第五話
外で雪が屋根から落ちてってます。結構うるさいwww
あれからおおよそ20分ほど、私は団長さんの乗っている馬に一緒に乗せてもらって移動している。というのも、生粋の現代っ子である私が馬に乗れるわけもなく、そのことを団長さんに話すと少し意外そうに首を傾げてから、急に「なら私の馬に乗るか?」と言ってきたのである。さすがに団長さんに歩かせるわけにもいかなかったので必死に断ったのだが、その直後にひょいっと抱えあげられてしまい、相乗りすることになったのである。どうしてこうなった。
「……だから、私の事はイリアスと呼んでくれればいい。」
「へっ?」
「イリアスだ。堅苦しく呼ばれるのは好きでないのでな、普通にそう呼んでくれればいい。」
「あっ、はぁ、まぁ…わかりました。」
…あくまで私が驚いたのは、彼の名前がたまたま私のオリキャラと同じだったからで(ただし男性ではなく女性だ)決して話を聞いていなかったからではない。断じて!!
「そう言うあなたの名前は一体何だ?考えてみれば、まだ尋ねていなかった。」
「ああ、そうでした。私の名前はアヤネ・キサラギといいます。」
「…変わった名前だな。」
「…よく言われます。」
一応この世界は名前が先に来るヨーロッパ・アメリカ風のようだったのでそれに準じておいたが、そもそもの名前の発音の仕方が日本式だからやっぱり違和感を感じる。しかしかといって仮の名を使うにしても、それで反応できなかったら意味がないのでこのままでいくことにする。
「えっとその、1つ変なことを聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「その頭の角は一体何ですか?」
言った途端にきょとんとした感じで無言になってしまった。しかしこうやってみるとこの人隠れ美形だなー、全体的なバランスもいいし眼元とかいい感じで色気があるし……私は今何を考えていたんだ。というか我ながら呑気だな、仮にも監視付きで護送中なのに。
「…竜人族を知らないのか?」
「……すみません、周りが人しかいないところ出なので。」
「…そうか、なら説明しよう。」
それからイリアスさんが説明してくれたところによると、彼は竜人族と呼ばれるこの世界でも少数の種族の1人だということ。人に近い姿の種族と竜の間に生まれるので、人に近い姿にもドラゴンの姿にもなれるということ。基本的に寿命が長く、彼自身は今180歳ほどらしいが、人間の年齢に換算するとまだ13歳ぐらいだということ。基本的に魔力探知に優れていて、かなり遠いところにある魔力の塊も判別できるということ。そんなことを教えてもらった。
「(だから角なのか、しかし聞けば聞くほど私好みだな…)あれ?じゃあもしかして、最初から私の存在には気づいていたんですか?」
「ああ、急に魔力が変な形に歪んでな。そこからあなたの魔力を感じた。」
…最初のあのやり取りは一体何だったんだろう……。
それからまた暫く馬に揺られ続けると、やがて私が腕に付けているpip-boy3000もどきと同じような色の大きな門が見えてきた。両側にはそれより若干黒っぽいものの、頑丈そうな城壁が見渡す限りに広がっており、所々に歩哨っぽい姿も見える。あ、ちなみに私は元々かなりの近眼だったのだが、こちらに来た時に付けられた身体能力強化のおかげか、眼鏡が無くてもかなり遠くの形まで判別できるようになっている。眼鏡は折角なので腕輪の中だ。
「あれが私の仕える国、『アルカディア王国』の門だ。」
それを聞いて、私はとうとうなのかなと不意に思った。何がとうとうなのかというのはまぁ、この際詳しくは言わないでおく。
「私はこれから王に謁見の許可をもらってくる。それまでこの部屋でゆっくりしていて欲しい。何か欲しいものがあれば、そこの机の上にある呼び鈴を鳴らせばメイドが来るようになっているから彼女らに頼めばいい。」
