第三九代目夏上家当主――夏上野乃月の災難 3 スクール水着ウォーズ
第三九代目夏上家当主――夏上野乃月の災難 3 スクール水着ウォーズ
夏上野乃月はただの一七歳の高校生だ。
家はそれほどのお金持ちではないし、貧乏でもない。気立てはまぁ……その外見を良く裏切ると言われている。本人は無自覚である。趣味は本屋巡り。インドア派であり、よく『私ってオタク……?いやまだ大丈夫』と自問しているが、まぁそれはいいとして。
ていうかオタクだよ、
そんな事実に気付き始めた夏……っ!
彼女が普通の高校生と違うのは、式神と契約している、という『一点』だけだ。
それ以外は……まぁ、なんだろう? 見た目と中身が以外と裏腹っていう所くらいだろうか?まぁでも、その辺りは人間なら誰しも持ってる物なので、さしたる特徴とは言えないかも知れない。
兎に角――
夏上家は廃れた陰陽師の家系で、野乃月はそこの暫定的当主なのだ。
*
事件が起こったのは、登校した直後です。
それはもう、物凄い事件でした。
結局、その後も哀しい事件が起こったのですがね。
昨日――思った以上に素晴らしい、良質な王国物の恋愛奇譚をネットで見つけ、鼻の穴を膨らませながら、一気読みした性で、『こりゃもう起きれんわ』となり、ウゾウゾと布団にこもり、いつも通りの格好で怠惰でアウトな学生生活を堪能していたら(自覚はあります)、母親の命を受け、姉に強引に部屋にいれられた、不埒な式神が
『起きろー……ってうわぁあああ!?』
『ぎゃああああああああああああああああ!(ぼぐっ)』
という事があり、結局、学校に来ることになったわけです。
全く。
「……」
ぷんぷんですよ。
「……あのー……野乃月さん?」
全く全く全く。……この場合、どうしましょうか?
思わず目が半眼になってる気がします。
「コスプレしたら許してあげます」
「どんな要望だよ!?」
「女装なら、……趣味ですよね?」
「なんで!? いつの間におれの趣味が女装に!?」
「……私、フェイ○ちゃんの格好をした野乃樹が見たいです。さもなくば、切り落とします」
「わかった! やります! やるってば! やってやろうじゃないか! ていうか危険発言だよね!? ていうか切り落とすって何を!?」
なんて言ってたからでしょうか?
ちなみに所作はちゃんと実行しました。
右手で首の辺りを親指で――カットオフ!
波野高校の校門が見え、きゃっきゃうふふと青春が弾ける、青春オーラがむわっと溢れ出していて、私のようなオタ――……インサイド弁慶タイプの人間を押し返そうと(多大な被害妄想)するあらぬ妄想が私を襲った瞬間、
――「わっ、へっ、きゃぁあああああああああああああああああ!?」
……野乃樹の嬌声が響きました。
慌てて彼の方を見ると、地面に輝く五芒星に、発動されたであろう『式』と式符。
設置式の……『呪紋』です。
そして後に残されたのはスクール水着を着た『可愛い女の子』。
……。
「ナニコレ!?」心なし、声も何故か可愛い気がします。
ていうか、女の子? ……女の子に見えます。
「……野乃樹?」
一応、確認します。……確認しますが……正直言って、マジヤバイ可愛い。です。妹にしたいです。
「野乃月!? 何が起こった!? おれに!?」
「いや、近い! なんか近い! ちょっと! 手を握らないで!」
勘違いするでしょ!?
これは……やばい。破壊力が有り過ぎる。思わず、私、鼻血が垂れます。こんな距離まで近づかれて、その可愛い顔(しかも何故か化粧までされてます。勿論、ナ☆チュ☆ラ☆ル☆メ・イ・ク☆)で、両手を握られたら、好意を持たれていると勘違いするのもやぶさかではありません。いえ……是非にでも! 結構なお手前でぇえええええええっ!
つまり――
「私が……守る(つつー)」
「野乃月!? おい! 聞いてる!? おれの話!?」
は……っ! いけません、いけません、いけませんっ! なんか私が王子様みたいな気分でした! 私はアレです。あくまでヒロインキボンヌなのです! 例え(www)が付けられようと! 負けません! 頑張れ! 乙女心! ぐじぐじ! 垂れ堕ちる鼻血を拭いながら私は――
「……野乃樹」
「もしかして、なんかに気付いたのか!?」
……私は、一息、呼吸をおいて告げます。
「わたしって自分の事は言って下さい」
「どんな要望!? おれはおれだよ!?」なんか哲学的な発言です。ま、
「大丈夫です。私が野乃樹を守ります!」
駄目でした!
だって可愛いんですもん。
あわあわしてるとことかもやばい!です。
「ところで、そのスクール水着――ばびゅぅぅうううううん!(←鼻血の噴出音)」
「野乃月ぃ!? どうした! 野乃月!?」
……我ながら、ミラクルです。
どこかのビームライ○ルみたいな効果音が出ました。驚きです。
……フェイズシフト装甲でさえも撃ち抜けそうな実弾です。
「脱がして……いいですか?」
「やめろぉ! 人が真剣に聞いてる時にぃいいいい! ていうかなんでそんなに攻撃的!? ちょっ! 待て! 頼む!」
「私の裸を視姦した罪――償って貰います! ――どぎゅぅうううううううん!(←鼻血の噴出音)」
「確かに言ったけどね!? おれが悪いって!
