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第三九代目夏上家当主――夏上野乃月の災難 最終章 ニーハイソックス・ソルジャーズ

 第三九代目夏上家当主――夏上野乃月の災難 


 最終章 ニーハイソックス・ソルジャー



 夏上野乃月なつがみののづきはただの一七歳の高校生だ。

 家はそれほどのお金持ちではないし、貧乏でもない。気立てはまぁ……その外見を良く裏切ると言われている。本人は無自覚である。趣味は本屋巡り。インドア派であり、『私、オタク。もういいや』何がもういいのかはわからずとも自覚して、フィギュアのパンツを覗き込む事だって厭わなくなってきた。

 そんな自分がちょっと怖い。そんなお☆年☆頃☆。

 ……☆。

 まぁそれは置いといて。

 そう、置いとくだけでいい。真実なんて語らなくていい。

 夏とは魔物……。

 大丈夫。

 夏休みはまだ後一日ある。例え今日が八月三十一日だとしても、時間的に見れば、九月一日までには二十四時間の猶予がある!

 あった……はずなんだ……☆。

 まぁとにかく、

 彼女が普通の高校生と違うのは、式神と契約している、という『一点』だけだ。

 それ以外は……まぁ、なんだろう? 見た目と中身が以外と裏腹っていう所くらいだろうか? まぁでも、その辺りは人間なら誰しも持ってる物なので、さしたる特徴とは言えないかも知れない。



 兎に角――



 夏上家は廃れた陰陽師の家系で、野乃月はそこの暫定的当主なのだ。



 *



『乙女ゲームなう』


 私は汗だくになりながらもひたすらパソコンゲームをしております。夏です。……夏なんです。じっとりとしていて、そこはかとなくまとわりついてくる水分の嵐っ! 嵐! 嵐! いぇーい……アッヅゥゥゥゥイっ! まぁ夏と言えば『クーラー』かも知れませんが我が家にクーラーは一台しかなく、それはすでに一階のリビングルームに設置してあるわけで。

 三十アンペアでしか契約していない我が家にクーラー二台置きは不可能と相成るわけです。

 つまり、私とといて夏とかけると扇風機と相成るわけです。

 我ながら上手い事言いました。

 ……。

 こほん。

 とにかく。

 脳内で自分を『あー、よしよし。あしゃあしゃあしゃあ』とベタぼめをしてから現実と向き合います。


 ……暑い。


 したたる汗をぬぐいつつ画面に向き直ります。

 汗がしたたるオタク女子……。

 えぇ、私の事です、それは。

 昨日はおばあちゃん家に呼び出され、夏上家の秘儀を習ってきました。果たして、その秘儀を使う機会が……というか使えるのかどうかはわかりませんが、とにかく習ってきました。それにしても……暑いです。

 汗に濡れた前髪がちょっとうっとうしいですね。なので左側はヘアピンで止めてあります。それでも、むわっとくるような暑さ……。

 ぶぉおおおおおと扇風機の音が木霊し、パソコンはパソコンで空冷してますがやはり限界があり『ふぇえええええ』とひたすら泣き叫び、まぁある意味それにひたすら昂奮している私は色気もクソもなく、ひたすら乙女ゲーなう。とにかく乙女ゲームなう。ぐひっひぬっふひふ。ぬかこぽぉ……汗だくです。

 休日と言えば布団に潜り込んで、というかだらけてラノベをふんふん読み漁るのもたまらないですが、ちょっとえっと、攻略対象に似た感じのいえなんでもありません別に野乃樹の話とかではなくとにかく、恋愛の機微が解る耳年増の夏上野乃ちゃん――つまり私は攻略真っ最中であり、髪はぼさぼさ、そもそも化粧はしておらず、前髪は片方垂れたまま(しかも汗だく)――ちょっと女の子としては『ないわぁ』と言われるのは確実な姿で目は血走り、最早なんていうか軽い夜叉とかそんな感じじゃないでしょうか? 男に逃げられる感じですね。もう確実。えぇ。画面の中の男の子がそんな私(ゲーム内の)を見ながら『そんな姿も素敵だ』なんて台詞を言っています。ぐへへへへ。

 変なヨダレが垂れてきそうです。困った困った。

 つまり対外的に見せている顔ではなく家の中で無防備なわけでして年頃の娘なら決して男の子には見せないような姿なわけでしてそしてヨダレを垂らしている変な汗も噴き出ているかも知れずいやさどうしてこうなったのかと、

「野乃月ー」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ!?」

「うぇえええええええええええ!? 野乃月!? なんでいきなり殴り掛かってきたの!?」

「その記憶を抹消してください!」



 となるのは当然なわけです。



「口から垂れてるのはただの涙であって涎じゃないんですぅううううううう!」

「ごまかせてない! それはごまかせてないよねぇえええええ!?」

「じゅるっ」

 ちっ……

「ほら……ていうかおぃいいいいいいいいいいいいい!? なんでベース振りかぶったの!? 買って以来一度も使ってないベースを! 死ぬ! 死んじゃぅううううううううう!」

「そんな品物説明は要りません! ていうか今の為です! 今使うために買ったんですぅううううう! 野乃樹を撲殺しろ! もしくは押し倒……いやなんでもありません! とにかくそうベースが語りかけて来るんです!」

 ぶんぶんと振りまくります。

「全然心温まるエピソードじゃないね!? ベースとしての存在理由の全否定だね!」

「バットは振らなければ始まらないんです!」

「少なくともベースは振るもんじゃないよね! 弾くもんだよ! ていうか扉開けっ放しの野乃月が悪いんじゃないかなぁ!?」

「そういう核心を突いた台詞は禁止ですぅ!」

「だから危ないって!?」

 右に左に躱す野乃樹を追い詰めて、いざと振り上げた瞬間――



「……ていうかパソコンつけっぱなしだけど」




「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?」




 ……そんな休日の始まりでした。



 *



 野乃樹に連れ出され(一応葉月さんからの依頼だと言うので)姉さんに文句を言ってから『ドーナッツ買っておくからね(姉さん)』『……仕方ないですね(私)』『ちょろいよねっ!?(野乃樹)』なんてやり取りをしつつ、流石に汗だく(+変な液体)でねっとりとしていたので、シャワーを浴びて、ちょっと化粧をしました。そりゃまぁ年頃ですし?


 一応。


 確かにだいぶ女の子としてやばい領域に踏み込んでいたような気がししますががすますががががぴー……とにかく。



 ……ていうか休日とかこう描く理由あるんでしょうか?



 もっと学生生活とか昔からの流行り通りやるべきしょう?

 つーかアレじゃないですか? もうなんていうか、乙女ゲー全開マックス! 最初からクライマックスだぜ! の私を見た野乃樹はきっと無茶苦茶ひいてるに違い有りません。それでもまぁ付き合ってるのは私の式神だからでしょうし。

 今だって私は『さて……どうやって理由をつけて野乃樹の手を握るべきか……? いやしかし! そこをあえて!』なんてどうしようもない考えで悶々としていますからね。


 何をあえてなんですか……! 私……!


 もう自分突っ込み絶好調ですよ! だいぶキテますよ! これ! きっとおばあちゃんの性!


 もう……そういう事にしてくらさい……。


 ていうか。


 もう逆にする必要なんてないのに『逆にさ』なんて言ってしまいそうな自分がヤヴァイ……!!



