第八話
「そもそもこの世界の種族で、人間以外のものに黒髪黒眼の者はおらぬ。髪が黒いとか、目が黒いといったのは数は少ないが人間以外にもいるが、どちらも黒というのはいない。それに貴重だからと奴隷商人などにつかまって高額で取引がされる事例もかつてあった。何かしらの手段を使ってどちらかの色を変えた方を余は勧めたい。余がそなたに言いたかったことの1つはそれだ。」
……さっきからの王様の発言とか、ここに来るまでにイリアスさんから聞いた話とかで何となくそうじゃないかなという気はしていたものの、予想以上に人間の数が少なくて現在軽く放心状態です。え、何それ、この世界の人間どれだけ貴重種なの?つか奴隷?この世界は奴隷制度があるの?とか考えているとどうやらそのことが顔に出てしまったらしく、フランシスカ王様は苦い顔で目を伏せた。
「本来奴隷などという制度は我が国はもちろん、他の国でも許されぬ行為の筈だ。しかし表向きには廃止にされていても、実際には何十人も所有している貴族もいる。」
なるほど、言っちゃ悪いがよくある話だと思う。しかしそれでも自分と同じ人間が少数しかおらず、しかも私みたいな黒髪黒眼の人は奴隷にされる可能性が高いという話は、聞いていてあまりいい気分じゃない。
「もっとも、そなたのいた世界ではどうだったのかは知らぬがな……。」
「…我が王?失礼ですが先ほどのそれは一体どういう意味ですか?そなたのいた世界?」
そう言えばフランシスカ王様はさっきから、まるで私がこの世界の出ではないものに説明しているかのようにしている素振りがある。どういうことだ?
「イリアス殿、気付いていなかったのですか?彼女はこの『スカイグラッド』の世界の住人ではありませんよ?おそらく異世界の住人です。」
「何?異世界?」
「……ちょっ」
「ネフィリム、急にそのようなことを言われても普通はわからぬ。そもそもこの世界以外にも世界があるということは、各国の王族や神殿の一部にしか伝わっておらぬ、まずはそこから説明する必要が「待って待って待って!!」うむ?」
「な、なんで私が異世界の人間だと?私、そのことはまだ誰にも話してないのですが……。」
本気で焦った、死ぬほど焦った。モリガンさんに剣突き付けられた時よりも、夢で喉にナイフ突き付けられてた時よりも焦った。何で?どうして?
「……余やネフィリムの種族、魔帝族の種族の男性には先ほど話した以外にももう一つ特徴があってな、他人の心を見抜くことができるのだ。具体的なことはわからぬが、大雑把な感情の揺れや、大体の考えを知ることはできる。そして女性の方は百発百中の予言をすることができるのだが、この国の后、まあ余の妻なのだが、そやつがつい三日ほど前に新たな予言をしてな、そこに『黒髪黒眼の異世界の住人がこの世界にやってくる』というものがあったのだ。」
「……つまり王様は、最初から私がこの世界の住人ではないと、知っていたんですか……?」
「すまぬ、だがあの場でそれを言うわけにはいかなかった。」
……最初は驚いたが、少し冷静になって考えてみると確かにあの場で言うわけにはいかなかっただろうな、と思った。フランシスカ王様によると異世界の存在を知っているのは王族だけで、あの場にいた人の中ではそれは彼しかいないのだから、周りに説明しようとしても下手したら反感を買うだけだ、なら仕方ないか……。
「…申し訳ございません、私の方は少し落ち着きました。ですが、イリアス様にも説明せねばならないのではないですか?まだ混乱しているようですが。」
「まぁ、最初からイリアスにはこのことを説明しようと思って残ってもらったからな。イリアスよ、よく聴いてくれ……。」
――――――説明中――――――
「…全てに納得はしていませんが、大方の事態を把握することはできました。」
「今はまだそれで良い、最初はだれでもそうだ。」