でもこの――なんか償い方はチガクナイ!?
ていうか、なんか恥ずかしい! だからやめてぇ! らめぇ!」
「ふひひひひ、おいちゃんが、おいちゃんが優しくしたげるからねー……ゲヘゲヘ」
いやぁあああ、というリアクションで、
「ぎゃああああああああ!? なんで!? なんでこんな事になってるの!?」
なんて言ってます。はぁはぁ。可愛い、可愛いよ! かうぃあいよっ! 野乃樹! 私は肩紐を引っ張りながら、それはもう、女子の触れ合い特有のきゃっきゃうふふを実行し、
「あぁ、野乃樹! 可愛い! くんかくんかくんか! なんでしょう! やばいです! 食べていいですかね!?」
「目がマジだ!? ――くそっ――」
ぴょこんと耳を飛び出させます。どうやら、『式神』状態の肉体強化で逃げようとしてるようです。
もうすでに『萌え』ポイントが最高潮だと言うのに……、
全く――
人をこれ以上萌えさせるなんて、悪い『娘』です。
くぅーくっくっく……
しかしまぁ、
理にかなっています。確かに。
そういう手段は大事です。出来る事はなんでもやる。
そう――
どんな勝負であっても、手を抜いてはいけない。
阿付兄さんがストファイ二で私をハメコンボで殴打しまくる
――そういう手段が現実的には必要です。
……ちゅ、ちゅん○ーさん……? 貴女、可愛い女の子なんじゃないんですか……?
みたいな。
正直、ゲーム社会では、必要ないと私は言いたいです。
マジで。
「緊急事態だ! 悪い、野乃月――」
そう言って、右足を軸に左足の脚力を限界まで振り絞り、野乃樹は身体を捻り、私の術式の距離――つまり、『顕現術』――『銃器』から距離を取るべく離れようとします。
しかし、それをわざわざ見過ごすほど甘くはありません――
「させません、
――縛れ――『縛』――」
私の言葉が発された瞬間、言葉が呪力を付随させた『弦』となり、伸びたその弦が野乃樹を縛り付けます。
陰陽術の一つに『真名縛り』という術がありますが、私が扱えるのはそんな大層な術ではなく、ただの強引な『弦』による捕縛――そして固定です。
別にわざわざ『銃器』を顕現させなくても、これくらい、ちょっと疲れますが、お茶の子さいさいです。……近づいていれば、ですが。
「きゃあああああああ!? 此奴が実は本気でやるとC級クラスってのを忘れていたぁ!」
「さぁ――大人しく、公衆の面前で痴態をさらしへぶぅっ!?」
いきなり後頭部にぱちこんと衝撃を受けました。何事!?
「……何やってんのよ」
見上げると、出るところ出て、強引な所もあり、弾ける笑顔……なんでしょうね。同性的には嫉妬の炎が燃え盛る空見式四乃さんが居ます。ぱっちりとした瞳に、肩の上程度のさらっとした髪――はっきり言って、美少女です。アクションもいける、格好良い女子。たまに野乃月ラリアァーット! をかましたくなりますが、残念ながら、以前、噛まそうとしたら、パワーボムを決められた事があるのは秘密です。
*
『ちょっと野乃月!どうしてわたしがそんなパワーキャラになってるのよ!?(式四乃さん)』『事実ですよね?(したり顔のわ☆た☆し)』『ふんぬらばっ!(式四乃さん)』『おぎゅぼっ!? こ、こぽぉ……(私)』……
*
「うぉおお! 式四乃! 丁度良いところに! 助けて!」
失敬な。野乃樹と来たら、何を勘違いしてるのやら。
私は別に辱めようとしただけなのに。
「……誰?」
しかし、式四乃さんの口から出たのは予想外の単語でした。ていうか状況も解らず、人の頭を叩かないで頂きたい。叩いても、ぼーなすぽいんとは出ないんですよ?
「うぇええええ!?」
それに対しての野乃樹リアクションは微妙です。ま、確かに普通に見れば、ただの可愛い女の子ですもんねぇ……。それにしても、
「……うぇう……なんかヒロインとして見せちゃいけない顔を見せてしまった気がします……」
とりあえず呟きながら、……垂れた涎を拭いながら、輪に戻ります。ちょっと、口と鼻から色々と漏れたような。いや、大丈夫だ、問題ない。まだヒロインポイントは残っているはず……っ! 弱冠野乃樹に奪われたような気がしないでもないですが……っ!!
戻った瞬間、式四乃さんの隣を歩いて、今日も絶好調。眼鏡が光る乃志波君が発言します。
「ていうか可愛い子だな、式――へぐぅ!? ……(がくっ←気を失う乃志波)」
ま、最後まで発言出来ませんでしたがね。
式四乃さんの腰の捻りの入った綺麗なぼでぃぶろーが決まりました。
ないすばでぃ!