 逆にもう繋いじゃうべきなんじゃないでしょうか!



 しかしまぁそんな自問自答なんて別段まるで気付かないこの鈍感男。

 千代野乃樹は件の探偵事務初に差し向ける足は迷いはなく、と思ったら、

 ――コンビニに入ってアイスを買ってきました。

「ほい」

 ……。

 ……むむ?

「パピコ好きだろ?」

「いやまぁ……そりゃ好きですけど」

「ほれ」

 そう言って手渡す野乃樹になんでしょう。うん。

 認めましょう!

 此奴格好良い!

 ただの変態だと思ってましたが実際顔と言動のギャップは結構ヒドイ物がありますが此奴格好良いです! 何ソレ! 素敵!

 そしてちゅっちゅ吸い始めたそのパピコを吸いたい!

 いかん!



 私が変態化しています!



 知っていましたけどね!



 ……こほん。

 ……あー、あー。

 一眼鏡。二眼鏡。三メガね。――ギガバイト!



 良し。



 ……我ながら謎の呪紋ですが、とりあえず唱えて気を落ち着かせます。暑さが悪いんです……そうなんです! そう、気を保て。私はむらむらして童貞を食いたいただの押し掛け異世界人! そういう設定で行くんだ! むらむらしてるんです!

「頂きます」

「あ、うん」

「ていうか交換しませんか?」

「いやなんで!? まだ野乃月食べてないよね!?」

 言った瞬間、何故か『あっ、しまった』という表情をした野乃樹。……何がしまったんでしょうか? 視線を下にさげてみても、特に問題があるように見えませんが……?

「野乃月さん!? 何処見てるんですかね!?」

「ふぐぐぐ……! 渡してくださいぃいいいいい!」

 とりあえず間髪入れずガッツいてみました。

「いやわかったけど! 距離が近い! ていうか鼻血出そうだから! ちょっと! 聞いてる!?」

「今の所ライバルキャラがいないですけど、野乃樹を狙ってるのはきっと一人や二人じゃ済まなく、ちょっと機会があれば誰でも狙ってるからぁああああああああ! ぅおりゃあああああああああああああああ! 覚醒するんだっ! 我が右手!」

「ていうかなんでそんなに必死にパピコに食いつこうとしてるの!? 後覚醒する必要ないよね!?」

「そこに黄金郷エルドラドがあるなら!」

「まるで何一つ納得いかない理由だよね!?」

「えぇい! いいから寄越してください! ちゅっちゅっ」

「ていうか何で自分のパピコを吸い始めた!?」



「陰陽術――『縛』――縛れ! 我が『弦』! そして『括れ』! ――『縛・烈』!」



「第二詠唱!? なんで本気で!? てかマジで!? えぇ!? 野乃月!?」

 周囲に散らされた呪力がそれぞれに『形』を取り――、一気に『弦』が野乃樹に襲いかかります。式神を憑けていても、発動していない野乃樹に抗う手段を用意する時間はなく、為す術なく縛られ――

「どりゃあああああ!」

「ふぉがっ!?」

 私は此処で野乃樹の口にパピコを突っ込み、突っ込まれたパピコと溢れ出す鼻血――最早立派な変態としての覚醒を終えた野乃樹を見て私はちょっと誇らしい気分です。

 どうやら私の中二パワーが勝ったらしいですね。

「……」

 しかしちゅっちゅとパピコを吸い始めて思いますが……私、何してるんですかね?

 とりあえず……うん。

 目的は果たした。大丈夫だ。セーフセーフ。

 これくらい、女の子として当然の欲望です。

 生の女子高生というのは結構色々と具体的なんですぅうううううう!

 まぁ、

 そのなんですかね。

 ……本当に、おばあちゃんの性だと思います……。

「……まぁ気にしない事にしましょう」

 私はパピコを口に咥えて腕組みをしながらうんうんと頷きます。



 ――甘露!



「いいから術を解いてくれないかなぁ!?」

 ちゅっちゅっちゅっちゅ……とりあえずまずはパピコを無言で吸います。

「奪い取らないよ!」

「いいえ。信用なりません。そんな一瞬でパピコを吸い尽くす程好きなら絶対私が奪い取ったパピコを奪いにきます」

「そ、それは、アレだ。早い所言わなきゃと思ったし野乃月の――」

「やっぱり野乃樹から奪った私のパピコを狙うんですね!」

「罪悪感抱いているわけ!? ていうかまた台詞が潰された! なんで!?」

「べ、別にそんなんじゃ……ないです。えいっ!」

「なんで締め付けを強めた!? っておぃ!なんかでちゃぅうううううううううううううう! らめぇえええええええええええええええ! 逆に逆流しちゃぅううううううううううう! なんからめぇえええええっ、ひぎぃいいいいいいいいいいい……」

 なんかちょっと見せちゃいけない表情で悶える野乃樹という珍しい光景にちょっと嬉しい変態な自分に恐怖しつつ、とりあえず、真面目に探偵事務所に行くことにしました。



 *



 事務所につくと、

「あら? 野乃月?」

「葵さん。お久しぶりです」

 葉月さんの式神――月乃葉葵さんがソファでごろ寝をしていました。

 ……葉月さんが居るとしゃきっとしていますが、割と葉月さんが居ないとこんなんです。凄い美人ですが。普段は大概葉月さんの用事で出歩いているレアキャラです。

「……で、なんで野乃樹は引き摺られてるの?」

「ま、まぁ……その、諸事情がありまして」

「ふぅん……随分幸せそうな表情でオチてるわね……」

 とりあえず野乃樹を開いてるソファに横にさせます。ぽいっと。

「というか、……野乃月、『妖』力使えたのね」

「へ? 妖力……ですか?」

 いやまぁ確かに普段の私に野乃樹を引き摺る筋力はないです。故に、『呪』力を使って運べるような筋力を仮構築していたつもりだったのですが……

 ちなみに妖力というのは式神の基本的な使用エネルギーで、周囲からちょっとずつ借りる(例えばその辺のアイスクリームとか道端で咲いている花とかから)力を指して、

 呪力というのは内的なカロリーと根性、というか精神力を指します。

「これは妖力なんですか……?」

「そうみたいね……吸った?」

「……」

「ふーん……ふふーん?」

 とりあえず何を吸ったかスルーします。ほっぺが赤くなったのは別にそういうことじゃないんだからね! なんて言う必要もないのはとりあえず置いておいて。

 葵さんがソファからその肢体(妖艶です! 眼福! はぁはぁ)を起こし、私の腕を取ります。

「……うん、凄く『馴染んでる』」

「……『馴染む』、ですか?」

「そ」

 そう言って、私の掌の上に飴玉を乗せます。

 すると、その飴玉がするするとほどけていくかのように、私の掌に吸い込まれました。

「無自覚だったけど、野乃樹の妖力に触れて、妖力が使えるようになったようね……うん、馴染んでる」

 確かに『馴染んでる』のでしょう。ごく普通に、『呪』力を使う感覚で使っていた、というのですから。

 普通、『妖』力は扱いが難しく、『呪』力に慣れていればいるほど、扱うのが難しいらしいのですから。

「普通、『入れ替え(スイッチ)』が得意でも、他人の妖力を吸い込むとなると、そうはいかないわ。……いや、『入れ替え(スイッチ)』が得意だからこそ、と言うべきかしら?……野乃月、貴女結構特殊な体質みたいね」

「はぁ」

 と、

 だらだらと喋っていると、野乃樹が起き上がりました。



 何故か私を庇って――



「え? え?」

 状況についていけません。

 一体ナニが!?

