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彼女と僕のややこしい霊的事情の云々かんぬん 3


 その翌日――いや、彼女に言った瞬間、日を跨いでいたのだ。その日――だろう。

 霊虚が現層に現れても、彼女はその姿を見せない。

 代わりに現れたのは――

「……君が西潟禄君か……」

「どうも……こんな所までご足労かけちゃって申し訳ない」

「……雅史君に言づてを頼んだのは正解だね。君、相互扶助協会にいるより、ウチに来た方がいいんじゃないかね?」

 撃退課、退魔相互扶助協会の上の『管理課』に所属する上司。

 宇賀智幕田。

「そうするとこういう小遣い稼ぎが出来なくなるじゃないですか」

「ふふ、それもそうだな……しかしイイのかね?彼女は君の友人だったのだろう?」

「気にしなくても、問題ありませんよ。僕はこういう生き方なんですから」

「生き方、ね?まぁいいけど、君は証拠を掴んだんだって?」

「まぁ、幕田さんもご存じの通り、彼女は『創世』クラスの実力者です。そんな彼女がなんの価値もないような、霊墟にいるはずがない……まぁ推論としても正しいし、事実、そうです。どこに稀少なアイテムがあるか?一番手強そうなヤツの所にいけば良い、というのは常識ですよね」

「……で?」

「まぁ焦らないで下さい。彼女が、『封印』していたのはナニか。それを知りたくて来たんじゃないですか」

「……」

「彼女が封印していたのはあなた方の予想通り『魔王』級のアイテムですよ。一回使えば世界が半分滅びるような」

「……君はソレを手にしようとしないのかぃ?」

「僕みたいな一般人が手にしても、『創世』クラスに敵いませんよ。あくまでこのアイテムはレベルの底上げ――それに多種多様の『稀少武器』と同じで、持ち手を選びます。多分、それが彼女の懸念でしょう」

「代償は?」

「恐らく『死』でしょう。もしくは、肉体的な『死』と魂の『束縛』」

「取り込まれる、と?」

「多分。これは完全に僕の予想でしかありませんが、取り込む事で力を蓄えるアイテムですよ。ハガレンの賢者の石みたいなモノです」

「アイテム自体がなんらかのエネルギーを持ち、使う、と」

「霊虚の主が居ない今、此処には邪魔するモノはありません。玉座を開きますよ」

「そんなに分かり易い所にあるのか!?」

「じゃなきゃ、彼女が此処に立っていた理由にならないじゃないですか」

 右の肘置きに据えられし杖の頭に触れると、

 玉座が割れる。

「おぉ!?」

 其処にあるのは何の装飾もない『指輪』。

 しかし、近づいて見れば解るように、そこには細かい微細な傷が見える。

「肉眼じゃ確認できませんが、その傷のように見えるモノは、恐らく『呪文』でしょう」

「なるほど……しかし、君は凄いな。一般人程度の能力しかないのに、創世の彼女を退け、そして管理課にしかとそのアイテムを渡すなど」

「一般人程度の能力しかないから、出来るんですよ、こういうことが。弱者のルールが、強者を痛めつける場合があるように、ですね。それに、全世界の管理をしている方達に『魔王』のアイテムを渡すのは当然ですよ。じゃなきゃ、誰が世界のバランスを取るんです?」

「……口も上手いな」

「で、幕田さん、どうするんです?」

「ナニがだ?」

「どうして管理課の幕田さんは護衛もつけず、一人でこの場に現れたんです?周囲には居るようですが」

「……気付いていたのか?」

「まぁ全然気付いてなかったんですよ」

「……カマをかけたのか」

「まぁ、そういうことですよ。それより、僕が気になるのは、どうして、幕田さんの左腕にその『腕輪』があるんですか?それは撃退課が管理している『魔王』級のアイテムですよね?」

「いやなに、似ているが、それとは――」

「『九死挽回』……でしたっけ?」

「……」

「他人の魂を取り込み、九回の死までは耐えられる腕輪、でしたよね」

「……」

「差し詰め、此処の『指輪』――『不倶戴天』を使うため、でしたっけ?」

 黙り込む幕田。その目は嫌に鈍い光を放つ。

「『九死挽回』は恐らく、完全な状態でしょう。じゃなきゃ、此処まで来ない。貴方は、念には念を入れて、九人は確実に殺している。間違いなく」

「……」

「すでにその手に『不倶戴天』――指輪は握られている。貴方はそういうアイテムだと知って、その『九死挽回』を持ってきていたんですよね?」

「……お見通し、か」

「今回の騒動の裏にいたのは、撃退課でも相互扶助協会の上でもなく、貴方ですね?宇賀智幕田さん」

「……そうとは限らんよ」

「とは言え、貴方が出てきたのなら、話が早い」

「?」

「僕が考えていて、最悪のパターンは敵の黒幕本人ではなく、その下の人間がでてくること。撃退課の上や相互扶助協会の上だと困ってしまったんですけど」

「……けど?」

「まぁ有り得ませんよね、それ。部下の能力が自分を超えてる場合、それは部下ではなく、ただの脅威ですからね。管理課の人間としては好ましくない、まぁ、人情的にも普通ですよ、それ」

