第三話
今回は新キャラSideのみです。
Side:???
随分長い間、この国の騎士団をまとめていると我ながら思う。
私は今回、グランドールというモンスターの討伐依頼を受けて一団を率いていた。体長は20フィートをはるかに超え、本来なら大人しいはずの性格が何故か凶暴化しているらしく、すでにかなりの被害報告が上っていたため、依頼が出されなくても近日中に討伐団が結成される予定だった。
そして国から討伐隊を率いて、主に被害が多発している地帯へ向かっている最中にそれは起こった。
「―――――――」
「む?」
不意にその周辺の魔力が不自然にぶれた、というべきか。私の一族は魔力の探知能力に優れているのが一つの強みだが、先代ほどではないにしろ私もその能力がひときわ強い部類に入る。それで分かったのだが、どうやらそのぶれた魔力のあたりにさらに強い魔力をもつ個体が出現したようだったのだ。しかしその魔力と反比例するかのように、個体そのものの大きさはさほどのものではない。
「(吸血鬼か妖精か?)」
しかしすぐにその考えを消した。というのもこの世界には転移魔法というものは存在するが、それを使っても空間の魔力はぶれることがない。つまりその強大な魔力の持ち主は転移魔法以外の方法で突然その場所に現れたということになるのだが、現状そのような方法はおそらく考えられていないはずだった。
「(……まずいな、グランドールがあれに気付いた。)」
突然現れたその強烈な存在にグランドールが気付かないはずもない。どうやらこちらに向かっているらしいあれはまだそのことに気付いていないようだったが、おそらくそいつと我らが出会う前にグランドールと交戦するのは間違いなさそうだった。だがそれはそれでまずい。私は討伐隊の進軍速度を上げることにした。
「全隊に告ぐ!!これより進軍速度を上げる!途中で体力の持ちそうにないと判断した者は声を上げよ!!」
それだけ告げて先頭の速度調節者に、もう少し速度を上げるように伝えておいた。
やがて右手前方に岩山が見えてきたあたりで、グランドールらしき影を発見した。幸いにもこちらが風下になっているおかげで向こうには気づかれていないらしいが、どうも様子がおかしい。合図をしてさらにそちらへ近付く。
――――ズゴァッ
「なぁっ!?」
急に魔力が膨れ上がったかと思えば、グランドールの前方から黒い衝撃波の様なものが放たれた。それはグランドールを貫き、我らの隊のすぐ横を過ぎていってようやく消えた。そしてこれは私にしか判らなかっただろうが、その衝撃波が放たれたのは件の強力な魔力を持つ者からだった。
無言で私は乗っていた馬の腹を蹴り、馬を走らせた。先ほどのことに動揺していた隊の者達が、遅れて付いてくるのが気配で分かった。
まもなくグランドールの所に全員が到着した。それは予想以上に酷い事になっており、頭部は完全に消滅、胴体も臓器のほとんどをやられているらしくその部分だけへこんでいる。なまじ元の姿が奇怪だっただけにより醜悪な姿だったが、私の興味はすぐに別の所へ移ってしまった。
先ほどから強大な魔力を放っていた存在がすぐそこにいたのである。
姿は人間の女性のものだが、見たこともない白い上着と青みのあるズボンをはき、この世界では珍しい黒い髪を後ろで一つにくくったその姿はますます奇妙だった。顔は違う方向を向いているため全体を把握できないが、やはり珍しい黒い瞳が印象的だった。しかしまったく荷物を持たないその姿はこのような何もないところではおかしく、私はそれに声をかけた。
「失礼、そこのもの。このグランドールを倒したのはあなたか?」
そうして彼女は私、イリアス=バーク・アルバレストに顔を向けた。
というわけで新キャラ登場、騎士団長です。基本的に優しい人で、部下からは慕われています。
本当は彩音Sideも書こうとしていたのですが、予想以上に長くなりそうだったのでわけました。