 いきなりむらむらしたんでしょうか!?

 いや、まぁ……なんでしょう。その……まぁそういう情熱的なのもやぶさかでないというか――結構女の子的には『バッチこーい』みたいな感じですが! むしろ『コイ!』みたいな!

 しかし、

 そんな私の動揺なんてまるで気付かずに、

『狼』を発現させた野乃樹が緊張を帯びた声音で言います。



「――野乃月、葵さん」



 言われてみると葵さんも妖力を使って式神状態を発現させています。

 私も、合わせて……気を引き締めて『呪』力――を練ります。

 近づいて来る、――妖気。


 ばん、と扉が開き――


 葉月さんが投げ出され、飛び込んできます。

 がたん、と葵さんが蒼白な顔で……いや、白目になりましたね。


「葉づ――きっ……?……」

 葵さんが思わず呼びかけて、止まりました。

 部屋を静寂が覆いました。



 というのも、ニーハイを履いているからです。



 ……。

 ショートパンツと、ニーハイ、です。

 ……。

 意外と……綺麗な足をしてるんですね……葉月さん……。



「――全く。野乃樹、兄さんは哀しい」



 一瞬、視界を奪われたのは確実です。

 あまりの衝撃的な光景に目を奪われたのは間違いがないです。

 だって実際葵さんに至っては



『わ、悪くない……ボタボタ』



 なんて鼻血を噴き出させてますからね!

 HENTAIです!

 アンタ変態だったのか!と私は凄く突っ込みたくなりましたがとりあえず状況的にスルー!

 しかしそんなジョークでジョークのような状況であっても、緊迫した事態は変わりません。一瞬で肉薄してきた妖気をもって野乃樹をいきなりその相手が殴り飛ばしました。

「ぐっ――」

 端正な横顔に野乃樹よりも癖の強い髪――野乃樹のもうちょい大人びた表情――ようするに彼は――


 ――「っ……何するんだよ!? 兄さん!?」


 妖力を持って攻撃を防御した野乃樹が言います。

 そう――私は彼の名前を知っています。



 ――千代七樹ちしろななき――野乃樹のお兄さんです。


 その兄さんは、手に持ったニーハイを顔に近づけ、

「兄さんは哀しいぞ! 野乃樹! くんくん!」

「だから何で!?」

 突然、嗅ぎながら会話を始めました。

「だってお前、……すげー頑張って清い身体を維持してきたじゃないか! くんくん」

「何の話をしだしたの兄さん!? ていうか何でニーハイを握りしめてるんだ!? そして清い身体って言い方微妙じゃないか!?」

 まず状況に私がついていけません。

「だってお前……小学生の時の恋心を「だーっ、なんで此処でネタバラしをしようとするかな! 兄さん!?」」

「……あー……こほん、なんだ? その……それを美人な女の子と契約したら彼女一直線。……なんの為にお前式神になったの? くんくん」

「兄さん! 話をしている時くらいニーハイを嗅ぐのはやめてくれないかな!? ていうか兄さん!? なんでニーハイ嗅いでるの!?」

 ……小学生の時の恋心……? ……野乃樹、好きな女の子居たんですね……。

 ふーん。

 まぁなんとなく予想してましたけど。

 で、お兄さんの話を聞く限り、彼女の為に式神を憑けた、いや、式神になった、と。

 ……ふーん。

 そいつ、くびり殺してやりたいですね(にこっ)。

「しかし兄さんはお前のフェチ心については認めるべきだと思っている。ていうかそっちの彼女の殺気どぎついな! 怖っ! マジで怖っ! いつかのあの子そっくりだなっ!?」

「兄さん!? 一体何の話をしだしたの!? ていうか兄さん!? アンタ仕事はどうしたの!?」


「ニーハイ嗅いでたら首になった。……全く、それくらい個人の自由だろうに」


「よしんばその趣味は認めたとして少なくとも公共の場でやることじゃないよね!?」

「やれやれ。世知辛い世の中だ……」

「やれやれは兄さんの方だからね!? 父さんと母さんはそれ知ってるの!?」



「知ってるわけないだろう! 怖いもん!」



「威張って言う事じゃないよね!? ていうかもんってなんだ!? もんっって!」

「大体スク水、チャイナ、ニーハイ、制服、――それらどれにも熱き情熱を傾けられる精神……もっと言えばその変態性――哀しいのは野乃樹、お前の「ちょっと待って! やめてぇ! やめれぇ!」ちょっ……お前……兄さんの素晴らしい台詞に台詞を被せるな」

「どこが素晴らしいんだよ!? 兄さん!?」



 ――「しかし猫耳カチューシャの為に頑張るという実直さ……根性は認めよう」



「だから兄さんっ!? ていうかアンタどこまで何を知ってるの!?」

「……まぁなんにせよ、此処までだ……くんかくんか」

 そう言って、ニーハイを嗅ぎだしました。

 ……嗅ぎだしました?

 嗅いでます。

 それはもう物凄い勢いで。

 それはもう真剣な表情で。

 野乃樹は白目を剥いています。

「すーん、くんくん。くんかくんか、はっは……すぅ~……むはー……くんくん……」

 物凄く嗅いでいます! 吸い込んでいます! 胸一杯に!

「兄さん!?」

「あー、もうちょい待って。こう……ほら、充電しないと式神状態が発動出来ないから」

「しなくて良いよ!? ていうか何しに来たんですか!? おれが泣きそうだよ!」

 ……なんとなく、野乃樹の気持ちがわかります。

「いや何……ちょっと主核を取りに、な。すんすん」


「……『主核』……」


 私は、――美沙さんの言葉を思い出していました。

 言動と行動が阿保ですが――

 まず間違いなく七樹さんはマジです。

「……でも……なんですか? その主核、というのは?」

 正確なところ、私は何が主核なのかわかっていないのです。

「野乃樹の契約者――か。初めまして、だな」

 ……初めまして?

「美人だけど……まぁ悪いな。野乃樹はお前にやらん! ……しかし、凄くニーハイが似合いそうだな!」

「なんか凄く微妙な評価ですよね!? そして主核云々は何処に行きました!?」

 主核が吹っ飛ばされました!

「いやいや……俺の中では二位だから凄い事だぜ!」

 リカバリーもなし!



「二位なんですか!」



 ちょっとショックです。ていうかそれでショックを受けた自分自身の性癖の発露に私はさらにショックを受けました!

「一位は俺の彼女、さ(ステップとともに決まった格好良いポーズ。そしてすかさず)……くんくん」

「台無しですねぇ!?」

 私もいっぱしのボケキャラだと思っていましたが……なかなかどうして。やりますね、 ……お兄さん。

 あの近所の憧れ――七樹お兄ちゃん――がこんなHENTAIさんだったとは……!