……間違えました。
「あぁ、香奈恵ぇ!?」
野乃樹が唯一事態を収拾できそうな友人の一発退場に悲痛な声をあげます。
乃志波君は膝から綺麗に崩れ落ちていきます。がく、かく、どさっと。大丈夫でしょうか? ……なんか泡噴いてますが。
洒落にならないように見えますが。
「……香奈恵を知ってる? ……殺した方がよさそうね?」
止まらない、式四乃さん。
「式四乃さん!? 違います! おれに殺す価値はないですよ!?」
思わず野乃樹は敬語です。
「わたし程度だと勝負にならないと……?」
逆に勘違いしましたね。
「なんか変な勘違いしてるよねぇ!? さっきから踏んだり蹴ったりなんですが! おれが何した!? 何がいけなかったんだ!?」
「スクール水着で挑発なんて……やってくれるじゃない! わたしだって脱ぐわよ!」
「脱がなくて良い! おれが見たいのは野乃月の裸だけだ!」
「そんなっ! 香奈恵とは遊びだと言うの!? この変態!」
「助けて野乃月!」
助けを求められたので、優しく言ってあげます。
「脱がして良い……そういうことですね?」
「ビョーキのままなのかよぉ!?」
「ふへへへへへへへっゲヘゲヘこぽぉこぽぉ」
ていうか失敬な。病気じゃありません。正常です。辱めたいだけです。好きなんです。
ヨダレを垂らし、近寄っていきます――なんか最早アレな気がしますね。どっかの人造兵器てきな。頭から齧り付いていきましょうか。
よいしょっと……じゅるり……
「うわぁあああ!?」
悲鳴をあげられ、
「待って! 野乃月!」
式四乃さんに待ったをかけられます。あいや! 待たれぃ! みたいな。
「式四乃! 気付いてたのか!」
「……わたしがむごたらしく殺す。人の彼氏に手を出すヤツは……」
「駄目だったか! ていうかいやだからおれだって! おれおれ! 野乃樹! 野乃樹だから!」
「!? 野乃樹にまで手を出したの!? うらやm――けしからん。全く持ってけしからん! ハーレム女王を目指すわたしとしは捨て置けないな! もっとkwsk!」
「お前がけしからんわ! 何そのリアクション!? ていうかそんな夢抱いてたのかよ!?」
「わたしは――ハーレム女王になる!」
「さいっていだよな!?」
「でも……香奈恵が一番好き。超好き。正直言って、ハーレム女王とかどうでもいい」
「どっちだよ!? でも殴るんだ!?」
愛情が深すぎるよな!? と野乃樹が呟きます。確かに。そして、
視線を下げ、殴った右手を見ながら――
「……しばらく洗えないな……二週間くらい」
「いや洗えよ」
思わず野乃樹が突っ込みました。
でもまぁ、少し私は気持ちが分かるので、突っ込みませんでした。
「触れたのよ!? 舐めるしかないでしょ!?」
「ぇええええ!? 式四乃ってこんなキャラだっけぇ?」
「うふふふふ……あ、でも、……殺すから」
「何この差!?」
「駄目です! 私が愛でるんです!」
「いや愛でられない! こっちの身体じゃ嫌だ! ていうかなんでこっちの身体になってから愛情全開!? 何!? お前、ソッチ系だったの!?」
「野乃月! 裏切る気なの!?」
「私の嫁は私が守る! むふー!」
「複雑だな!? おれ! ていうかまるで聞いてないし! 複雑っ!」
とやってる所へ、
「おーい」
雪がやってきました。
私と式四乃さんは仕方なく、西部のガンマンよろしく、互いの武器を如何に早撃ちするかの構えを解いて、彼女を迎えます。
ふっ……私と式四乃さんは架空のコルトパイソンに息を吹きかけます。
「「なんだ、坊や……? 此処はミルクを飲む坊やの来るところじゃねえぜ!?」」
「仲良いね!?」
突っ込まれました。
「「そうかな?」」
「息ピッタリ!? じゃなくて! ……何? ……この状況……?」
言われてみれば、……可愛いスクール水着を着た女の子がいます。
果て……確か、
「私の嫁です」
「えぇ!?」
雪が驚いています。
「いや!? 違うって! おれだよ! 野乃樹! 野乃樹だよ!」
「なんだ野乃樹か。……上手くなったね……お化粧。バッチリじゃん。うんうん」
「その評価は間違ってるからね!?」
なんか涙目です。
「仕方有りませんね。予備の制服を借りに行きましょう。だいぶ、冷静になれました」
「マジだ! 良かった! 野乃月! やっとおれを――」
「何せ、『私』の式神ですからね」
くぅー、くっく……にやり(じゅるり)
「……ねぇ、雪」
「何? 式四乃?」
「……野乃樹って真面目に?」
「ホントに香奈恵が関わるとホント駄目ね……アンタ」
「いやていうかなんか問題が解決してない気がするんだけど!」
野乃樹が叫びました。はて? 問題なんてありましたっけ?
