第二十一幕 地獄からの刺客…闇夜に浮かぶ魔界帝国の逆襲
京の都で暴れている大江山の主である酒呑童子を止めようと、陸奥国を出発した晴明たちだったが…その道中で婆沙羅将軍の側近である妖魔元帥の出現により、事態は急展開を迎えようとしていた。
更に追い討ちを掛けるかの如く、晴明が突然何かに怯えている様子に異変を感じた正親は…妖魔元帥が晴明の命を狙っているのではと危機感を募らせていた。
しかし、妖魔元帥は京の都へ行かせまいと妨害を企てるのだが…絶望の淵に立たされた晴明を守ろうと必死になって抵抗を開始したのであった。
『まさか、こんなところで遭遇するとは…余程我に最大の幸運が舞い込んだとでも言えるだろうな。』
「けっ、こっちは史上最悪の展開を迎えた…って感じだぜ。」
「よりによって、婆沙羅将軍の側近である妖魔元帥が御出座しとは…こいつは相当ヤバい展開になりそうだな。」
「晴明が体調を崩している今…もはやどうする事も出来ません。」
「くそっ、これからどうすりゃあいいんだよ…。」
「導満、お前は晴明を連れて逃げろ…。」
「正親様、私は正親様を置いて逃げる訳にはいきません…。それに、晴明を連れて逃げたところで…戦況は変わらないと思います。」
「いいか、戦況が変わろうが変わらまいが…此処を突破しない事には俺たちが妖魔元帥に殺られてしまうんだぞ。」
「…それならば、私が囮になって妖魔元帥を引き付けておきます。」
太公望は自ら囮になって妖魔元帥を引き付け、その隙に晴明を連れて逃げるよう正親たちに促していったのであった。
「太公望殿、お主一人で妖魔元帥を倒すなんてあまりにも無謀過ぎます。我々も太公望殿に助太刀致します…。」
「いや、私は晴明様に助けられた恩義がございます。その恩義を無駄にしては…晴明様に対して申し訳がたちません。」
「太公望殿にその様なお考えがあろうとは…。では、我々も太公望殿と共に妖魔元帥を倒しましょう。」
「導満殿、飛鳥どの…。すまぬが晴明様を連れて京の都へ逃げて下さい。」
兵馬は導満と飛鳥に晴明を連れて京の都へ逃げるよう促していった。
「分かった…。」
「あとはお任せします。」
導満と飛鳥の二人は、戦闘不能に陥った晴明を抱え込みながらその場を離れ…残った正親たちは妖魔元帥を倒そうと戦闘体制を整えていった。
「さて、此処から先は俺たちが相手になってやるぜ…。」
『貴様たち五人でこの妖魔元帥を戦い挑もうなど…笑止千万。たかが人間如きの分際で我等魔族を滅ぼそうとは…何とも愚かな存在よのう。』
「何が愚かな存在だ…。」
「てめぇこそ、この世を乱す邪悪なる存在じゃないのか…。」
「晴明の命を狙おうなんざ…風上にも措けない野郎だな。」
「これ以上晴明様に近付く事は…決して許される事ではありません。」
「どうしても晴明の命を狙うと言うのであれば…我々との勝負に臨んで頂きたい。」
『ほう…貴様たちとの勝負を臨めと申すのか。もし貴様たちが負ければ、晴明の命は我が物と認識してもよろしいのだな…。』
「勘違いするんじゃねぇ…。仮に勝ったとしても、晴明の命は絶対に渡す訳にはいかねぇんだよ。」
『ならば、貴様たちの実力が如何ほどなのか…この場にて試させてもらおうか。まぁ…今の貴様たちにはこの妖魔元帥には勝てる確率はゼロに等しいがな…。』
「ゼロに等しいだと…。ふざけるな、我々五人だけでも十分勝てる可能性だってあるんだ。てめぇみたいな悪党に負ける事はあり得ねぇんだよ…。」
「何としてでも、我々だけでも晴明殿を守り通すんだ…。」
正親たちは獅子奮迅の如く妖魔元帥に戦い挑もうとしていったが、圧倒的な戦力を誇る妖魔元帥を前に…全く歯が立たなかったのであった。
『やはり貴様たちの戦力では、この妖魔元帥に勝てなかったと言う訳だな。』
「くっ、俺たちの力だけでは倒す事すら敵わないのか…。」
「妖魔元帥…とてつもなく恐ろしい化け物だな。」
「だが、このままで終わらす訳には参らぬ…。俺たちが晴明を守らなければ、これまでの苦労が水の泡となるだろう。」