 というか……初めまして、ということはもしかしてこの人――


「全く……なんの為に『狼』なんて憑けたんだか……そんな事なら兄さんが有効活用してくれる! 大体その主核――そもそもオレに懐いていたはずなのにさ……畜生! 『狼』の馬鹿!」


 ネタバレしてくれました。

 いや、なんとなくそうなんじゃないかなとは思ってましたが。

「いやなんでそんなに気合い入ってるんですか!? 兄さん!?」

「其処にニーハイが有る限り!」

「答になってないよね!?」

「大丈夫だ!」

「その大丈夫の意味がわからない!」

「大丈夫だ! 俺もあんまりわかってない!」

「それは全然大丈夫じゃないですよねぇ!? 兄さん!?」



「まぁそれはワタシの方から……ご説明します、かね」



「凄く素敵なニーハイ姿ですねぇ!? (私)」

 また一人、――強烈な呪力を伴った方が現れました。

 ……しかし……なんてこった! これは一位です! 確かに! 女の子として認めちゃいけない気もしますが! 真面目な話! 絶対領域が素晴らしい!

 しかし!

 ……しかし、……誰?

 どこかで見た事のあるような……横顔。怜悧そうでいて、どこかお惚けで、けれど、間違いなく美人――くぁいいです。たまらん! その御身足を触らせいや頬ずらせていうかなんていうかいやなんでもありません気の性です大丈夫大丈夫。

「初めまして。四相会の暫定首領――乃志波雪和のしばゆきかずと言います。その……野乃樹君……わたしの事はその、お義姉さんて呼んでくれ「見ろ! 野乃樹! この絶対領域を! 素晴らしいだろうぉおおおおおおおおおおおおお!」だってわたし、七樹の恋び「ひゃっふぅううううううううううううううううう! スゲエだろうぉおおおおおおお!」」

「……兄さん……」

 凄い被し方ですが……

 そして野乃樹の『打ち砕かれたおれの兄貴像……』っていう感じもなんとなくニュアンスが伝わってきますが。

 それに全くこれっぽっちも動じず『きゃ、言っちゃった。いやんいやん』の動作(手を握り頬にあて身体をぐるぐるする乙女的動作)をしている雪和さんの女子力の高さ、及び良く訓練された女子像を感じながら(KYとも言いますね。また凄く可愛いのが何て言うか嫉妬を誘います。……襲いたい)野乃樹が口からエクトプラズム的な何かを吐き出すのを押しとどめて私は尋ねます。

「もしかして……乃志波君のお姉さんですか?」

「かなちゃんの友達? ……うぅ……ぐふぅ……友達居たのね、かなちゃん……姉さん、嬉しい!」

 着眼点が何か違う気がします。そして泣き方が漢らしっ! 拭わず、立っています。

「大丈夫だ。雪和……俺の袖で涙をふけ」

「はい……ちーん……ぐしゅぐしゅ……ふきふき。……うへへへ」

「待たせたな」

 いや、待ってないです……。

 ていうか、帰れぇえええええ!

 帰れぇえええええええええ! バカップル!

 ぐしょっと濡れた袖をまぁそのままに、七樹さんが向き直ります。

 なんです? このバカップル……。


 けれど、そんな空気が、一瞬で変わります。

 七樹さんが踏み出した瞬間、膨れ上がる妖気。

 周囲に発露した妖気だけで空気の奔流が巻き起こり、吹き飛ばされそうになります。

 だから私は、身構え、周囲に呪壁を張りますが、

 しかしそんな術式――


「――悪いな」


 妖力で出来た毛をなびかせ、その強大な妖気を纏った七樹さんのパンチ一つで軽く粉砕されました。一瞬でバトルパートへの突入。少なくとも、今朝乙女ゲーでうはうはやっていた私としてはいきなりの展開に驚きを隠せません。マジで。

 ――衝撃。

 たかが障壁を破っただけでこの衝撃。

 私はその衝撃と一緒に吹き飛ばされ「――っ」息を呑みますが、

 ……とは言え、

 ――それくらい予想出来なかった事じゃありません。

 飛ばされながら周囲に隠形術でさりげなく配置していた式符を展開――

 設置式の『縛』――『弦』を発動させ、三百六十度の全方位から襲い掛からせます。さらに、同時展開では確実に先ほどの妖力で吹き飛ばされてしまうかも知れないので、時間差で二重、三重と『縛』を発動させます。

 ついでに、身体を捻り、顕現術で取り出した拳銃を構え、撃ちます。

 慣性を味方につけ、射撃と着地をこなしましたが、

 乃志波さん……あ、いえ、ややこしいかも知れないので雪和さんと呼びます。

 雪和さんが七樹さんの周囲に展開した呪壁が私の弾丸を弾き飛ばします。

 そして――


「どりゃああああああああああああああああああ――――へぶぅっ!?」


「……兄……さん?」

 怒声とともに殴りかかってきた七樹さんを……野乃樹が殴り飛ばしました。

 七樹さんのパンチは思いっ切りテレホンパンチに振りかぶりで――

 思いっ切り隙だらけでした。

 隙だらけだったのです。



「殴ったな! 痛いじゃないか!」



 倒れて凄まじい台詞を吐いています。

「兄さん!? 殴り掛かってきたのは兄さんだよね!?」

「……うぅ……父さんに殴られた時より痛ひ……」

「兄さぁああああああん!? なんか物凄く情けない感じなんだけど!?」

「だって父さんなんだかんだ手加減してくれるからね!」

「話だけ聞くと駄目親になるからそれを叫ばないで! 兄さん!」

「だ、大丈夫だ……ニーハイを嗅げば元通り……ぐふっ。ナイスパンチ、ナイスガッツ」

「兄さぁあああああああああん!? それもそれでキツイ気がするんだけど!」

「レ、レアです……こんな七樹さん……!! 可愛い……!」

 ふとっころ深いですねぇ!? 雪和さん!?



「あーいて……兄さんは哀しいぞ! 野乃樹! くんくんんんん!」



「おれの方が哀しいよね!? 色んな意味でさぁ! 泣きそうだよ!」

 ……野乃樹の意見に物凄く賛成な私は自分の性癖に蓋をしているのでしょうか? いいえ。そんなことはないと思いたい……!!

「まぁ冗談はここまでにして……真面目に野乃樹、兄さんに協力する気はないのか?」

「これまでの話の何処にそんな協力云々の話が出たの!? 兄さん!? 」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「言ってないよね!?」

「じゃあいいや」

「いいのかよ!? 兄さん!?」

「雪和……済まない、一嗅ぎ、良いかな?」

「どーぞー」

「そっちも良いのかよ!?」

 