*
とりあえず、予備の制服(ロッカーに突っ込んであります。いやほら、普通はないですけど、仕事絡みで破れる事とかが意外とあるので)を野乃樹に渡して、今後の対策を打つことにしました。司会は雪がします。
「校内で、男性の女体化――それも、スクール水着を着た状態で発見される事件が三件……か。微妙ね」
「そうですね(なでなで)」
「うぅ……」
「ていうか、お前等、今授業中。確かに実験だから、いいんだけどさ。せめて、形だけでも実験してる風にしてくれないかな?(担任教師)」
ちなみに現在の実験は『砂糖菓子養成講座(これで彼氏もゲットだぞ☆)』。いや、実験じゃないですよ、これ……先生。それに、背景にちょっと見てはいけない何かがありそうな気がします。ていうか、この、『後』の部分が必要ないです。絶対。なんで括弧でくくってるんですか? 可愛いつもりですか? 欲望の垂れ流しですよ。はみ出してますよ、先生。
「しかし不思議です……女体化はまぁ仕方がないとして、なんでスクール水着なんですかね?」
「いや、仕方なくねえよ? ていうかなんで撫でてるの? 聞いてる? 野乃月?」
「……陰謀の臭いがするわね……」
「しないよね!? むしろ、ただの悪戯だよね!? まさかどこかの組織が全世界スク水化計画! みたいな展開でもないだろうしさぁ! ていうか雪さん!? この状況どうにかしてくれないかな!? なんでおれが野乃月に撫でられ続けてるのスルーしてるの!?」
「野乃樹! うるせえぞ!」
先生からの叱責が飛んできました。自称、行き遅れの二六歳。……別に私から見ると、そうは思えない程、可愛い気がしますが。
ま、男性の好みって良くわかりませんし。
「えぇえええええ!? なんでおれが怒られたの!? おれだけ!? なんで!? 理不尽だ!」
なんて野乃樹が言ってるので、
「撫でてあげます。よしよし」
「……複雑」
なんか野乃樹が呻いています。
「……話進めて良い?」
「お願いだから元の身体に戻してくれ」
……えー。
「嫌がってるけど?」
と、雪が野乃樹に向かって言います。
「あのさ、雪。おれがなりたいのは、きゃっきゃうふふの友情関係じゃないの。もっとぎとぎとした物なんだよね。確かに触れ合ったり、パジャマパーティーとか、二人で、その……一緒のベッドでなんちゃらみたいな。下着も嗅げたりとか、確かにそれはそれで悪くないけど」
「……だいぶ変態ね。ていうか異性にそういう事ぶっちゃけないでくれない? 結構なクズっぷりよね?」
「吉田の靴下とかどうだろう? 手伝ってくれたらプレゼントしようかな?」
「……良し。じゃあ、犯人の目星だけど」
物凄い方向転換したような気がしますね。そして、親友のだいぶ、ひどい性癖が明らかになったような……?
「ちょっと。普通だから。野乃月。そんな目で見ないで。これくらいは。……うん、これくらい普通普通。だよね? 普通よね……?」
「?……???」
……そもそも愛でるのに夢中で、親友の言葉なんてまるっきり聞いてなかったんでした。いやこりゃ失敬。おーよちよち。
「……駄目だね、こりゃ。野乃月は戦力にならないわ」
「そうするとおれも必然的に戦力にならないんだけど……?」
「いや、別に香奈恵か式四乃がいれば大丈夫よね?」
「……えー」
「で、話を戻すと――」
*
というわけで、張り込みです。
設置された式符の見える距離に、式四乃さんから教えられた隠形術を使い、隠れ、見張るわけです。勿論、ただ単純に見張るわけではなく、紙人形、つまり簡易式神を作り出し、餌として式符に引っ掛からせたので、もしかすれば、術者も現れるかも知れないわけです。
……隣にいる野乃樹が、何故か『なんでまだこの格好……? いや、ない。ていうか、こんな格好写真に撮られたら死ぬ! 社会的に! ……!! ……!! ……ぶつぶつ』と言ってますが、いや、すでにやばいです。女の子の制服が似合ってます。もうアレです。鼻血物です。ていうか、そもそもそう言った葛藤はメイド服を着た時点で終わってるんじゃないでしょうか? それと制服はまた別物なんですかね?
まぁとりあえず、
「私の嫁になるしかないですね」
「野乃月さん!? 近い! 近いよ!?」
「もう、いいじゃないですか。その身体でも私は構いません」
女同士なら別に……傷つく事もないかも知れませんし。
「おれは構うよ!?」
「はぁ。なるほど……」
野乃樹が出来る式神状態の最上位――『狼』になってまで、犯人を捕まえようとする辺り、野乃樹の本気が感じられますが……
……まぁ、いいでしょう。
なんやかんや私は恋愛の機微が解る女です。妄想はバッチリ。事前学習がガッツリ。エロゲもバッチリ。空気の読める女。いやいやそんな展開ないから、と言いながら、ついついやってしまうのはなんでですかね? 謎です。仕方ないのです。妄想全開、アクセルフルストッロルが女の子とよく言うんです! 女の子だって、エロゲします! するんですよぉおおおお! ……とにかくアレです。普通です、普通。ふむふむ、なるほど。ほぅほぅ、という感じで。
つまり、……アレですね。
野乃樹は、男に戻りたい、と。
きっと、まぁ……なんでしょうね。好きな人でも居るから……
ゲフンゲフン。
いいいいいいいいいいえ、べべべべべ別にちくりとか……い、いい、痛んでませんよ?何を仰るうさぎさん。
わたわたわたわたとわわ、私は設置した五芒星を――
「野乃月」
「な、なんですかね?」
割と精悍な横顔になってます! 可愛いのに! なんですか!? なんなんですかぁあああ!? いやまぁ、普段から格好いいっちゃいいんですけどね? しかし、あえて言うなら、流石『狼』形態! ワイルドノノキ! まぁ、伸びた髪と、顕現した半透明のふさふさの尻尾がなんでしょう。……なんていうか、わきわきさせて欲しがってる気がします。正直もうたまりません!
