるってのか…。だとしたら、常に警戒していないと相当ヤバい事になりそうだな。」

それを聞いていた晴明は、

「導満、実は俺もその猛獣が出没すると言う噂は聞いた事がある…。だが、その姿を見た者は誰一人居ないとされている。」

「それに、その猛獣が神隠しの元凶なのではとの噂も聞きます。」

「神隠し…か。」

正親は五年前に起きた神隠し事件を思いだし、実際神隠しによる犠牲者は十数人にも及ぶと晴明に話すのであった。

「今から五年前にも、似たような神隠しの事件が起きているのは知っているな。」

「ええ…。その内数人が謎の死を遂げていると聞き及んでおります。」

「晴明、猛獣出現と神隠しの事件に何か関連性があるのかよ…。」

「ああ…。兄弟子が言っていた通り、五年前に起きた謎の神隠し事件は〔狒々(ひひ)〕と言う化け物の仕業である事が判明したんだ。だが、その後狒々は行方を眩まし…消息不明になっているらしい。」

「と、言う事は…未だに狒々はまだ生きていると申されるのですか。」

「否定は出来ないが、何時現れてもおかしくない状況にある。それに、本来狒々は天界を守護する《白猿神はくえんしん》と呼ばれていたらしいんだ…。」

「晴明様、確か白猿神は元々天竺てんじく〔現在のインド〕の神話に登場する守護神で…悪魔から人々を守る戦いの神とされています。」

飛鳥は天竺に伝わる白猿神が元々悪魔から人々を守る神である事を晴明に話すと、晴明は白猿神がどの様な経緯で狒々に変貌したのか…その謎を解明しようと近くの庚申塚こうしんづかへ向かって行った。

「晴明、何処へ行くつもりなんだよ…。」

「ちょっと気になる事があるんで、庚申塚へ行こうと思っているんだ。」

「晴明様、庚申塚に行って何を調べるおつもりなんですか…。」

飛鳥は晴明が庚申塚へ向かう理由を問うと、晴明は庚申塚には元々人間の体内に寄生している三尸さんしと呼ばれる妖怪が封じられており、狒々との関連性を調べる為に庚申塚へ行くと言うのだった。

「もしかしたら、狒々と三尸…何かの共通点があるとしか考えられないんだ。」

「では、晴明様は何としてでも狒々と三尸の謎を解き明かしたいと…。」

「ええ…。本来ならば飛鳥どのと西園寺家の屋敷へ同行したいのですが、恐らく兄弟子の方が西園寺家への道筋に詳しい筈ですので…あとは兄弟子に聞いてみて下さい。」

すると晴明は、兄弟子である正親に飛鳥を西園寺家の屋敷へ案内するよう頼み込み…更に護衛役として導満を同行させていったのである。

「兄弟子、飛鳥どのの事をよろしくお願いいたします。」

「ああ…。」

「導満、お前もしっかり飛鳥どのを護衛しろよ。」

「心配すんなって…。ったく、晴明は案外心配性なんだから…何だかこっちまで余計晴明の事が心配になっちまいそうだぜ。」

「そっちこそ、人の心配より自分の心配をしたらどうなんだ…。」

「はぁ…やっぱ晴明には敵わないや。けど、それなりに護衛の役目は勤めるから安心して庚申塚の調査をしてくれ…。」

「ありがとう…。導満、絶対に命を粗末にする事だけはするなよ…。」

「分かってる…。晴明は必ず何かをやり遂げなきゃ気が済まない性分だから、まぁ…晴明だったら最後まで成し遂げるんじゃないのかな…。」

導満が晴明に対してちょっと照れ臭そうに励ましの言葉を掛けると、晴明は心の中でやっぱ持つべき者は心強い親友だな…と改めて導満を無二の親友である事を認識し始めたのである。

「晴明様、飛鳥は晴明様が居たからこそ此処まで辿り着く事が出来ました。もうすぐ生き別れた姉が見つかるとなると…正直不安で仕方がありません。」

「飛鳥どの、不安がっていては先には進む事は出来ません…。自分自身を信じて先に進めば、必ず願いは叶います。それに、飛鳥どのには頼りになる仲間が居るんですから…決して諦めてはいけません。」