 ……一嗅ぎ。


「待たせたな!……んん?」



 *



 そう言っていたかどうかはわかりませんが、とりあえず、野乃樹と私は逃げ出しました。

 戦略的撤退です。

 探偵事務所の持ち主――葉月さんと葵さんの姿はすでになく――ていうかその辺流石です。葉月さんがいなければ葵さんも本気を出せないでしょうし。

 何よりの懸念は……

 七樹さんが簡単に殴られたように見えますが、きっとそんなことはない、という点でしょう。野乃樹の表情を見れば、それくらいは想像がつきます。

 あの瞬間――

 確かに七樹さんは思いっ切り――それはもう気持ちが良いくらい思いっ切り殴られてましたが、じゃあそれで芯から駄目になったかと言えば、そんなことはありません。

 普通、喧嘩、……と言いますか、戦闘というのは初撃で決まります。

 野乃樹のパンチは確実にクリーンヒットだったはずです。

 だから私はあの瞬間に、追撃の術式――つまり『縛』と顕現術の拳銃を放ったのですが、

 それを雪和さんが弾くまでもなく、

 かと言って躱すでもなく、


 ――七樹さんの尻尾だけで払われたのですから。


 それも体勢を立て直しながらの片手間で。

 呪壁を殴り飛ばした事と言い、並大抵の式神や術士なら縛に触れれば動けなくなると言うのに。

 でもまぁ、それでなんで床に擦り付けられたのかは知りませんがね。

 単純にドジっこちゃんなのかもしれません。

 恐らく――

 これはあくまで予想でしかありませんが、


 ――七樹さんの得意技は体術ではなく、妖力を用いた妖術――でしょう。



 *



 二人で逃げ出したものの、公園でニーソを履いた得体の知れない猫耳カチューシャを頭につけた男性とチャイナ服風の制服と、スク水を着た男性に道を阻まれました。

「「……」」

「「「……えー我らニーハイソックスソルジャーズ!」」」

 おい、陰陽庁。

 逃げられてますよ。

「「「いやいや、高い金を積んでの保釈だ」」」

「腐ってますね!」

 いえ、別に何処が、何が、というわけではないです。税収が低いのがいけないのでしょうか?

「しかし(猫耳)」

「まさか(スク水)」

「君が主核を持っていたとはね(チャイナ服)」

 と、三人が喋ります。

 ……ちょっと面倒臭いですね。

「確かに(猫耳)」

「我らは(チャイナ服)」

「失敗したが……うん?台本にこの先書いてないぞ?(首を傾げるスク水)」

「え?(わざとらしく驚くチャイナ服)」

「嘘だろ?(覗き込む猫耳)」

「いやいや、ホントに(応えるスク水)」

「ちょっと貸してみろよ(強引に奪い取ろうとする猫耳)」

「おい、やめろよ。やーめーろーよー(演技力の低さがひかるも、一応嫌がるスク水)」

「ちょっ、待てよ、猫耳。スク水いやがって――(止めようとするチャイ――」


――「『縛り付け! 縛・烈!』」



「「「ぎゃあああああああああああああああああああああ!? まだ途中なのにぃいいいいいいいいいいいいい! しかもなんかこすれて気持ち良いぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい! なんかでちゃぅううううううううううう! らめぇえええええええええええええええええ!」」」



 とりあえず、妖力という糧を得て、さらに自在に動き廻るようになった『弦』を放ち、三人を快楽の園に叩き落としましたが――

「――まぁとは言え、時間稼ぎにはなった、と」

 七樹さんの声がします。

 どうやら追いつかれたようです。

 流石『犬神』というところでしょうか……。

 呪紋を発動し、逃げだそうとしましたが……

 追いついた七樹さんに回り込まれます。

 雪和さんをおんぶしながら玉のような汗を流し、七樹さんは息を荒げながら……

 ……。

 今ちょっと文章におかしなところがありましたね。

 ……息を荒げながら……?


「ぜひゅー、こひゅー……久しぶりに走ったら……くひゅー、脇腹がいたひ……かひゅー」

「七樹さん! ふぁいとっ!」

「よっしゃ! 頑張る! ふとももの感触が素晴らしいな! ……くひゅー……ぜはぁ……はぁ……ぐふぅ……やっぱりちょっとタンマ……ニーハイ嗅がして」

「はい」

「「……」」

 ……。

 隣に……野乃樹が居ます。

 隙だらけです。

 私は考えました。

 つい先日の話です。

 まぁ、……昨日ですけど。



 *



 昨日、おばあちゃんに突然呼び出され、まずサラダせんべいを出され、

 かしこまった服装のおばあちゃんが、

『野乃月、アンタ好きな人出来たでしょ?』

『おばあちゃんっ!?』

 開口一番そんな事を言い出しました。

 ……まぁその時点でなんかこう予想がついたと言えばついたんですけどね。

『隠すな隠すな。むらむらしてるって伝わってきてる。……良い共感覚よ。おばあちゃんもアンタくらいの時、よくおじいちゃんにむらむらしてたからねぇ』

『嫌な共感覚の間違いですよっ!? おばあちゃん!? そして伝えなくて良い事実ですねっ!?』

『でもまぁ阿付もむらむらした女の子に連れ去られたわけだしね』

『その一行で片付けていいの!? おばあちゃん!? ていうか彼女の評価がそれって不味いんじゃないですか!? おばあちゃん!? あの方って結構お偉い方のお嬢さんじゃないんですか!? ていうかむらむら!? え!? 阿付兄さんてそんな理由で今日本にいないんですか!? 私が聞いてた話とだいぶニュアンスが違うんですけど!』

『そんな事より野乃月……ちょっとその下着はないねぇ?』

『おばあちゃんぅんんんんん!? どこから何を見てらっしゃったのですか!? ていうか話をすり替えるの上手いですねぇ!』

『でもまぁそんな事より野乃月……とりあえず当主となってるアンタに伝えておかないといけない事があってねぇ』

『前置きが随分微妙な感じじゃないですか!? ていうか今のも流すんですか!? せめて良い下着かなんなのかくらい応えてくれても――』



『羊羹……食べるかい?』



『そんな台詞で胡麻貸されると思ってるんですか!? おばあひゃんっ! もぐもぐ!』

『アンタはホントに単純ねぇ……』

『ひょんな事はないですよ!? もぐもぐ!』

 なんて事をやっていると、先ほどからおばあちゃんが隣に置いていた外装付きの巨大広辞苑の中から一冊の本を取り出しました。

 気になってはいました。

 気になっては……いたんです……がね!

 ……。

 豪奢なその広辞苑はまず外装、で分厚い中身が収納され、開くと中程になんと、古めかしい紙と弦で繫ぎ合わせた本……のようなものに、

 ――『夏上家秘儀――陰陽術と性欲の関係――……』という文字が……。

 ……。

『あの……おばあさま?これは一体……?』

 なんとなく……なんとなく予想がつかないわけではないんですが……



『夏上家の女性は代々性欲を術式の中核においていてね』



『おばあちゃぁあああああああああああんぅ!?』

 今明かされる衝撃の真実……!!

 真実過ぎます……!!

 陰陽師としての心構えとかなんかそんな儀式かと思いきや明かされたくない我が家の秘密でした! せめてもっと由緒正しい感じにせめて取り繕ってくれないですか!? ていうかオブラートに包んで! 胡麻貸してぇ!

