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第三幕 闇に消えた一寸法師

駿河国に歩を進めていた晴明たちは、そこで一人の少女に出逢うのであった。

少女の名前は西園寺飛鳥さいおんじあすかと言って、生まれて間もない頃に特殊な能力に目覚め…この世に蔓延る妖怪を退治する《退魔師》を生業としていた。

しかし、ある日を境にその特殊な能力のせいで多くの人を傷付けてしまい…それ以来人と接する事を嫌っていたのである。

そこで晴明は、飛鳥の閉ざした心を開こうとある作戦を実行しようとしていた。

それは、晴明の得意分野である形代を使った幻想的なトリックを飛鳥に披露したところ…すっかり飛鳥は晴明の虜になってしまったのであった。

「飛鳥どの、如何でございましたか…。」

「ええ…。とても面白かったわ。晴明様にそんな能力があったなんて、飛鳥とっても羨ましい限りです。」

「よかった…。」

「晴明、飛鳥どのに笑顔が戻って嬉しいぜ…。」

「それより、何故飛鳥どのは退魔師と言う道を選んだのか…支障がなければ話していただけませんか。」

すると、飛鳥は幼い頃から特殊能力を身に付け…それと同時に人を傷付けてしまうと言うトラウマに陥り、その日より魔物を退治する退魔師の道を選んだのだと話すのであった。

「あの日、私は生まれた時から自分では気づかないうちに特殊能力を身に付け…それが原因で多くの人を傷付けてしまったんだけど、その日以来から魔物を退治する退魔師の道を選んだのです。」

「飛鳥どのにそんな過去があったなんて知らなかったぜ。」

「それにしても、その特殊能力って…いったいどんな能力なのか教えてくれませんか…。」

飛鳥は晴明の問いにこう答えたのだった。

「その特殊な能力とは、異界の魔神を呼び寄せて敵の魔物を退治すると言う能力で、別名《魔神召喚まじんしょうかん》と呼ばれる召喚術が使えるのです。」

「魔神召喚…か。」

「そう言えば聞いた事があるぞ。西園寺家では代々魔神召喚を生業として受け継いでいるとされている。おそらく、飛鳥どのはその血が流れているのでは…。」

「その通りです。私は母から魔神召喚の術を基礎から学び…厳しい修行に耐えながら一人前の退魔師になったのです。」

「普段は雑魚の魔物を退治する退魔師だけど、魔力の強い魔物や死霊には魔神を召喚して退治する…って訳か。」

「しかし、魔神召喚はかなりの体力を消耗する危険な術…。下手すれば死に繋がる危険性も高い…。」

晴明は飛鳥が魔神召喚をする際に命が削られてしまう事を恐れ、得意の陰陽術で飛鳥の命を延ばす五芒星ごぼうせいを象った首飾りに霊気を宿し…その首飾りを飛鳥の首に掛けていったのである。

「飛鳥どの、この首飾りは生命エネルギーを制御する特殊な首飾りで、魔神召喚をする際に体力の消耗を抑える効果がある。それにもう1つ、私と約束してもらいたい事があるのですが…。」

「約束…ですか。」

「ええ…。」

「何だよ晴明、急に真面目な顔をして…。」

「導満、お前も約束してくれないか…。」

「いったい何の約束なんだよ…。」

晴明は急に真面目な態度で導満と飛鳥に『如何なる状況でも決して命を粗末にするな…どんな事があっても互いに助け合う心を忘れるな』と言い聞かせていったのである。

「分かった…。」

「晴明様とのお約束…この西園寺飛鳥、決して約束を破るような事は致しません。」

「二人とも忝ない…。正直今度の一件は、魔界の王である婆沙羅将軍の出現により…かなり厳しい状況である事は間違いない。しかし、これ以上奴等を野放しにする訳にはいかないから…今後も気を引き締めて行動していくように…。」


それから晴明たちは、海沿いを歩いて海を眺めていると…何やら黒山の人だかりが集まっているのを目撃したのである。

「おいっ、あれは何の集まりなんだ…。」

「かなりたくさんの人が集まっているみたいですけど…。」

「何だが尋常じゃない様子だけど、とにかく行ってみよう…。」

晴明たちは黒山の人だかりのところへ向かって掻き分けるかの如く…波打ち際まで近づいてみると、そこには無残にも左腕が切断されていた女性の水死体が打ち上げられていたのであった。