「ならばもう一度、奴に一斉攻撃を仕掛けるしか突破口がなさそうだな…。」
「でも、どうやって…。」
すると太公望が、妖魔元帥を取り囲む形で一斉に術を施して攻撃を仕掛ける作戦を提案するが…術の使えない兵馬・数馬・流ノ介の三人は正親が三人に法術を掛けて術を使える様にしたのである。
「これで、お互いに法術を使える様にしておいた。だが、かなりの体力を消耗するから…なるべく短い時間で決着をつけるぞ。」
再び妖魔元帥に戦い挑む正親たちは、五つの方向に分かれて法術を放ち…再び妖魔元帥を撃滅させる作戦を実行させようとしていた。
『轟けっ、天空に輝く五つの流星よ…。今こそ我等に、邪悪なる輩を滅ぼしたまえ…。陰陽秘術・五星激龍陣。』
正親たちの放った五星激龍陣が妖魔元帥を撃滅させる事に成功し、敗れ去った妖魔元帥は苦悶の表情を見せながらこう言い放ったのであった。
『お、お前たちが…我に勝つとは予想外だったが、これで諦めた訳ではないぞ。この次は必ず貴様たちを倒し…安倍晴明の命を頂戴する故、左様肝に銘じておくがよい。』
妖魔元帥はその場から姿を消し…何とか危機的状況を回避した正親たちは、再び晴明の命を狙う妖魔元帥が現れないか不安が過っていたが、それでも正親は晴明たちが無事京の都に着く事を願っていたのである…。
「正親様、晴明殿は無事京の都へ向かわれたでありましょうか…。」
「恐らくな…。だが、導満と飛鳥どのに守られているから心配ないけど、何時また奴が現れるか油断は禁物だ…。」
「しかし、一番気になるのが酒呑童子の動向だが…果たして京の都で暴れていると言う話は真実なのかどうか見極めてみないと何とも言えないな。」
「それに、晴明殿が目覚めない今…もはや婆沙羅将軍は次の刺客を放っているやも知れません。」
「そいつは少し厄介な事になりそうだな…。急いで京の都へ向かうぞ。」
正親たちは足早で京の都へ向かい…一刻も早く合流しようと敵の目を掻い潜りながら歩を進めていったのであった。
一方その頃、婆沙羅将軍はかつて崑崙山を崩壊させた冥府十神を復活させようと…封印されていたとされる〔黄泉封魔塚〕の前に立ち、復活の呪文を唱えたのである。
『オン・バザラマハンド・マニハンドバ・ブハラジャウンハッタ…。黄泉の国に封印されし冥府十神よ、今こそ我等魔族にあざなす人間どもに復讐する時が来た…。いざ、その姿を我が前に現すがよいぞ…。』
すると、黄泉封魔塚に封印されていた要石が大爆発を起こしながら勢いよく四方八方に飛び散り…漆黒の煙の中から不気味な雰囲気を漂わせた冥府十神の全貌が明らかになろうとしていた。
『おお…、遂に冥府十神が姿を現しおったか。』
婆沙羅将軍の前に現れた冥府十神は、想像を遥かに超える風貌でどこか不気味な雰囲気を醸し出した個性的な面々が勢揃いしたのである…。
『お前か、我等冥府十神を復活させたのは…。』
『如何にも、そなた達を復活させたのは…他ならぬこの婆沙羅将軍だ。』
『婆沙羅将軍と申されたな…。我等を復活させた意図は何だ。』
『我々魔族を滅ぼそうとしている陰陽師・安倍晴明を抹殺して欲しいのだ…。』
『陰陽師・安倍晴明だと…。そいつは如何なる人物なのか…その詳細を話してはくれぬか。』
『奴は我々の邪魔ばかりしておるだけではなく、この世の何処かにあるとされる三種の神器を手に入れようとしておるのだ。』
『三種の神器だと…。』
『そいつは厄介な事だな…。我々にとって三種の神器は邪魔な存在だ。』
『馬鹿だなぁ…。だったら、その安倍晴明より先に三種の神器を破壊すりゃあいいんだよ。』
『破壊するったって…どうやって破壊するのかお前は何か方法でもあるのか。』
『そ、それは…。』
『とにかくだ、その安倍晴明なる人物を探し出して殺してしまえば良い訳だな…。』
『左様…。とりあえずは我が居城へ貴殿たちを案内致そうぞ。封印されていたその身体を癒す意味で鋭気を養いながら次の戦いに備えられるがよかろう。』
婆沙羅将軍が冥府十神を自分の居城へ案内し、安倍晴明を暗殺せんと画策する冥府十神を自分の護衛兵として護らせようとしていたのである。
