第十八幕 九尾童子再び登場!道中手形に隠された破壊神復活の秘密
その翌日、磯鷲神社にやって来た晴明たちと上総屋は約束通り純金の簪と道中手形を携えて邪龍一族が現れるのを待っていた。
辰の下刻までまだ時間があるので暫し休息をしていたのだが、正直上総屋は邪龍一族の素性すら分からず…いったい何処から現れるのか全く予想がつかないまま時間は過ぎていったのである。
そして遂に、邪龍一族が上総屋の前に現れ…晴明たちは急いで神社の拝殿の影に隠れて様子を伺っていた。
だが、そこで見た物は…予想を遥かに超える展開が待ち構えていたのである。
『貴様が、上総屋太左衛門か…。』
「如何にも、わしが上総屋太左衛門だが…。お、お前たちはいったい何者だ。」
『我々は邪龍一族…。早速だが、純金の簪と道中手形を持ってきただろうな。』
「ああ…。純金の簪と道中手形はここにある。」
上総屋は邪龍一族の手下に純金の簪と道中手形を渡すと、手下の一人が本物の純金の簪と道中手形かどうか確認し…正真正銘の純金の簪と道中手形である事を再確認したのである。
『確かに本物の純金の簪と道中手形だが、これを何処で手に入れた…。』
「そんな事を聞いてどうする…。わしがその純金の簪と道中手形を何処で手に入れようと、お前たちに知る権利はない…。」
『知る権利がないだと…。どうやら、強引に白状させるしか道はなさそうだな…。』
「な、何をする…。」
邪龍一族が太左衛門に純金の簪と道中手形の出所を白状させようと、あらゆる手段を講じて太左衛門を窮地に追い込ませようとしたまさにその時…突然邪龍一族の前に轟音鳴り響く大爆発が起こり、一瞬の隙を突いて太左衛門はその場から離れていったが…しばらくすると太左衛門の姿を見失った邪龍一族は慌てて周囲を見渡すが、幾ら探しても何処にも見当たらなかった。
『しまった…。』
『上総屋が消えたぞ。』
『おいっ、純金の簪と道中手形も無くなっているぞ…。』
実はこの時、爆煙に紛れ混みながら晴明が邪龍一族から純金の簪と道中手形を奪っていき…それと同時に導満は上総屋を安全な場所へ誘導させて邪龍一族を混乱させていったのである。
『今の爆音はいったい何なんだ…。』
『分からない…。だが、我々の邪魔をする何者かがこの近くにいる事は間違いない…。』
『何だって…。俺たち邪龍一族の行動を妨害する輩が…近くにいるとなると相当ヤバい事が起きる可能性があるな。』
『この事を、御頭に報告しなければ…。』
手下の一人が邪龍一族の御頭と呼ばれる頭目に報告しようとしたその時だった。
「そこまでだっ…。」
磯鷲神社の拝殿から邪龍一族の行動を監視していた晴明一行と上総屋太左衛門、それに天竹屋藤兵衛が姿を現し…これまでの邪龍一族の悪事を暴露していった。
『お、お前たちはいったい何者なんだ…。』
「俺の名前は安倍晴明…。貴様たちが、噂に聞く邪龍一族か…。」
『あ、安倍晴明だと…。』
『京の都にその名を轟く稀代の陰陽師が、何故此処にいる…。』
「お前たちが純金の簪と道中手形を狙っている事を聞きつけ…遥々駆けつけて来たのさ。」
「それだけじゃないぜ…。貴様たちが遠山村で起きた殺人事件の容疑者として少し話を聞かせてもらうぞ…。」
『な、何を申すか…。我々が遠山村での事件は一切関係ない。ましてや何の証拠があって我々を下手人扱いするのだ…。』
「この期に及んで証拠呼ばわりするとは…見下げ果てた連中だな。だったら、てめぇ達の目の玉が仰天する様な証拠を…今見せてやるぜ。」
すると、導満が犯行予告に使われる半紙に書かれた予告文〔邪龍一族参上〕の文字と三つ首龍の紋章が記されていた…。
更に、同じ筆跡の予告文〔土蜘蛛党見参〕と書かれた半紙と三つ首龍の根付けが遠山村近くの石灯籠付近に落ちていたのを発見し、物的証拠として邪龍一族に突きつけたのである。
「この予告文には、てめぇ達邪龍一族の署名と…三つ首龍の紋章が記されているんだ。それに、遠山村近くの石灯籠で発見された場所には…これと同じ筆跡の予告文と三つ首龍の根付けが見つかったんだ。」