「こ、これは…。」

「左腕が切断されている女性の水死体か…。」

「それにしても酷すぎる…。だが、いったい誰がこんな事を…。」

すると、黒山の人だかりの中にかなり目立つ小柄な男性がじぃ〜っと晴明たちを凝視しているのを導満は見逃さなかった。

しかも、その小柄な男性は大きな麻袋あさぶくろを抱え…何かに怯えている様子でその場から立ち去ろうとしていた。

「おい、晴明…。」

「どうした、導満…。」

「さっきから気になっていたんだが、俺たちをずっと見ていた変な奴が逃げて行くのをこの目で見たんだ。」

「小柄な男性…。」

「しかも、そいつは大きな麻袋を大事に抱えながら何かに怯えている様にも見えたんだが…。」

「晴明様、その小柄な男性って…もしかして《一寸法師いっすんぼうし》と名乗る神出鬼没の怪人かも知れません。」

「一寸法師…。飛鳥どの、その一寸法師とは何者なんですか。」

飛鳥の言う一寸法師とは、お伽噺に登場する少年の事ではなく…背丈が約一メートル三十センチ、容姿は醜く少し猫背でボロボロの着物を着用していており、一見すると子供のようにも見えるが…この一寸法師にはある秘密が隠されていた。

「その一寸法師には、ある秘密が隠されているようなんです…。」

「飛鳥どの、いったい何の秘密があると言うのですか…。」

「噂によると、その一寸法師には《七星宝剣》と呼ばれる聖剣の在処を知るとされています。」

「何だって…。」

「飛鳥どの、それは本当なのですか…。」

「ええ…。しかし、なぜ一寸法師が七星宝剣の在処を知っているのかは謎なんですが、とにかく今はあの水死体の謎を解くのが先決かと…。」

「そうだな…。あの水死体がどのような原因で殺されたのか…先ずはその真相を突き止めるのが先だな。導満は一寸法師の追跡を頼む…。奴は何か隠しているとしか思えないんだ。」

「分かった…。俺もあの一寸法師が何を隠しているのか…どうしても真相を知りたいからな。」

「飛鳥どのは水死体の死因を調べて欲しい…。ただの殺しとは思えないし、それに…この事件には婆沙羅将軍が絡んでいるような気がしてならないんだ。」

「分かりました…。」

早速晴明は、導満に一寸法師の追跡を命じ…飛鳥には水死体の死因を調べるよう言い渡したのであった。

すると、飛鳥は女性の水死体から異臭を感じ取り、更に調べてみると体内から毒物が検出され…その結果《附子ぶす〔現在で言う猛毒のトリカブト〕》である事が判明したのである。

「晴明様、この水死体から附子が検出されたようでございます。」

「附子と言えば、その昔神武天皇の兄である五瀬命イツセノミコト日本武命ヤマトタケルノミコトを死に追いやった幻の猛毒…。しかし、この日本には附子が生息している場所は存在しないはず…。」

「ですが、現にこうして附子が体内から検出されたとなれば…おそらく国外から持ち出された物としか思えないのです。」

「だとすると、いったいどのような形で附子を持ち込まれたのか…真相を確かめる必要がありそうだな。」

晴明は附子が国内に生息していない事に疑問を感じ、おそらく何者かが国外から持ち込まれたものではないかと推理するのであった。

しかし、確たる証拠はどこにもなく…さすがの晴明もこれには頭を抱えざるを得ない状況まで追い込まれてしまうのだった。

「う〜ん、さすがに今度の事件は謎が多すぎる。人混みに紛れ込んだ一寸法師と言い、毒殺された女性の水死体と言い…それに切断された左腕の行方も分からないまま迷宮入りになってしまうのか…。」

「晴明様、まだ諦めてはいけません…。それに、導満様が一寸法師の追跡をしているのですから…それまでの間に真相を突き止めましょう。」

「忝ない、飛鳥どの…。私とした事がつい取り乱してしまったみたいだ。もう一度、最初から整理してみよう…。」

晴明は波打ち際に打ち上げられていた女性の水死体が発見される数日前、殺害されたのは夜中辺りと推測し…更に毒殺に使われた附子は何者かが国外から持ち込まれた可能性が高いと考え、その結果犯人は妖怪の仕業ではないかと推察するのであった。