更に晴明は、飛鳥に《紅孔雀べにくじゃく腕輪うでわ》を渡し…もし身の危険を感じた時には必ずこの腕輪を使うよう促していったのだった。

「あ、ありがとうございます…。」

「飛鳥どの、その腕輪は決して手放さないで下さい。万が一危険が迫った時には、紅孔雀の腕輪が飛鳥どのを守ってくれます。」

「晴明様…。」

「さて、そろそろ俺たちも出発するか…。恐らく連中も、同じ考えをしているに違いない…。」

「そうですね…。奴等も近々襲撃してくる可能性があります。一刻も早く出発した方が得策かと…。」

「流ノ介の言う通りだ…。さっきも言ったが、二手ふたてに分かれて行動した方がこちらにとって好都合だからな…。」

「そうと決まれば、さっさと行動開始するか…。」

「晴明、必ず庚申塚の謎を解き明かして来いよ。」

「兄弟子…。」

その後晴明たちは、二手に分かれて行動し…晴明と流ノ介は庚申塚周辺の調査を、正親・導満・飛鳥の三人は一足先に西園寺家の屋敷へ向かう事にした。


それから数時間後、正親たちは裏街道を歩いて薄暗い洞窟を抜けていくと…辺り一面雑草が生い茂っており、その中央には廃墟と化した西園寺家の屋敷に辿り着いたのである。

「正親様、あの門に施されている家紋は…左三つ巴の紋所。」

「西園寺家の家紋…か。まさか此処まで酷くなっていくとは…二十年前の事件の形跡が未だに残っているのか。」

「私は当時幼かったのであまり覚えていませんが、此処まで酷く荒らされていたなんて正直驚きました…。」

「ですが、飛鳥どのの父上である伊周殿を殺害したとされる異界の者とは何者なのでしょうか…。」

「分からない…。ただ、その異界の者が仮に婆沙羅将軍だとしても、飛鳥どのの父上を手に掛ける理由がどうも納得がいかないんだ。」

「では、この屋敷に何か秘密があるのでは…。」

「恐らくな…。だが、一見すると何も無い様に見えるが、意外な場所に隠し扉や隠し階段が存在している可能性があるかもな…。」

「とにかく、怪しい場所が無いかどうか…手分けして探しましょう。」

「ああ…。もしかしたら、何か手掛かりが見つかるかも知れないからな。」

早速正親たちは、廃墟と化した西園寺家の屋敷へ入り…事件の鍵となる証拠物件になりそうな物を探し始めたのだった。

しばらくして、導満が屋敷の奥に硬く閉ざされた大きな隠し扉を発見し、正親と飛鳥を呼び寄せて扉の近くまで案内していったのである…。

「正親様、こんな所に隠し扉が…。」

「こいつは驚いた…。しかし、この扉はどうやって開くのか…どう言う仕掛けになっているのか、それさえ分かれば開く事が出来るんだがな…。」

すると導満が、目の前にあったくさりを見つけ…恐る恐るゆっくり鎖を引っ張って見ると、扉の奥から西園寺家の家紋である左三つ巴の刺繍が施された着物を着た木乃伊ミイラが姿を見せ…その木乃伊こそ、飛鳥の先祖である西園寺主水之承さいおんじもんどのしょうである事を確認したのだ。

「こ、これは…。」

「まさかこんな所で木乃伊に遭遇するとは…。」

「正親様、あの木乃伊が着ている着物の紋所…あれはもしや左三つ巴の家紋ではないでしょうか。」

「…飛鳥どの、この木乃伊は飛鳥どのの先祖である西園寺主水之承殿かも知れません。それが証拠に、この木乃伊には何者かによって意図的に殺害された形跡が残されているのです。」

飛鳥は先祖である主水之承の木乃伊が何者かによって殺害されたとの正親の話を聞き、情緒不安定的な心境になりつつあった飛鳥だったが…しばらくして平常心を取り戻して改めて主水之承の木乃伊を確認してみると、着物の懐に一巻の巻物を発見したのである。

その巻物には、伝説の三種の神器の一つである《八卦退魔鏡はっけたいまきょう》が隠されている黒獅子ヶくろじしがしまの全体地図が描かれていた。

「正親様、この地図ってもしかして…八卦退魔鏡が隠されている黒獅子ヶ島の全体地図なのでは。」

「…そうか、確か西園寺家では代々八卦退魔鏡を守る家系だと聞いているが、まさかこんな所で見つかるとは思わなかったな。」

「では、その八卦退魔鏡が黒獅子ヶ島に隠されいるのは本当だったのですね。」

「ですが、その八卦退魔鏡が隠されている場所が問題だが…。」

「どう言う事なんですか…。何か不都合な事でもあると言うのですか。」

「いや、そうじゃないんだ。この地図によると、島の周囲にはそれぞれ島を護る神獣の像が配置されていて、島の宝を奪おうとする侵入者を阻んでいるらしいんだ。」

「だったら、その黒獅子ヶ島へ行って八卦退魔鏡を手に入れようじゃないか。」

「導満様、そう簡単におっしゃいますけど…魔獣の像に護られている限り島への侵入は不可能だと思われます。」

すると正親は、黒獅子ヶ島へ向かい…八卦退魔鏡をどうしても手に入れようと導満と飛鳥に話すが、最初はあまり進まない話だと躊躇していた二人だったが…正親の熱意に撃たれた二人は黒獅子ヶ島へ行く決意をしたのであった。

『黒獅子ヶ島へは行かせやしないよ…。』

突然正親たちの前に行く手を阻む者が現れ、その正体が妖婆黒刀自である事を知ると…正親の表情が一変し、事態は急展開を見せていた。

「き、貴様は妖婆黒刀自…。」

『悪いけど、お前さんたちには此処で死んでもらうよ…。』

窮地に追い込まれた正親たちは果たして黒刀自の妨害を脱却する事が出来るのだろうか…。







第九幕に続く…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