「……」

「何より、その『不倶戴天』があれば、世界を牛耳れるんですから」

「貴様、それはわざと言ってるのか?」

「いえ、貴方の狙いが実は、この世界への復讐、とか、魂の輪転、とか、無き妻を取り戻す、とか、管理課が管理という名目で起こした戦争の締結、とか、本当の意味での管理、という目的、とかは別にどうでもいいんです」

「貴様……!!!」

「俺の手はすでに血みどろだ、だから今更九人殺したところで、と言って殺して回った罪は果たして戦争より軽いのでしょうか?貴方が必死に走り回って、戦争ではない経済効果を起こそうと躍起になり、けれど、上手く行かなかった時と違い、其処にあるのは明確な殺意。貴方の奥さんが犠牲になった戦争とナニが違うんですかね?」

「……」

「というわけで貴方のやろうとしていることは、無駄です。はっきり言って、マジで無駄です。貴方がそんな『不倶戴天』を振り回したところで、世界に復讐は出来ません。ついでに言ってしまうと、幕田さん。貴方の能力じゃ世界を破滅させることは出来ません」

「二四程度のガキにナニが解る?」

「いや、解りません」

「ムカツクヤツだな!オマエ!」

「いやいや、解るわけないじゃないですか。似たような気持ちになれても、貴方の苦労はわからないし、苦痛もわかりません。そんな便利な能力を人類は獲得してないんですよ?」

「……」

「だから言ってるんですよ。管理課の宇賀智幕田さん。無理です。あんたのような境遇で世界をどうにかしようと思って、それは世界の為になりません」

「……どういうことだ?」

「衣食住足りて礼節を知る、そのままですよ」

「?」

「幸せじゃないヤツが幸せな世界を目指そうとしても、其処にゴールはないんですよ。幸せを追いかけてる時点で幸せ、とも言いますけれど、それは間違いです。幸せな世界を作るのは、すでに幸せな人間だけです。あんたみたいに不幸の土壺にはまっているオッサンには、無理です」