「これはあくまでも推察だが、仮に妖怪の仕業であるとしたら…必ず現場に証拠を残すはずだ。だが、証拠どころか足跡すら残されていないんだ。」

と、その時…慌てて駆け寄る水死体の女性の両親が変わり果てた姿に泣き崩れる様子を見た晴明はすかさず声を掛けたのである。

「もしかしたら、この娘さんのご両親なのですか…。」

「はい…。4日程前から姿が見えず、あまりにも心配だったので様子を見に来たのですが…まさかこんな哀れな姿になっていたとは…。」

「あいつだ…。あいつが娘をこんな無惨な姿にしたんだ…。」

「あいつとは…いったい誰の事なんですか。」

すると、亡くなった娘の父親の口から意外な言葉が発せられたのであった。

「あの一寸法師が娘を殺したに違いない。」

それを聞いた晴明は、殺した犯人は一寸法師ではないと説明すると、その父親はじゃあ誰が娘を殺したのかを問い詰めるが…晴明は必ず事件の真相を解き明かし、必ず真犯人を探してみせると言い聞かせたのである。

「晴明様、いったい犯人は誰なんでしょうか…。」

「切断された左腕…体内から検出された附子…それに足跡の無い姿無き殺人者。これだけの物証を揃えたとしても、犯人が見つからないのでは亡くなった娘さんの魂も成仏するにも成仏できない恐れも有り得るな…。」

と、一寸法師の追跡をしていた導満が帰ってきて…あともう少しと言うところで一寸法師を見失ってしまったと報告すると、晴明は一寸法師は必ず姿を現すと確信して疑わなかった。

「導満、奴はもう一度必ず姿を現すはずだ…。」

「けど、奴は俺の目の前で忽然と姿を消したんだぜ。そう簡単に姿を見せるとは限らないんだが…。」

「何っ、忽然と姿を消しただと…。」

「そんな事が現実に起きるはずがありません。それに、一瞬で姿を消すなんて奇術師きじゅつしか妖術使いでなければとても真似の出来ない事にございます…。」

晴明は一寸法師が一瞬にして姿を消す事は現実的には不可能と解釈するも、何かしらのカラクリが隠されているのではと推察していくのであった。

「導満、飛鳥どの…。一寸法師が一瞬にして姿を消したとされる場所をもう一度調べてみよう。」

「晴明、幾ら一寸法師が姿を消した場所を調べたところで…何の進展にもならないんだぞ。」

「それに、一寸法師がどの様な方法で一瞬にして消えたのか…その謎さえ解明できれば全て明らかになるんですが…。」

それでも晴明は、一寸法師を見つけるまでは決して最後まで諦めるなと二人を叱咤するのである。

「とにかく、一寸法師が消えた場所に行けば必ず証拠が見つかるんだ…。だから、二人とも一緒に調べるのを手伝ってくれ。」

「そこまで言うのなら、とことん付き合うぜ…。」

「私も、晴明様にお付き合い致しますわ…。」

「そうと決まれば、早速現場を調べるぞ…。もし、怪しいところがあればすぐに知らせるんだ…。」

早速晴明たちは、一寸法師が消えたとされる四つ角に面した長屋が建ち並ぶ密集地帯を隅々まで調べていった。

それからしばらくして、晴明はある異変に気付き…導満と飛鳥を呼び寄せたのである。

「導満、飛鳥どの…。ちょっとこれを見てくれ。」

「晴明、何か見つかったのか…。」

晴明は灯籠の一部に奇妙な形をした窪みを導満と飛鳥に見せると、導満はどこかで見覚えのある形だと晴明に話すのだった。

「この窪み、どこかで見た記憶があるんだが…あっ、思い出したぞ。」

「導満、何か思い出したのか…。」

「ああ…。こいつは翡翠ひすい勾玉まがたまで開く隠し扉になっているんだ。」

「まさか、こんなところに隠し扉があったなんて…。」

「ですが、肝心の翡翠の勾玉がなければ…隠し扉を開けることが出来ません。」

そこで晴明は、翡翠の勾玉が無くても隠し扉を開ける事が出来る裏技的な方法を導満と飛鳥に披露すると…しばらくして晴明は隠し扉の前で呪文を唱え、隠し扉の鍵穴部分がほんの僅かな光を放ったかと思えば、気が付けば隠し扉がいつの間にか開いていたのであった。

「せ、晴明…。いったい今の技は…。」

「晴明様、どうやって隠し扉を開けたのですか。」

「詳しい事は言えぬが、とにかくこの奥に何があるのか…中に入って調べてみる必要があるな。」

隠し扉を開け、中へ入る事になった晴明たちだったが…このあと彼等は衝撃的な出来事に遭遇することになるが、果たして晴明たちの運命や如何に…。






第四幕に続く…。


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