「はい、わかりました。」
というわけで急に場面が飛んで、現在はアルカディア王国の城にある応接室みたいなところにいます。少し意外に思ったのは、この国の王族はどうも質素な生活を好んでいるようだということだ。なにせ城下町はかなりにぎわっていたし、国力が無いというわけでもなさそうなのに、王城の中はそれほど豪華でもないのだ。確かに上品な高級感はあるものの、そんなにじゃらじゃらした、いわゆるシャンデリア系のものはあまり無い。まぁ私は結構気に入ったが。
「(う~む、流石にこの恰好のままというのもどうなんだろうか。)」
この部屋に入って確認してみたのだが、足に履いていた靴下はボロボロになっていて使い物にならなくなっており、しかもズボンの裾に至るまで結構汚れていた。さすがにこのまま王様の前に出るというのは個人的に気がひけたため、呼び鈴を鳴らして本当に現れたメイドさん(何故か天井から降ってきた)に頼んで着替えをしてもいいか聞いてみた。彼女は一応監視付きという条件上こちらを見ながらであったが、許可してくれたため腕輪の中にいつの間にか入っていた自室の服に着替えることにする。
「(…視線が結構気になる。)」
まぁそこは監視なので我慢する。着替えたのは夏用の白っぽいマキシ丈スカートで、流石にそれだけだと少し肌寒かったので下に黒いレギンスを穿いた。上も着替えたかったが流石に少し気がひけたので、カーディガンを脱ぐだけにする。足元は結局適当なものが無かったので、メイドさんに頼んで足を拭く布で軽く汚れを取ってそのままにしておくことにした。
「えっと、着替え終わりました。」
「わかりました、他に何か要望はおありですか?」
「今は特にないです。」
「そうですか、では。」
言うや否や、そのメイドさんはまた天井に跳んでいった。あの人もしかしてスパイなんかも兼ねてるんじゃないだろうか?
さて、不本意ながら少し暇が出来たので少し忘れがちになっていた『能力の創造』について幾つか追加しておくことにする。これは腕輪と違って頭の中でイメージするだけでいいので、比較的周りの目を気にせずに済む。
「(とりあえず不老不死とかそんなのは要らんから、『周囲の気配把握』と『空間の創造』今のところはこれだけで十分かな?)」
正直な話、最初に作った『想像の具象化』だけで大体の事は出来るようになってしまっているからあまり新しい能力を作らなくても良かったのである。というわけでその作業はすぐに終わってしまった。
「(あ、でも『周囲の気配把握』のお陰で、どこに誰がいるかもう一瞬で分かるようになった。もうすぐイリアスさんがここに来るな。)」
コンコン
「私だ、王の謁見の許可が下ったのでこちらにきた。中に入っても良いだろうか。」
「はい、どうぞ。」
そしてイリアスさんは部屋に入ってきた。しかし彼、これまでのやり取りからも思っていたけど相当な紳士と見たね。ちゃんとノックして声を掛けてから入ってくるなんて人初めて見たよ。
「…着替えたのか?そのような荷はどこにも見当たらなかったが。」
「あー、服だけなら何とか入る収納スペースを作れる魔法を知ってるんで、そこに入れてたのを出したんです。」
うーむ、流石にこの言い訳は厳しいか?
「…そうか、まぁいい。あなたは私の後ろでひざまづいて静かにしていてくれればいい。何か聞かれたら、私と話しているような口調で、できるだけ丁寧に言ってくれればいい。」
通用した!いや納得はしてないっぽいけど、ひとまず追及はしないようだ。
「はい、わかりました。」
「よし、では行こう。」
さて、いよいよ王様と対面するようです。
予想以上に長くなった感が否めません。基本的に1000字前後で収めたいのですが…。書きたいことを書いてるといつの間にか長くなっています。
ちなみに腕輪は本人が意識していない時は他人からは無い存在となっています。つまり見えてません。つくづく便利な腕輪です。