あれから少し場所を変えて、私たちは謁見の間に近いフランシスカ王様の執務室に入った。というのも話が長引きそうだったので、ネフィリム様がゆっくり座りながらの方がいいのではという考えを王様が肯定してこうなったのだ。現に私がこの城に入る前はまだ高いところにあった太陽が、今は大分傾いて目の前にある。まぶしい!!と思っていたら天井からメイドさんが降ってきてカーテンを閉め、また天井に戻っていった。
「(何で天井なんだ……。)」
「彼女らはこの城に忍び込んでいるスパイを捕縛する役もしていますから、作法と同時進行でああいったことも教え込まれています。」
「って、やっぱりそういう人たちなんですか…。」
というか勝手に心を読まないでほしい、何だかこっちのプライベートが勝手に覗かれているようで少し落ち着かない。
「その、魔帝族の特徴の心を読むっていうのって、自分である程度制限させることは出来ないんですか?」
「出来るにはできますが……私はまだ未熟者で、そうしていても勝手に人の心理状況が判ってしまう時があるのです。不快に感じたらなら申し訳ありません。」
「あぁ、いえ。そういえばネフィリム様はおいくつなんですか?」
「今年で72歳になります。我らは途中まではあなた方人間と同じ成長速度なのですが、20になるとそれが一度止まり、以後5500年ほどはずっとそのままです。」
それはそれで羨ましいようなそうでもないような、うーん。
「アヤネよ、まだ話すことはあるのだがよいか?」
「はい、大丈夫です。というかイリアスさn…イリアス様はもう大丈夫なんですか?」
「少なくともあなたがこの世界のことをほとんど知らないということは何となくわかった。」
「まぁ今はこれで充分であろう。」
それもそうか。
「それでアヤネよ、先にイリアスが申した通りそなたはおそらくこの世界のことをほとんど知らぬ筈だ。それでこれからしばらくの間、イリアスに師事してこの世界のことを学んでほしい。」
「へっ?でもイリアス様はこの国の騎士団長ですよね?まさか私に騎士団に入れと?」
「いや、そなたにはまた別の役を与えるつもりではあるが、それはまた後々だ。それにイリアスには明日からしばらく休暇を出すつもりだったのだ。そういう意味でもちょうど良い。」
「お、お待ち下さい我が王!!休暇とは何ですか!?私は今初めてお聞きしましたよ!?」
「ええいうるさい!!ここ30年近く有休もとらずに毎日毎日働きおって!お陰で家臣の何人かが仕事をとられたと泣き付いてきたのだぞ!そんな余の身にもなれ!!」
なるほど、それは確かに休みを出されても仕方ない気がする。というか三十年って!!どれだけ仕事大好きなのこの人!?あとフランシスカ王様が何か急にキャラ崩壊起こしたのは何で?
「イリアス殿はまだ未婚で家族もおらず、屋敷はメイドや召使に任せっきりにしていて普段は城に泊っているのでついでと言わんばかりに仕事をしていて、父上の性格は元はああなのですが今日はただ普段よりおとなしかっただけです。」
「だから勝手に心を読まないで下さい!」
…ひょっとしてこの人も猫かぶってるだけで、わざとやってるんじゃないだろうな?
「とにかくアヤネとイリアスは今日はこちらに泊まってもらうが、明日から一月はイリアスは武装しての入城を禁ずる!!そしてその間は久しぶりに己の屋敷に戻ってもらうぞ!アヤネにもそちらへ行ってもらう!」
「そんな!!」
っていうか私もかい!!別に構わないし、イリアスさんの屋敷がどんなのか気になるからいいけど!!にしても急に何かギャグ調になったなぁ~。
「じゃあまぁ、明日からよろしくお願いします。イリアス……先生?」
その瞬間のフランシスカ王様の怒りながらも勝ち誇ったような顔と、イリアスさんの負けを悟って呆れきった顔はなかなか印象的だった。
というわけでアヤネさん、イリアスさんに師事することになりました。
後半からギャグ調になってしまったのは、すみません趣味です……。