「……いや、違う。尻尾を握れ、じゃなくてさ。おれ、お前に伝えておきたい事があってさ。こんな状況で言うのも、なんだけど。その、アレだ。遅くなったけどさ、おれは、」
「っ!?」
こ、……これは……!?
「――なんで尻尾を握って感嘆詞!? ……いや、思った以上に触り心地が良かったので嬉しいのは解ったけどさ、……いやだからね、おれの台詞をね、うん、うん……いや、頬摺りするな。嗅ぐな。ていうか感じるから! やめれぇ! だめなのぉおおおおおおおお! うぅ! 尻尾を嗅いじゃらめぇええええええ! ていうかおれの話聞いてる!? 聞いてないよね!?」
「ふひっっふぬっふっふふふこぽぉ?」
やばいもふぁもふぁック具合! ……これはたまらないですよ! ふさふさとしながらも、水分を含んだ柔らかい触り心地! 低反発枕並の気持ちよさです。むぎゅー、むたむたむぎゅー。もっふもっふ。もっふもっふ。もぎゅもぎゅ。
「最早日本語の体を為してない!?」
「ひひっふぬっふふふ(パンツが欲しい?)? ぬふひふひ(変態)でゅふふふふ」
「意思疎通が出来る!? それともこれはあれ!? おれの勘違い!? ていうかそうじゃないんだよ! 野乃月!」
「へっ?」
「あのさ」
いきなりがしっと両手を握られました。なんだか、こう……良い香りがします。……なるほど、これが勘違いする男の子の気持ち……
そう言って、彼女――いやまぁ、野乃樹は彼でしたね。野乃樹が何かを口走ろうとした瞬間、
スクール水着を着て、眼鏡をかけた格好良い男性が現れました。
「「……」」
男性は設置された式符の状態を検分し、真剣な表情で、眼鏡をかちゃりとあげながら、呟きます。
「ふむ。……反応があったのにもかかわらず、スク水の女性が居ない……これは……罠か……となると、――其処に居るのは誰だ!」
私と野乃樹が潜んでいる茂みから明後日の方向を指差して格好良く言い放ちます。
「「……」」
仕方ないので、私は式符の周囲に設置しておいた術式を発動させます。
隙だらけでした。
なんの盛り上がりも見せず、「えええええええっ!?」と悲鳴をあげる彼に『弦』が絡みついていって、……なんだかこう卑猥な感じで纏わり付きます。
誰得……?
ていうかこの台詞を私は言いすぎじゃないでしょうか?
いえ、野乃樹が縛られてたら、別に私は構いません。ガン見は確実。……いや、なんでもありません。ただの冗談です。ホントにマジで。マジですから。縛りたいとか思ってませんよ! ホントに! ちょっとしか興味ないんですっ!
「何をするぅ!?」
「いや、『何をするぅ!?』じゃないですよ」
とりあえず冷静に突っ込みをいれてみました。まぁ、なんて格好してるんですか!の方が突っ込みとしては正解なんでしょうけど、……なんだかなぁ、というヤツですよ。えぇ、えぇ。なんだかなぁ……。
「そう――ワタシは、四相会、粋装派幹部にして、『伊達の眼鏡』の異名を取る――暁来字見!」
「ていうか語るんですか!? 秘密を! 名前まで!? ていうかその二つ名微妙ですよね!?」
助走も前置きなしのいきなりド直球ストレートですか! しかも別に聞きたくない事実!
「秘密でもなんでもない! 世界へ誇る特殊性癖だっ! きゃるーん! ぽーじんぐっ☆! くっ、縄が食い込んでる性でポーズがとれないぞ!? ……でも弱冠こすれて気持ち良い……? こ、こしゅれぅ……」
「どんなネタ晴らし☆ですか!? ていうか誇らないでください! ていうか秘密にしていてください! 謎めいた敵キャラであってください!」
まぁもう無茶な振りですけど。
「そもそもワタシは、彼女に『お願いだ!君のスクール水着姿が見たいんだ!』と懇願したら振られたから、仕方ないので世界の制服――ふぉーまるすたんだーどにするつもりでこの組織に入ったのだからな! すぱしーば!」
「どうでも良い理由ですね!?」
「日本人は馬鹿だからな。海外の流行とか言えば雑誌とかすぐ食いつく。マジカイガイサイコーとかな。英語ってだけで『すげー』とかな。エクセレントとかな」
「確かにそういう所があるのも認めますけどね!?」
「もうそういうところがマジでインディードだよ、ホント」
……うざいです。この人。
とは言え、最近は海外に憧れがなくなったんで、だいぶ薄れてる感じはありますけどね。
「とにかく、そこのお嬢さん……ワタシと一緒に世界をスク水で染め上げよう」
「どんな誘惑ですか!? ぴくりとも心が動きませんよ!?」
――――――――「馬鹿なっ……っ!」
「いやなんでそんな力一杯ショック受けてるんです? あり得ないでしょ?」
「お前スク水だぞ!? スク水着れば彼氏できまくりのモテまくりだぞ!?」
「いや絶対嘘ですよねぇ!?」
変態にしかモテませんよ! 絶対!