『冥府十神さえ復活させてしまえば、さすがの安倍晴明も到底勝ち目が無いと見える…。それに、奴は現在戦闘不能に陥っているとの噂が流れているらしいが…何れにせよ、奴を始末してしまえば人間界は我が物となる。その間に古の破壊神・幻魔大帝様を甦らせてしまえば更に状況は好転すると言うものだ…。』
さて、妖魔元帥から何とか無事難を逃れた晴明・導満・飛鳥の三人は…長い距離を歩きながら相模国・駿河国・尾張国を通過してやっとの思いで京の都へ到着したが…既に疲労困憊の状態になっており、行動を起こす気力さえ失っていたのであった…。
「飛鳥どの、大丈夫で御座いますか…。」
「私の方は大丈夫ですけど、一番気掛かりなのは晴明様の容態がどうなっているのか…それだけが心配でなりません。」
「しかし、晴明がこんな状況になっちまったのは…あの妖魔元帥が原因なのかも知れないけど、これから先どうすればいいのか…。」
「導満様、晴明様の容態も気になりますが…この事を帝様に逸早く報告しないと、晴明様だけではなく…他の皆さんに迷惑が掛かるかも知れません。」
「そんな事はない。晴明は俺たちを守ろうと必死になって戦って来たんだ…。だけど、今回ばかりはどうにもならなかった。まさか、晴明がこんな風になってしまうとは…。」
未だ以て回復する兆候すら感じない晴明は、妖魔元帥の圧倒的な重圧に耐えきれなく失意のどん底に陥ってしまうが…それでも導満と飛鳥は晴明が一日も早く回復する事を願っていたのであった。
「それはそうと、正親様たちは無事妖魔元帥を撃破する事は出来たのでしょうか…。」
「分からない…。だが、正親様なら恐らく妖魔元帥を倒したと見て間違いないだろうな…。」
「ですが、妖魔元帥もそう簡単に諦める筈がありません…。また晴明様の命を狙って襲撃する可能性だってありますから、相当気を引き締めていかないと大変な事になります。」
「飛鳥どの、正親様たちが到着するまでは…我々二人だけで晴明を守らなければならないのです。」
導満は昏睡状態になってしまった晴明を一日も早く回復する事を誰よりも願っており…飛鳥もまた心から晴明の復活を強く願っていたのだった。
すると、突然晴明の屋敷に一人の男が訪ね…帝の使者を名乗るその男は晴明にどうしても面会したいと導満に話すが、導満は少しの時間であれば面会は可能だと帝の使者に告げたのである。
「実は、帝様から伝言を預かっていて…どうしても晴明殿に伝えるよう直接面会を致したいとの仰せに御座います…。どうか、晴明殿にお目通り願いませんでしょうか…。」
「御使者殿…晴明はご覧の通り体調を崩しており、本来であれば面会謝絶なので御座いますが、本人はどうしても面会を希望しておりますので…是非ともお会い願います。」
「ありがとうございます…。これで、帝様の使者として役目を果たせると言うものです。」
しばらくして、帝の使者は晴明が床に伏せている部屋へ向かい…帝からの伝言を伝えたのである。
「晴明殿、道中恐ろしい目に遭われたそうで…心中お察し申し上げます。」
「それで御使者の方、帝様からの伝言は…。」
「先ほど帝様から、魔界の王・婆沙羅将軍が黄泉封魔塚に封印されていた冥府十神を復活させたとの通報があり…既に次の行動を起こそうとしているようなのです。」
「婆沙羅将軍め、とうとう冥府十神を復活させおったか…。まさか、現実に起きようとは…何としてでも奴等の居場所を特定して探索しないと状況は悪化するのは目に見えている。」
「晴明殿、他の皆さんにこの事をお知らせした方がよろしいのでは…。」
「待ってくれ…。これ以上みんなには迷惑を掛けたくないんだ。しばらくこの事は内密にしてくれないか…。」
遂に冥府十神が婆沙羅将軍の手によって復活を遂げ…状況は最悪の展開を見せる一方で、床に伏せている晴明は帝の使者にこの事は内密にして欲しいと釘を刺すが、果たしてこの後晴明はどの様な判断を下すのであろうか…。
そして次回、冥府十神の正体が明らかに…。
第二十二幕に続く…。