『おばあちゃん……歴代の中でも最強クラスのむらむらを持っていてねぇ』

『おばあちゃぁああああああああああああああああああああああん!? 最強って単語がこれほど微妙に聞こえたのは私の人生で初なんですが! ていうか心温まるエピソード! みたいな感じで言ってますが、ぎっとぎとですよ!? ギットギト! ねばついてますよ!? ねっとりしてますからね!?』

『しかし……野乃月、貴女にもその才能はあるはず』

『嫌な期待のされ方ですねぇ!? 凄くこの場から逃げ出したくなります!? ていうか変態認定を身内にされるってキッツゥィイイイイイイイイイイイイイ!』

『……そんなに喜ばれると複雑ねぇ』

『喜んでない! 喜んでないですよ!? おばあさま!?』

『あらあら? 字が違ったかしら。悦ぶの方だったかしら?』

『この人、人の話をまるで聞いていない……!!(思わずぐっと握りしめる右手)』

『でもまぁ、良かったわね』

『……? 何が、ですか……?』

 思わず首を傾げます。

 とりあえず、手元に置かれた水に手をやり、無理矢理気を落ち着かせるべく口に含み、

『調べてたでしょ? 彼が式神をやっていて、契約者がいるかどうか? 契約できて良かったわね』



『ぶっ―――――――――――――ぅうううううううううううう!?』



 噴きました。

『お、おびゃあ――げほっ、うぇええ、ごほっ、ごほっ――ごぽぉ……おごぉ……こぽぉ……げふっ……おごぽぉ……』

 女の子としてちょっと見せちゃいけない姿を見せてしまいました……。水が鼻の穴から逆流しヨダレと化した水が垂れてやばいのでティッシュで拭きます。むぐむぐ。むぐ。……ていうか、

『おばあちゃん!? どっっっからその話を聞いたんですか!?』

『どっからも何も……おばあちゃんはむらむらゲージを見抜く邪眼を使えるからねぇ』

『むらむらゲージってなんですか!? おばあちゃん!? ていうか邪眼!? えぇえええ!? 邪眼!? 邪眼なの!? 邪眼ってむらむらゲージを見れるだけ!?』

『だから野乃月がそのパートナー……野乃樹君にむらむらしてるのは一発でわかったわ(ぐっ←親指を立てるおばあさま)。パソコンでチェックしてる時のむらむら度は全盛期のわたしと同じくらい……いや……それ以上……かもしれないわね……』

『どんなリアクションですか!? おばあさま!? ていうか変に「……」を使わないでくれませんかねぇ!? タメなくて良いですよ!? ていうか嬉しくない! そんな嬉しくない評価頂いても! ただの変態じゃないですか! 私! それはただのSU☆KE☆BE☆ですよ!』

『まぁそもそも式神要らずの方法も本で教えたと言えば教えたのだけど……そっちを使わなくてすんで幸い……ということころかしらね。ところでむらむらしてる野乃月』

『とりあえずその前口上はやめて下さい! 普通の男子中学生より外聞が悪いですよねっ!? おばあちゃん!?』

『あら? むらむらしてない人間なんていないのよ? むら月?』

『だから大丈夫とはなりませんからね!? おばあさま!? そしてその呼び方はやめてください! しっくり来すぎます!』



『むらむらしてるなぅっ!』



『なうっ! じゃないですよ!? ていうかスマートフォン使うのウマっ!?』

『野乃月はがらけーだっけ? なう』

『でもなうの使い方は微妙ですね!? ていうかおばあちゃんがむらむらしてるんですかっ!? 危うくなんかスルーするところでしたが! ていうかさっきから私突っ込んでばっかりですね!?』

『突っ込まれる側なのにね。なう』

『アウト! アウトですよ!? おばあさまぁあああああ!? ていうか間違ってます!』

『さて……じゃ、……なにしようとしてたんだっけ?』

『おばあちゃん!?』

『冗談よ、冗談……この技は一定上の『むらむら力』がないと覚えきれないわ……その自信があるかしら? ……野乃月?』

『ないです!』

 彼女は左目に手をやり、



『大丈夫。ばっちりむらむら力は平均値以上……一般人の三倍は軽いわね』



 聞きたくない事実を仰りやがりました!

『ガチでHENTAI認定ですか!? ていうかまるで私の話を聞いてないですね!?』

『……さて……この形態だと不便だからっと――よっ』

 言うなり、おばあちゃんはその場でとんぼ返り煙に包まれ、現れたるは美少女。すらっとしたくびれに悪戯っぽい瞳に弾けるような肌。溢れる黒髪は留める漆黒の翼……。

『うーん……ちょっとサービス精神が足りないかしらね』

 ぴらっとスカートをめくりながらそんな事を言います。

 ……何故制服……?

 いやそんなことより、……さっきまで其処にいたおばあちゃん……?

 野乃月はちょっと現実に頭がついていかない。

『うん、……まだむらむら力は扱えるようね。むふー』

『この変事の性で弱冠むらむら力に興味を覚えた自分を殴りたい……!』

 仕方ないよ、女性だもん。

 と、とりあえず言い訳をしておきます。

 年食っても……若くなれるのか……。複雑な気分です……!!

『じゃあ、むら月……始めるわよ……身につけるのよ! むらむら力を! MURAMURAパワーを! 大事な事だから二回言ったわ!』

『ローマ字にすると余計にださいですよ!? おばあちゃん! そしてやめてって言いましたよね!? その呼び名!』

『おっしゃーばっちこーい!』

『自分へのかけ声だったの!?』

『まずは妄想力よ!』

『始まっちゃったんですかぁああああああ!?』


 *

 

 ……あの後、おじいちゃんも乱入し、まぁなんだかんだで夏上家の秘儀は覚えたものの、むらむらして若返ったおじいちゃんとおばあちゃんはどっかに行ってしまったんでしたっけ? ……うん、まぁそれはどうでも良いことです。

 私は目の前の現実に向き直ります。

「……野乃月?」

 息を吸ってゆるやかに吐いていきます。心を落ち着けて……

「大丈夫か?」

 私は――

「なぁ? 野乃月?」

 覗き込 んだ野乃樹の目――顔に手をやり、彼の目をじっと覗き込みます。

「へ? ……野乃月……?」

 おばあちゃんは言いました。


 *


『まずは妄想力!』

 そして、

『次も妄想力!』

 さらに、

『ついでに妄想力!』

 おまけに、

『妄想力!』

『どこまで妄想させるんですか!?』

『妄想あってこその現実! プレイの疑似体験! じゃ!』

『おばあちゃん!? その姿でそれを言うのは不味いのでは……!?』

 心配になります。いえ……何が……というわけではないのですが……。いや、合法と言えば合法なんですが……。

『最後にとどめの妄想よ!』

『結局ただの妄想じゃないですか!』

『そう……夏上家の変態淑女にしてみればこれは第一形態……』

 どこからか取り出した眼鏡をかけてくっくっくと笑います。悪い顔をしています。ていうかヨダレが出てます! おばあさま!?