「いや、マジだ。現に、もし、もし、だぞ?」
「もし、ですね。えぇ、もし? なんです?」
「お前がスク水を着れば、そこの女装趣味の変態は確実に惚れる!」
「!?」
「おぃいいいいいいいい! なんで変態!? なんで女装趣味!? ないよ! そんな趣味!」
……一瞬、期待した自分を少し殴りたくなりました。
そして自分がそんなHENTAIでそれくらいやりかねないという事実に驚きを覚えます! 私が悪いんじゃないのです! 野乃樹が――って違う! そうではないです!
「そんな事を言いながら、『あぁ……どうせならこの罠に引っ掛かるのは此奴だったら良かったなぁ』と思ってた癖に。変態」
「アンタに言われたくないんですけどねぇ!?」
「……まぁ、それは確かにそうですね」
確かに縛られて悦んでる人に言われたくはないだろうなぁ、と。
「しかしまぁ……計画は順調さ」
「「?」」
「校内に設置した『式符』は順調に発動している。朝、――其処の女装変態臭いフェチの男にやったような、チャチな呪式じゃあない! 今度の式符は『スク水+強制女体化+スク水の神聖化を目的とした思い込み』だ!」
「「うわぁ……どうでもいい」」
「馬鹿な! 素晴らしい洋服じゃないか!」
「いや、水着ですよ?」
「いいから!」
いや、何が?
「大丈夫だから!」
だから何が?
「ていうか、二人、君等は状況を良く把握した方がいい」
「……? どういう事でしょう?」
「君等の敵はすでにワタシだけではない、ということさ」
がささ、と茂みをわけて出てきたのは……眼鏡をかけた怜悧な瞳の美人。そして隣で彼女に抱きついている……スク水を着た式四乃さん。……ふぉう。最早嫉妬というか、何て言うか、抱きつきたいです。式四乃さんに。舐めたい。
「ふっ、この高校にいる陰陽師であるなら、この二人が恐らく一番腕が立つ。そして、何より君等の友人だ。手を出せないであろう? 正義の味方の相場は友人には手を出せないと決まって――」
「どりゃああああああああああああああああああああああああ!」
「殴り掛かったぁ!? 君どこのウルト○マン!?」
私は、解呪の式符を貼り付けるべく、疾走の『呪』を使い、一気に加速します。
「術式――『呪壁』!」
しかし私が辿り着くより、早く、式四乃さんの術式が発動します。競り上がった結界の壁が私の攻撃を阻みます。
呪壁――結界を使った捕縛式の陰陽術です。
突っ込んできた相手に『弦』を絡ませ、身体の自由を奪います。
そして、何よりの脅威は――
「DORARARARARARARARARA!」
術式を施した銃弾を全て弾く事にあります。走り出した瞬間、顕現させた二丁の拳銃の弾丸より早く――現れた壁は私の攻撃を物ともしません。
「ちっ――固いですね」
「お前、銃を構えると性格変わるよね?」
「ふ○っくふぁ○くふぁっ○ですよ」
なんて言ってるところへ、
「――っ! 野乃月!」
いきなり抱きかかえられました。
「ちょっ! 野乃樹!」
「――悪いっ!」
元居た場所に視線を移すと、式神化した乃志波君が地面を抉っています。(恐らく。眼鏡が凄く可愛いです。ちょっとスクール水着を着ているので、一瞬、本当に乃志波君かどうか悩みましたが、胸に『かなえ』と書いてあるので彼で間違いなさそうです)
猫耳がキュートです。なんて言ってる場合じゃなさそうです。真面目な話、どうやら操られてるのはマジなようです。
これは不味い。
何より、相手がどうやって、彼等を操ってるのかわかりません。ていうか、そもそも本当に操られてるんでしょうか? 単純に、スク水の素晴らしさに気付いちゃっただけなんじゃないでしょうか? 乃志波君にベタ惚れ、ゾッコンラブの式四乃さんなら、乃志波君に『見たいんだ! お前のスク水姿を!』なんて迫られたら、『やれやれ。もう……仕方ないなぁ』とか言いながらいそいそと着替えそうですからね。可愛いじゃないか! そんな姿を私が見たい! ……さて、そんな余談は置いといて。
さらに乃志波君の攻撃後、飛びかかってきた兎耳を生やした式四乃さんの蹴りを弾く、野乃樹。私はその間に、式四乃さんへ向けて、縛の術式を放ちます。
しかし、流石波野高校のエース(仮称)。
私の縛の『弦』を乃志波君が発動した『結界』によって、遮られます。
おい。
二人してやる気満々です。
「ふははははは! イケイケっ――!」
あのスク水むかつきますね。
しかし、それにしても、彼に向けて攻撃する隙がまるでありません。野乃樹に抱えられたまま、隙を見つけては式符を投げ、術式を発動させて攻撃を仕掛ける――いくつかの自動定点射撃装置という物も召喚しましたが――……無力化できず、全て二人に叩き潰されれるという状況……、挙げ句は、反撃を受けての防戦一方。これでは、千日手――そして、時間が経てば経つほど、不利になるのはこちらですし。
「どうする?」
「うーん」
流石に野乃樹も全力での攻撃を躊躇っているようです。
スク水の男に近づくだけで、勝ちが決まるのですが。
確かに操ってる方法は解らないです。
けれど、単純な縛の締め付けで相手の意識を刈り取れば、問題はないでしょう。
所詮、術式ですので。
もしくは、解呪の式符を操られている相手に貼り付けるか。
迷ってる暇はない……です。
……このままでは下手すれば、波野高校隠れ魔王『青木雪』が降臨しそうな気がしますし。彼奴の場合、解呪だのなんだのなんて小手先の技では通用しないようなチート技を持ってますからね。……しかし雪のスク水姿は見てみたい気もします(まぁ吉田君に阻止されそうな気もしますけどね!)! 複雑っ!
