双方向性感情振動線 働くお嬢様 1
双方向性感情振動線 働くお嬢様 1
最早性感という単語が有ること自体エロイ……
そんな事を思いながら私は資料を見ながら目の前に置かれたうどんをすする。
人参、きゃべつ、豚肉、というあまりもの、もとい、普段からこんな感じの食材しか使ってないんだろうな、という食材に、玉子を落としただけのいわゆるうどんをすする。
「はい」
さらに、ことん、という音とともに傍目にも汗を掻いた良く冷えてそうなコップと水を置かれる。
私はそれに水を注ぎ、喉を鳴らしながら飲む。
「ふー」
「誰も取らないってば」
言外にゆっくり食べなよ、とも聞こえるが。
「こうやってがーって食べるから美味しい時もあるんだけど」と、主張する。
「わからないでもないけどさ」
そう言って、彼はカタカタとパソコンを叩き始める。
扇風機が回ってるので、後で「あー」ってやろうと思いながら、一息。
今年二八になろうというのに、私はまだまだ大人になりきれない。
彼――大飯俊介には、『十分大人っぽいと思うけど?』と言われたが、正直、ひどいもんである。
そもそも、なんで私――美咲御津が――彼、隣の部屋の住人の部屋にいるのかの理由にしたってひどい。
私が住んでいるアパート――『ロイヤルビレッジ大津屋』はある意味確かにロイヤル。
木造建築で、年代を感じさせるそのたたずまいはマジロイヤル。なのだ。
とは言え、バス・トイレ別で、洗濯機を置くスペースもある。
昭和な空気で良ければある意味都。うちの父親なんて、
『お前……なんちゅーところに住んでるんじゃ』
と軽く涙を流すくらいは。
で、
それだけボ……、ロイヤル仕様だと鍵穴もなかなかのロイヤル仕様。
私は二〇二に住んでいて、彼は二〇一に住んでいる。
で、ある日、酔っぱらっていた私は、普通に二〇二の鍵で二〇一の彼の部屋で寝ていたわけだ。(ちなみに二〇一の鍵では二〇二は開かなかった)
マジロイヤル。
朝起きてみれば見慣れてるけど細部が違う知らない部屋。かといって、昭和風なのは相変わらず。
見知らぬ彼が隣でごろ寝。どうやら布団から蹴り出したらしい。
そしてまるで身に覚えがない。
しわくちゃになったスーツを触ってみるけど、特に乱れた様子はない。うん。
貞操は無事だったらしい。
いやまぁピュアかと言われればそこには疑問符をつけざるを得ないんだけどね。
夏だったからまだアレだけど、蹴り出した彼は、どっかの王子様のような外見で。
「起きたの?」
欠伸をしながら、頭をかきかき言ってくる。
「?」
正直状況に頭がついていかない。
そもそも女性というのは朝が弱いものなのだ。そうだったらそうなのだ。
良し、まずは落ち着こう。落ち着くべきだ。落ち着く。私は……落ち着かない!落ち着くわけがないよ!えぇ!だって落ち着くわけがないのは当然でしょう!
だって、これ他人の布団――っていうか布団!?えぇ!?布団!?なんてものにくるまってるわけ!?なんかえっと香りが――じゃなくて!
「はい、珈琲」
そう言いながら、彼が可愛い犬が描かれたマグカップを差し出してくる。
「砂糖とミルクは?」「あー、とりあえず大丈夫」「うぃ」
……なんでしょう。この彼の落ち着きは。
なんだか自分がひどく馬鹿みたいです。
大体そもそもアレです。仕事がいけないんです。仕事が。と、とりあえず散々お金を貰っておきながら文句を言うの図(人間なので。彼氏の愚痴、みたいなもんですよね)を脳内でやりながら、少し気を落ち着けて周りを見ます。
そう――私はつい先日フラれたばかりなのです。
朝八時には出社して気付いたら翌日。部屋は荒れる荒れる、仕事はたまるたまる、週末の休日はほぼ寝てる。洗濯と食事のためだけに起きて、体重はじわじわと右肩あがりをしようと待ち構えていて、けれど、有効打は何もなく、お金はその分、出ていますが、人生の充実という点から見るとどうでしょう?仕事が普通になってしまって、ついに先日、
『いや、あのさ。俺と一緒にいる意味ないよね』
とメールで一言入ったのが切っ掛けで。
気付いてみれば、メールだけしかせず、それも一日に二、三通。気持ちが通じてるとばっかり思っていた私としては急転直下。いや、心配はしていたんです。
でも、女の子(主張させて頂きます。気持ちは!気持ちはね!)としては彼氏の前に出るならバッチリ決めて、ストーリーを楽しんだ上にごにょごにょしたいのは事実!だせばいいとかそんなんじゃないんです!
いつでも、
おっしゃばっちこーい!
じゃないんです!マジで!そういう時もありますが!
だから昨日の飲み会ではっちゃけたのでしょう……。
なんか日本酒の瓶をラッパ飲みしてる図まで浮かんできましたよ……?果たしてアレは誰でしょう?
うん。
私だっ!
日本酒はそういう飲み方をしてはいけません!勿体ない!
あぁ……今の私がその場にいれば……
ひったくってちびちびと飲むのに……!
ていうかその突っ込みはどうなんだ!……私!
けれど、その程度で済ました自分を褒めてあげたい……!!
と私がうんうん唸ってると、
「はい、水」
ことん、と傍目にもよく解るコップが汗を掻いた冷えた水が目の前に置かれました。
で、頭をぼりぼり掻きながら彼はパソコンを起ち上げます。
と、そんな事を思い出しながらうどんをちゅるちゅるし尽くした私はだれんと机にたれぱんだします。
だるだるー……
最近毎週のようについつい入り浸ってます。
最近は業績が良くなり、で、金曜の夜に打ち合わせと称した飲み会、というか接待が多いのです。
こんなことではいけない!いけないのにー!
男を!男を捕まえといけないのにー!
前髪はボサボサで、垂れていて、コンタクトは外して眼鏡装着。化粧は崩れていて……。
……ちょっと待て私……。
え?
……よくよく考え直してみると私、もしかして凄い格好じゃない?
いつも結構酔っぱらってなし崩し的に上がり込んでるからとはいえ!
そんな日常を過ごしていたら、
『御津、アンタ婚約者は出来たの?』
『か、母さん……?』
そんな電話が来た。