『待って下さい! おばあちゃん! いつのまに私までそんなやばい集団の仲間入りを……!』

『貴女は稀代の変態淑女になれるはず……!!(ぐっ←握り込む拳)』

『まるで嬉しくない期待のされ方ですねぇ!?』

 少しだけ――

 心持ち、真面目な顔になったおばあちゃんが、



 ――『思い込む事が大事なのよ。相手が自分の事を好きだって』



 *


 ――私はひたすら妄想を練ります。

 まずは砂浜。『待てよ、野乃月ー(野乃樹)』『うふふふふ(私)』浜辺を駆け回る初々しくてリャブリャブなカップル……私はおもむろに全速力をもって野乃樹に近寄り『待てよ! 野乃月! なんでいきなり海パンを脱がし始めた!? どうしたの!? ねぇ!?』『ぐふふふふ(私)』……ふむ。妄想の中の私はなかなかにあぐれっしぶですな。……お次は喫茶店。『でな、野乃月、おれはお前の――ってなんでおれの珈琲飲み始めた!?(野乃樹)』『むっふっふっふ。これはアレです! ら、らぶらぶかっぷるとしての第一段階!(私)』『いやまぁ別におれもそういうの好きだけどね(にこっと笑う野乃樹……つぅーと流れ出る鼻血)』『ばっびゅぅううううううううううん!?(私の噴出音)』『鼻血!? いやなんで鼻血!? ていうかそれ鼻血なの!? 珈琲カップが割れたんですけど!(野乃樹)』お、お次は――そ、その『くっ、あぁ!?』上気した頬を流れる汗が滑り落ち、私は『野乃樹……こう?』吐息を湿らせながら尋ねます。彼を上から見下ろしながら声をかけます。触れ合う体温が……その性か私自身の声も暑く蕩けるような響きを伴っていて湿った空気が『うっ、あぁ!?』……手を少し動かしただけで、野乃樹が呻きます。それだけで――蜜のような声が私の身体を動かさせ、その様子に少しだけ私は優位性を感じ――

『ふんぬらばっ!(私)』『ぐぁああああああああああああああああ! 折れちゃう! 折れちゃうぅううううう! 左手が向こう側に行っちゃうのぉおおおおおおおおおおお!(野乃樹)』『これぞ必殺四方固め!(私)』『これは妄想!? ていうかおれの欲望なの!? (慌てふためきのたうち回る野乃樹)ていうか! 折れる! ホントに折れちゃうのぉおおおおおお! らめぇえええええええええ……』……そして教会――鳴り響く鐘の音――残念ながら周囲にそれほど友人はいませんが……私は隣に立つ野乃樹を見て、何故かいきなり私を抱えた野乃樹は私に……キ……き……きききき……その……えっと……キス……を……




 ――されました。




「――っ!? ――!? ――ッッッッッッ!?」

 真剣そのものの瞳で野乃樹は私の眼の奥を覗き込み――私の身体を抱き込み――その瞳を仕舞い込み、私の事を抱きしめます。思いっ切り。それこそ息が出来ないくらい……!!

 私は心臓が爆発しそうになっていて、

 口腔内はふぇすてぃぼー!

 ふぇぇえええええええ! です!

 ちっちゃい私がわしょーい!

 二わしょーい!

 三わしょーい!

 そぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい!

 いや突っ込め私ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!

 そぉい!

 頭の中はもうてんやわんやしっちゃかめっちゃのていうかなにこれどうした私いつの間に妄想がこんなラブコメ展開に!?

 いいいいいいいいいいいいい一体ナニが起こってるのでしょう!?

 ていうかナニコレ!?

 いや真面目に妄想が現実になっちゃってこりゃやばいんじゃないですかまじで!? おばあさま!? ついに私は超えてはならない一線――『気付いたら二次元の男性に囲まれてうはうは病』に陥っちゃったんですか!?

 しかし間違いなく現実。

 ここまで来たら仕方有りません……!(心の中で(ニヤリ)と握りしめる拳)一体ナニが起こってるのかわかっていませんが……! このままでは野乃樹が主核として連れ去られ、式神を奪われる――ということは、私が考えた気付いたら恋人結婚作せ――げふんげふん……なんでもありません。なんでもありませんです! 別にそういう意味じゃないです! 純粋な仕事! そういう感じ! でも気付いたら……じゃなくて!


 野乃樹と私の契約がなくなる……それは……嫌なんです。


 確たる『呪』もなく――

 私は野乃樹を奪い取らさせはしません……。


「――ッ!?」


 今度は私が野乃樹の身体を思いっ切り掴み、抱きしめます。

 思いっ切り抱きしめ、嗅いで、突っ込みます。いえ、別に何を、というわけではありまんが。えぇ……まぁアレです。アレですよ。とにかく――

『(ニヤリ)』としてから、私は野乃樹から借りた力を持って『式神化』します。


 妖力が形を作り、『妖弧』となった私はその溢れ出す『むらむ……、こほん、『妖力』によって七樹さんと雪和さんに対峙します。



「な、なんだ……その力は!?」



 七樹さんが雪和さんの足を嗅ぎながらそんな台詞を言います。絵面的にかなりやばいです。そして頬を染めてる雪和さんがやばい。



「妖力です!」主張しました、なぅ。



「いや……なんとなくピンクっぽいし……妖力ではなさそうな……?」

 見たまま流石聡そうな賢そうな雪和さんが鋭い指摘をしてきました!

「妖力なんです!」

 私は主張します!

 えぇ!

 断固主張しますとも! なぅうううううううううううううううう!

 これ以上なんか女の子として明かしてはいけない部分をオープンにしないためにも!


「――まさか!? 君はあの子――夏上野乃月か!? となると、それは夏上家に伝わるむ「妖力なのです! 妖力ったら妖力なんです!」――お、……おう……」


 断固主張!(←必死)

 台詞を被せてまで胡麻貸しました。

 最早なんていうか私自身一体何のために頑張ってるのかわからなくなりつつあるような気がしないでもないですが……!!

 しかし、目的は一つ――



「野乃樹は渡しません! 私の式神なんです!」



 言い切りました。

 言い切ったのです!

 野乃月一世一代の大告白!

 確かにまだ何も届いていない事でしょう……しかし!

 かと言っていつまでもシャツの臭いばかり嗅いでいては始まらないのです!

 さりげなく靴下をぱくったり、トランクスを奪ったりしている場合ではないのです!

 何故か視界の片隅では野乃樹がどぅっ、と倒れて、「まだ……ただの式神扱いぃいいい……ぐふぅ……今まで一番のダメージかも……コレ……あっ……なんか涙出てきた……ちゅーまでしたのにぃいいいいいいい! なんで伝わらないぃいいいいい! この鈍感娘ぇええええ!(ばしんばしん←地面にうちつける両の拳)……でも悪くない体験だった……」と嘆いてるように見えますが、気の性でしょう。むらむら力によって奪い取った一時的な妖力の枯渇による休憩でしょう。鼻血がどばどば出てますが。

 身体の感覚を取り戻そうと身体を動かしているに違い有りません。

 ……私は妖力を身体の内側で練ります。

 野乃樹から借りた妖力によって触発された私の妖力と野乃樹の妖力が解け合い――私のさらなるむらむ――げふんげふん……妖力となり――妖力です――妖力なんです――奔流と化した力が沸き上がってきます。

「――な……なんか凄いピンクな空気です……くっ……いえ! 負けません! 七樹さんへの欲望はわたしの方が上です! 七樹さんを裸にひんむくのは――ぎっとぎとにするのはわたしです!」

「いやどんな告白ですか!?」

 思わず雪和さんに突っ込みました!

 この人……見た目の割にガチで変態☆です!

 しかし雪和さんがどんな変態であっても状況は――


 ――「『犬神!』」


 ガチでバトルパートと化しています。

 七樹さんと雪和さんが手を合わせて跳ね上がる七樹さんの妖力――心なし――七樹さんの背後に可愛らしいわんちゃんがニーハイに鼻を突っ込み、恍惚とした表情が見えます……いやいや、まさかね。うん……プラカードを掲げて『こ、これはたまらん……だワン』と言ってますが気の性です。犬神様がそんなHENTAIなわけがありません……あれはただの可愛いわんちゃんなんです! 気の性ったら気の性なのです!『……ぐふぅ……こ、この強烈な香り……!』気の性なのです! ヨダレなんて垂らしていません……!!