「……いや、単純な策があった。良し、耳を貸せ」
ごにょごにょごにょごにょと野乃樹が私に耳打ちします。
「えー」
「いや、最適でしょ? この手段が」
……なんでもないことのように言いますが、此奴は真面目に性格が悪い。
ていうか、此奴が変態なだけじゃないだろうか?
「いの一番に見せてくれるなら、おれは構わない」
変態にしか思えませんが、……正直、きゅんときた私は阿保です。
いや、ていうか、どういう意味?
勘違いしそうな心に鞭を打ちながら、私はとりあえず作戦に乗っかります。
*
姿を消した二人を訝しみ、暁来字見は二人に周囲に気を配らせる。
ていうかそろそろ頭に血が上りそうだ。ギモヂワルイ……ウェエエ……。
そもそも式符を媒体に他人を操る、という術式自体に無理があるのだ。ギモヂワルイ……。この調子では頭領にスク水を着せるなんてできっこない! ……駄目だよ、ママン。駄目よ! 頑張りなさい! 暁来字見! そう自分に鞭をうち、式符を媒介として、暇そうなスク水化をした人員を探すが、一時的に命令を聞くとは言え、どうもすでにスク水化の影響なのか、それとも変態揃いの学校だったのか、スク水に夢中で、誰も助けに来ない。
ナニコレ?
どうして?
とにかく、
このままではやばい。
其処の二人はたまたま影響範囲内にいて、分かり易いお互いへの伝達手段を扱っており、ついでに軽く取引を持ちかけてみたら、食いついたので、……いやぁ、……マジで運が良かった。
とは言え。
そう、あくまで、とは言え。
取引、という事は、それ以上の条件があれば、すぐそちらに寝返る、という事。
元男の(現在は眼鏡美少女)が話しかけてくる。
「それで、四相会に入会するにはどうすればいいんです?」
「その答は……あの二人を無力化してからだ」
「じゃぁ、そう言うことならわたしと香奈恵はもう用無しね。お疲れ様でした」
「ごめんなさぁい! 冗談です! 今すぐ喋ります!」
力一杯謝ってみた。
「全く。困るよね。式四乃。こうやって、すぐ取引を引き延ばそうとするヤツは」
「ホントにそうね。しかも謝っただけで全く喋ろうとしない辺り、最悪よね。もういいんじゃないかしら? 放っておきましょうよ」
「待った! それは困る! せめて縄を!」
「じゃあ、情報を寄越せ」
……このくそ眼鏡……ドSなところもあって物凄く可愛いじゃないか! はぁはぁ、はァハァ! いじめられたい! いじめらた――へぶっ……!?
「香奈恵をいやらしい目で見るな」
一番、いやらしい目で見てた娘に殴られた。
ナニコレ?
なんか納得いかない。
「で、四相会は何処にあるんだ?」
ていうか最早これは尋問、脅しじゃないだろうか?
「言わないと、もぎ取るぞ」
何を!?
疑うが、目がマジだ。冷たい瞳をしている!ていうか最早ワタシはアレだ! 絶対絶命じゃないか!? なんで!? どうしてこうなった!? おかしいぞ!? そしてどうしようもなく昂奮を覚えるこの身体が……熱い!
「乃志波をいやらしい目で見るな」
さっきから彼の腕もガッツリホールド! してるヤンデレ風味の娘に往復ビンタされた。凄く納得がいかない。
ナニコレ?
なんなのコレ?
「主核搭載計画ってのはなんだ?」
「えぇ!? いやなんで君それ知ってるん!?」
「良いから」
「いや良くないよなぁ!? 機密だし、ワタシも詳しくは知らん!」
「そっか。じゃあ用済みだな。……さて、……もぐか」
「眼鏡ぇえええええええええええ!(やめてぇええええええええええええええええ!)」
と、言い様のない昂奮を覚えながらも、でもやっぱり嫌だと言った瞬間、
がさり、と先ほど逃げた一人が姿を現す。
正直、――天の救いだと思った。
先ほどの、なんか見た目と裏腹に物凄い殺気を放つ、美少女がスク水姿だったのだ。これは天が救い与えもうた千載一遇のチャンス!