「それだけじゃない…。これまでに起きた一連の殺人事件は、すべて現場にこれと同じ予告文が置かれていた事も調べがついてる。」
「これだけ証拠が揃っているんだ。もはや言い逃れは出来ないぞ…。」
『うぬぬ…。どうやら我々の秘密を知られたからには、生きて帰す訳にはいかぬ…。』
「とうとう本性を現しやがったな…。これで、お前たちが殺人事件の下手人である事は既に明白である。」
「それに、貴様たちの悪事は…此処にいる天竺屋藤兵衛と上総屋太左衛門が唯一の証人だ。」
「これ以上罪を重ねると、地獄の閻魔大王様が天の裁きを与える事になる。だが、それでも俺たちに逆らうと言うのであれば…一切の手加減はしない。」
『ほざかしい…。我々邪龍一族の本当の恐ろしさを知らないからそんな事が言えるのだ。野郎ども、こいつ等に本物の地獄を見せてやれっ…。』
「みんな、気をつけろ…。奴等はただの盗賊ではない。決して最後まで諦めず…奴等には一切の手加減はするな。」
「晴明様、この者たちがただの盗賊ではないとは…いったいどう言う事なのですか。」
「理由は後で説明する…。とにかく今は、戦いに集中するんだ。」
そして遂に、晴明たちは邪龍一族との戦いの火蓋が切って落とされた。
「晴明、こいつ等はかなりの戦闘能力を誇る連中だ…。とてもじゃないが、奴等に太刀打ち出来ないかも知れないぞ…。」
「導満、諦めるな…。必ず何処かに奴等の弱点がある筈だ。」
「しかし、これまでの戦いとは若干異なるかと思われるが…もし弱点があるとでも言うのなら、何処を攻めればいいのか分からないぞ…。」
「そんな事はない…。奴等は恐らく相当戦いに馴れているに違いない。だから、奴等を倒すには持久戦に持ち込むしか方法がなさそうだな…。」
「持久戦…か。」
「晴明殿、悩んでいる時間は御座いませんぞ。」
「晴明、兵馬殿の申す通り…あまり悩んでいても解決出来ない事もある。だからこそ、頭で考えるより身を持って実戦するのが真の戦いってもんだろ…。」
正親の言葉に奮起した晴明は、頭で考えながら戦うのを一切打ち捨て…今後は相手の動きを先読みながら戦う事に専念していくのであった。
『頭だけで考えたって…普通に戦っても意味がない。だったら、己の身体で相手の動きを読み…精神統一を行いながら攻撃をすれば、もしかしたら今まで内に秘められた力が解放されるやも知れない…。だとしたら、もう一度変身して一気に奴等を蹴散らすしかあるまい。』
すると晴明は、印を結んで呪文を唱え…右手で五芒星と陰陽太極図を同時に描くと、金色の光に包まれながら晴明の身体が一瞬にして伝説の化身・九尾童子に変身していったのである。
「あ、あれは…。」
「あいつ、本当に晴明なのか…。」
「こんな時に限って九尾童子に変身するとは…。」
「正親様、晴明様にいったい何があったのですか。」
「晴明の奴…普段は冷静沈着な性格だが、ある一定の霊力が高まると…伝説の化身・九尾童子に変身する事が出来るんだ。その戦闘能力は…仙界最強の道士である元始天尊とほぼ同じ戦闘能力を誇る最強の童子だ。」
「あの元始天尊と同じ戦闘能力だって…。」
「晴明殿にそんな力があるとは思えないが…。」
「だけど、元始天尊と同じ戦闘能力だったら…もしかしたら婆沙羅将軍を倒せるんじゃないのか。」
「馬鹿な事を言うな…。幾ら晴明が強くなったからって…婆沙羅将軍に勝てる保証がない。」
「晴明様は…必ずきっと勝てると信じています。」
「飛鳥どの、そなたの強い心が晴明を更に強くする…。だから今は、晴明を信じよう…。」
と、その時…晴明は不穏な気配を察知し、正親たちを安全な場所へ避難するよう促していった。
「みんな、危ないから…今すぐ此処を離れるんだ。」
「晴明、お前一人で戦うなんて無茶だぞ…。」
しかし晴明は、これ以上仲間を傷つける訳にはいかないと言う強い信念で邪龍一族に戦い挑むと言うのである。
「待て、後は晴明に任せるとしよう…。今の晴明の力なら邪龍一族に勝てるかも知れないからな…。」