「雪和……お前の香り……最高だ……」

「七樹さん……ぽっ」

 ――あざといっ!

 なんかそして可愛いですねぇ!

 頬を染め、いやんいやんする雪和さんに心中で突っ込みます!

「夏上野乃月……あざとくても可愛ければジャスティスだ!」

 ……それっと解ってて騙されるのが幸せって台詞に私には聞こえますよ……? 七樹さん? ていうか――

「聞こえてたんですか!? ていうか人の心を勝手に読まないでください!」

「なんにせよ……そうだな……ここまで来たら仕方がない! 『犬神』の全てで『狼』を奪う!」

「聞いてないですね!? 人の話!」


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! にーはぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


「無駄な行稼ぎにしか見えませんね!?」

 しかしそれはそれとして。

 まさに冗談じゃないくらいな圧が溢れる妖力……!! これは確かに通常形態の野乃樹では駄目だったに違い有りません……!! となると、此処で私の真骨頂――むらむ――第二の妖力でどうにかするしかないわけです。

 私はそこで『でも……悪くない体験だった……』とぶつぶつ言ってる野乃樹の手を取り――『え? ……え? うぇええ!?』


 さりげなく仕掛けておいた呪紋から『それ』を呼び出すべく、



「祖は築かれし石杖の――先に延ばした手を持ちて――盤石たる構えを保ち――その研ぎ澄まされた霊力よ――我が力とならん!」



 言の葉を並べます。

 発動鍵キーとなったその言葉が塊となり、野乃樹と私の手を繋いだ呪紋が輝き――


 ――どぶるるるばぁっ、という感じでぬるぬるとした触手となった『弦』が七樹さんと雪和さんに襲い掛かります。

「ええええええええええええええええええええええええ!? これはやばい! 逃げろ! 雪和! ――ってなんでわざわざ近くに来た!?」「七樹さんの焦る顔……これはゲ・キ・レ・ア☆」「お前は自分の心配をしろぉおおおお! ――ってぎゃああああああああああ!? 巻き付いてきた!? やめろぉ! 何だコレ! なんかきちゃう! きちゃうからぁあああああ! らめ、らめぇえええええ! み、みるらぁあああああああ! ていうかなんで俺ぇえええええ!? 普通女の子狙うもんなんじゃないのぉおおおおおおお!?」「な、七樹さんのらめ顔……これはやばい……じゅるり。ご飯三杯は軽いデ☆ス☆ネ☆」「マジで余裕あるな!? わかった! 野乃月さん! だからこうしゃん! こうしゃんするからぁああああ! 快感が! 快感が止まらないのぉおおおおおおお! 野乃月さぁああああん! やめれぇ! らめぇえええええええええええ! でちゃぅううううううううう! 男の子として大事な何かがはがれちゃぅうううううううう!」「ケータイ……携帯ってどこでしたっけ……?(触手を左手一本で軽々といなしながら鞄を探る雪和さん)」

 ……。

 まぁとにかく。

 駆け足でしたが、そんなこんなで主核を巡る事件は終結したわけです。



 五 終章



「だから兄さん……なんで『狼』をはがそうとしたわけ?」

「いや、……だって葉月のヤツが野乃樹、遂に初恋諦めたらしいよ―って言うし……無職で暇だったし」

「無職なの兄さん!? おれとしてはそっちの方が結構重要なニュースな気がするけど!?」

「……さっきバレちゃった。くんくん」

「だから後ろの犬神様もしょげてるんだね……でも嗅ぐのはやめないんだね……」

「でもまぁもうすでに次の仕事は決まっているのですよ。くんくん」

「……良いカップルですね……」

 まさか両親も婚約と無職の発表が同時に来るとは思っていなかったに違いない。ていうか無職なのに好きとか……この女性……化け物か?

「まぁわたしも大概やばい属性持ちなので」

「……あぁ、左様で」

 ……いいから心を読まないで欲しいですね!

 ていうかやばい属性ってなに!?

 ……なんか知りたいけど……兄さんの彼女……だしなぁ……自分でやばい属性って言ってるからもうそれだけでだいぶ予想がつくし……あぁいや、お嫁さん(候補)か。

「だから野乃樹くん。わたしの事はお義姉さん、て呼んでね。じゃないと千切るわ(にこっ)」

「後ろに要らない単語がついてますよ!? お義姉さん!? 魅力的な笑顔がとても素敵で恐怖が三割増しなんですがっ!」

「うふふふ」

「笑うだけなんですかっ!?」

 確かにやばい属性持ちっぽいですね!

「ところで野乃樹。くんくん。結局……あの後野乃月はどうしたんだ?」

「あー……えっと」

 どこから話した物やら……と。


 *


「……なぁ……野乃月」

 そこには妙に真剣な表情(鼻血は凄く垂れてますが……精悍な顔をしていると思います。うん)をした野乃樹が。

「う……うむ。なんだね?野乃樹くん」

「何? そのキャラ?」

「あーえっと……うーん……その」

 むらむら力の欠点と言いますか……

 そもそもむらむら力というのは無駄にテンションを上げるだけと言いますか……。

 自分を『思いっ切り騙す』と言いますか……。

 妄想で現実を胡麻貸すと言いますか……。

 相手が自分の事を好きと思いっ切り思い込む悪質ストーカーまっしぐらの……

 ていう此処で気になっているのはそういう事じゃなく、なんでキスしたのかとかなんかそんな感じのえっと詰まるところ野乃樹は私の事をどう思――

「おも、おもわぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!?」

「野乃月!? 野乃月ぃいいいいいい!? なんで掴み上げた!?」


「うぇええええええええええええええい! 言ってやります! 聞いてやります! 吐いてやります! ていうかもう精一杯! それが全てなんです!


 コレでおしまいです!


 ていうかもうすでにさっきやらかしちゃったんですから仕方ないんです!


 ――野乃樹!


 私の事をどう思ってるんですかぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 で、



「……とりあえず其処に居ますよ」

「こんにちは、七樹さん」

 こうなった。

「うぇええええええええええええええええええええええ!? な、なんでうちに居るんだ!? ていうか何処に居た!? あの子……いやまぁ当時は当時でそれが普通っちゃ普通だったけど……小学生だったし」

「そんなの野乃樹の布団の中に決まってますよ」

「決まってる!? 決まってるの!? あれ? おかしいな! 俺自分の事ちょっとやばいと思ってたけど久しぶりに再会した弟の初恋の女の子もだいぶやばい感じになってるぞ!?」

「全く。野乃樹。いいから嗅がせてください。大丈夫」

「前後の文脈が脈絡ない!」

「どうしてそっちの方向に思いっ切り振り切っちゃったの!? 野乃月!?」

「えへへへ」

「いや可愛いけどね!」

「はぁはぁ……ぐふふふふふ……じゅるり」

「それで可愛いのか!? 倒錯してないか!? 弟よ! くんくん」

「それで嗅いでる兄さんの方がよっぽどな気がするよね!?」

「うふふふふふ。くんくん」


 ……まぁ、そんな感じです。



 え? 続きですか? いやまぁ……ねぇ?



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