そう言えば、さっき、『えぇええええええええええええええ!?』という声が聞こえた気がしたのだ。
アレはつまり、ワタシが張って置いた式符に引っ掛かった……。
些か、都合が良すぎる気がするが、きっとそんな事はない。普段から、スク水神に、三度のブルマとスク水の奉納――それと、プロテインの進呈が効いたに違いない。
ワタシは早速――
「助けたまえ!」
命令を伝える。とにかく。ていうか、目の前の二人が怖い。
――「承知しました。です」
そう言って駆け出す彼女、――野乃月といったか。ぱっと見、美少女だが――何かが違う彼女がこちらへと近づく。微妙にどこか残念。やはり髪型とかがかなりいい加減だからだろうか? 両手に顕現させた機関銃を手に、身に纏う『呪壁』――その発動速度は速い。異常と言っていい。お供の式神に比べて、正直、全然期待していなかったが、これはお買い得。
頭はぐらつくし、
喉はからからだ。
しかし、ワタシは耐えた。
……耐えたのだよ。
そう――
ワタシは勝利を手にしたのだ。
ワタシは勝利を確信し、全てのおっぱいを愛するおぱーい星人たるワタシは彼女の胸元を思いっ切り注視しようと――
……というか、アレ?
あの女の子は確か『野乃月』と呼ばれていたよな?
しかし……なんで、
なんで顔が真っ赤で――
胸の――
そう、スク水の胸の刺繍が、
――『野乃樹』
なんだ……?
「どぉりゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
「おぐぅうううううううううううううう!?」
……殴られた。
ナニコレ?
凄く……、納得いかない。
*
「変態目」
『弦』によって縛られた変態スク水男に言われました。
ナニコレ?
なんだか凄く納得いかないんですけど。
「ぺっ、……好きな相手を式神にしておいて、挙げ句、スク水を――」
「――ふんっ!」
「――ぐほっ!?」
……なんですかね?何を言おうとしたんですかね? この変態は?
とりあえず用は済んだ(皆のスク水化を解くという)ので、陰陽庁に連絡をいれておきました。いえ、助け自体はすでに呼んであったんですけどね。でも、警察機構と違って、フットワークがマジ微妙なんです。
事態は解決した、と。まぁ、
到着した、調査官、もとい、陰陽庁の機関員に事情聴取されていますがね、野乃樹が。
「で、千代野乃樹。どうして裸なの?」
「いえ、それには結構な理由がありまして」
「ふぅん。なるほど。あまりの可愛さにちょっと裸になっちゃった、と」
「変な記述を調書に付け加えないでくれませんかね!?」
「元に戻って良かったね。童貞に戻れて……ぐすん」
「勝手に同情しないでくれますかねぇ!? ていうかなんでおれが童貞って事をわざわざ言ったの!? ていうかなんで泣いた!? ポイント稼ぎか!?」
「ところで、……身長伸びた?」
「どうでも良いですよね!? そして伸びてない!」
彼女は、野乃樹の元契約者――陰陽師。というか、師匠、というか、先生みたいなものらしいです。
機関員――長月美沙。スーツでもなんでもない、ただの私服ですが、歴とした機関――陰陽庁の職員です。
「さて、調書終わり。……あ、そう言えば、野乃月ちゃん。久しぶりね」
「お久しぶりです。その節はお世話になりました」
「いえいえ」
「?」
実は、彼女と私は、同志だったりします。いやいや。BLの世界に最初踏み込んだのは、彼女から借りた本です。こそっと一冊だけ、紛れていたわけです。返す時に、
『……どうだった?』
『ハイド(隠語)はとても素晴らしい出来でした(だくだくだく←鼻血が漏れる音。過剰表現です)』
『……ふっ。ならば今度一緒に鼻息荒く探索しよう』
『イエスマイロード!』
みたいな感じ。
「しかし、丁度良かったわ。伝えておきたい事があったの」
「……伝えておきたい事ですか……?」
はて? 主流から外れたこっち側で何か事件でもありましたっけ?
「四相会ってあるでしょ?」
「はぁ。言われてみれば、最近の騒動はどうもその会との関わりが深い気がしないでもないですね」
地位奈派と粋装派に、丹生祖派と……聖譜派でしたっけ? それぞれが単独行動を行い、けれど、集約は全て頭領へ、という。
「どうもその四相会に不穏な動きがあってね。主核搭載計画っていう……なんだか、危なそうな感じの計画が。だから、気を付けてね、と」
「ふむ」
……しかし、まるで、私と関係のなさそうな計画ですね。
「どちらかと言えば、野乃樹の方が関係ありそうですよね?」
これはホントにぽろっと思っただけでした。真面目な話。
何せ、野乃樹は純粋な式神一家の式神――まぁ組んでるパートナーはイマイチですが。実力はまぁ結構良い感じなはずですし、『狼』を憑かせる、というのは存外大変らしいですからね。
『主核』という単語に関わりがあるとするなら、と思ったわけです。
しかし、帰って来た返答は、予想外で。
「……そうかも知れない。だから、ホントに気を付けてね」
「え? マジですか?」
割と軽口のつもりだったのです。言い様のない、不安が少し首をもたげます。
「しばらくこの辺の常駐もするだろうし。……また連絡するわ」
私は彼女が去った方向を見ながら、少し物思いに耽ります。