「正親殿、晴明様一人で戦うなんてあまりにも無謀と言うものです…。私も晴明様と共に戦います。仙界道士の一人として、これ以上の悪政を許す訳には参りません。」
太公望はこの世を乱す悪を晴明と共に戦うと正親に懇願していくが、正親は決して手を出す事を一切許さないと太公望に釘を刺していった。
だが、太公望は仙界道士の意地と誇りに掛けて晴明たちと共に戦う事を改めて正親に進言するのだった。
「太公望殿がそこまで申されるのであれば、晴明と共に奴等を倒してくれないか…。」
「正親殿、貴方様のその御心遣い…この太公望の胸に刻み置きましょう。ですが、これより先は神の領域であるのと同時に…普通の人間が立ち入る事を許されない禁断の戦場。どうか、手出しだけは為さらぬよう…願い奉ります。」
「太公望殿、万事心得た…。だが、あまり無茶を為さらぬよう…晴明の援護を頼み申す。」
「分かりました…。」
そして遂に、太公望も晴明と共に邪龍一族との決戦に参戦し…これまでに無い壮絶な戦いが始まろうとしていた。
「晴明様、奴等から漂う邪悪な障気に気をつけて下さいませ…。」
「太公望殿、その心配には及びません…。奴等の動きや気配さえ分かれば、ほんの一瞬で全滅させる事が出来ましょう。しかし、相手はかなりの人数ゆえ…一気に決着をつけるしか方法が御座らぬ。」
「まさか、あの必殺技を使うとでも申されるのか。」
「左様…。本来ならば、こんな連中にあの術を使うのは気が引けるが…これだけ障気を纏っている邪龍一族に使うなんて正直馬鹿馬鹿しいと思っていた。しかし、今思えばこの世を支配する婆沙羅将軍を含む悪党共を許さないと言う正義の心に目覚めた以上…もはや選択の余地はないとでも言った方が賢いかもな。」
「晴明様にその様なお考えがあったとは…。ならば、残された選択はただ一つ…一気に邪龍一族を滅ぼすしか道は御座いません。」
「そうだな…。あまりぐずぐずしていると、こっちが劣勢になる可能性があるから…私と太公望殿の術で全滅させていくしか方法がなさそうだ。」
そして、晴明と太公望はお互い精神を集中させて邪龍一族を一気に全滅させようと術を施していった。
『天地轟雷・隠敵滅殺…奥義・龍狐烈風陣。』
晴明と太公望が繰り出した必殺技である奥義・龍狐烈風陣が邪龍一族を一瞬のうちに撃滅させていったが、まだ戦いは終わっておらず…晴明たちにただならぬ緊張感が走ったのであった。
「晴明様、まだこの近くに想像を遥かに超える恐ろしい障気を感じます…。」
「確かに…。今までになかった世にも恐ろしい障気が犇々(ひしひし)と伝わって来る…。」
「晴明、いったい何が起ころうとしているんだ。」
「兄弟子、どうやら邪龍一族の親玉がもうすぐ現れるようです。」
「それは本当か…。」
「間違いありません。」
「晴明様、あれを…。」
太公望が指を刺す方向には…不気味に漂う漆黒の塊が晴明たちの前に現れ、その漆黒の塊から鉄仮面を着けた邪龍一族の頭目・雑賀幻妖斎が姿を現した。
『我が名は雑賀幻妖斎…。邪龍一族の首領である。』
「貴様が邪龍一族の首領か…。」
『そう言う貴殿は、噂に聞く安倍晴明か…。よくも我の手下たちを倒してくれたな…。だが、貴殿が持つ純金の簪と道中手形を所持している事は既に承知しておる。何故ならば、その手形には伝説の海賊王・夜叉神の甚兵衛が隠したとされる埋蔵金の暗号文が記されているからな…。』
「な、何故それを知っている…。」
『過去にも、それに似た暗号文を手に入れた事があってな…。そいつがどんな意味を示すのか、貴殿には分かるまい…。』
「どう言う意味だ…。」
『まだ分からないのか…。その手形に記されている暗号文のもう一つの意味を…。』
「この手形に隠された…もう一つの意味だって。」
『そう、その手形に隠されたもう一つの意味…それは、この世を滅ぼす破壊神の復活を示す暗号文が隠されている事を…。』
「は、破壊神の復活…。」
邪龍一族の首領・雑賀幻妖斎から衝撃の真実を告げられた晴明たちは、手形に隠された破壊神復活の暗号文が隠されている事を知るのだが、果たして破壊神復活に隠された暗号文の秘密とは…。
第十九幕に続く…。