「……だからといって、俺が此処で――」

「膝を屈する理由にはならない、か。じゃあ、良いことを教えてあげます」

「……?」

「その『不倶戴天』は偽物です」

「――!?」

「というか、ホンモノは不倶戴天なんて名前じゃありません」

「し、しかし確かにオマエは――!」

「言いました。椿を相手に僕はその名を口にし、貴方の耳にこの情報が届くように謀りました」

「な――」

「貴方の指に握られているソレは『不倶戴天』ではありません」

「使ってみれば――」

「――解ることですよね?」

 この情報の真偽は僕が掴んでいることになっている。

 そして、宇賀智幕田にしてみれば、僕が椿と話したことが起点になっている。

 それは、僕が漏らした、という点から見れば、確実な情報。

 まず間違いなく、偽装でない情報。

 しかし、現実には――

「貴方が僕の情報に目をつけていたのは知っています。じゃあ、どうして盗まれるままにしておいたのか。単純な話です。それがブラフだから、ですよ」

「偽装だった、と?」

「その指輪は、貴方が望んだ不倶戴天ではないんですよ」

「……くっ!」

「だから諦めて、其処でその殺意をしまい込んでください。貴方が手に入れた情報は全てそういう風に作られた情報です」

「貴様……!!!」

「公務員なりの矜恃ですよ。捕まる時はちゃんと捕まってください。幕田さん」

「それでも――」

「無駄ですって」


 幕田が一気に吹っ飛ぶ。


「――――!?!?!?!?」

「禄、おぬしはマジで性格が悪いの」

「あれ?佐惠木?」

「なっ――!?」

「全く、ナニを考えておったのかは知らんが、なんじゃこのダメ男は?見た目だけじゃないか。おぬしの友人はこんなんばっかかの?」

 ぽいっと椿が頭から放り出される。ゴロゴロ。

「もう少し、足止めが出来るかと思ったんだけど」

「やるならやるでしっかりやらんか。この阿保、儂のスカートばかり気にしておったからの」

 予想以上に椿はエロに素直だったようだ。

「いや、言うても健闘した方だよ」

「そうなのかの?」

「で、どうします?幕田さん?」

「……ナニが、だ」

「幕田さんくらいの実力ならわかりますよね?実力的な退路は断たれましたよ」

「……」

「護衛も今頃目を回している頃でしょうし」

「どういうことだ?」

「最初っから、罠にかける気まんまんで僕は此処に来た、ということですよ、幕田さん」

「――っ」

「無駄ですって、身体はもう動きませんよ」

「――っ!?」

「結界です。縛り結界。そこの佐惠木の結界から抜け出るのは不可能ですよ、僕らじゃ」

「だからと言って!」

「悪いですね、幕田さん」

 僕は動かない彼の腕から『腕輪』だけを外す。

「僕が貴方にあげられるのはそのアイテムだけです。僕は事なかれ主義なんですよ」

「……?」

「僕はお金もないし、性格も悪いですからね。恩を売る、という一点に関して言えばそれこそムカツクぐらい頭が回るんですよ」

「……?どういうことだ?」

「その指輪は『輪廻回帰』というんですよ」

「……」

「代償がないわけではないです。貴方の生命力を相手に分けるだけですからね。それも、ある意味屍鬼として」

「……」

「ただし、その屍鬼は式神の式と一緒で、従者の意、です」

「?」

「残念ながら、その相手と死ぬ時は一緒です。そして、相手の意思までは操れません。逆に、いわゆる従者ではなく、対等な相手にしてしまいます。そのアイテムを作ったヒトは泣いたそうですよ『ここまで再現しなくても』と。そりゃそうですよ、本人なんですから」

「??」

「じゃあ、幕田さん、僕は貴方のこれからの働きに期待していますよ?」

「貴様どういう――っ!?ほげぇっ!?」

 倒れる幕田。

「言われた通りに倒したが良いのか?」

「悪いね、佐惠木」

「くくくっ、しかし、おぬし、ホントに性格も悪いのぅ?」

「良く言われるよ」


 後日談をしよう。

 結局、騒動は落ち着き、霊墟は跡形もなく、霊層に送り返せた。

 宇賀智幕田はこの件には一切関わっていない。それが公的な記録だ。

 霊虚の封印は解かれ、佐惠木は『守護』の役目を失った。

「おぬしなんてことを!?」

 と、マジで切れそうになっていたが、その話は置いといて。

『九死挽回』によって、魂を抜かれていた犠牲者の方々には、しっかりと生き返って貰った。

 肉体まで切り刻むような異常さがなくて幸せ、という結論である。

『九死挽回』はあくまでゲームで言う残機と同じ使用法なので、戻す『手順』さえ知っていればどうにかなるのである。

 まぁどちらにせよ、最悪だ。

 なんだか狐に抓まれたような結論とも言える。

 そして、さらに最悪なのは、

『妻が戻ってきました』

 という宇賀智幕田の手紙である。

 写真が同封されており、彼女とピースで殴られた後がありつつも、満面笑顔な幸せ宇賀智幕田の姿である。

 敵に関して言えば、僕は完全に上手くやっただろう。

 しかし、味方に関して言えば、

「どういう始末のつけ方じゃ!」

 僕の部屋に居座る、彼女と、『魔王』。

「いや、いいんじゃないの?さえちゃん。別に私は気にしてないけど」

「だー!何のために儂があそこにおったと思っておるのじゃ!魔王!おぬしを封印するためであろう!?」

「禄ー、珈琲」

「ういーす」

「慣れすぎじゃなかろうか!?」

 彼女――『魔王』は事実、佐惠木によって封印されていたのだ。

 彼女が最初に言っていた言葉は真実であり、事実、佐惠木の実力でも敵わないような実力を持っているようだ。

 とは言え、現実、彼女にはもうそんなつもりはない。

「それより、さえちゃん」

「なんじゃ?魔王?」

「これを早くやろう!」

「……?ゲーム?」

「そうだ!早く一狩りいくぞ!」

 佐惠木がこっちを見ている。

 その表情にはありありと言いたいことが書かれている。

『誰?』と。

「いや、貴方の封印していた『魔王』ですよ、『魔王』」

「はぁ―――!?儂の知っておる魔王は『私、ちょっと暇だからオマエちょっと神様に喧嘩売りに行くか』ちゅーヤツじゃぞ!?」

「其処で伝説級のモンスターと戦ってるけど」

「……ホントじゃ……」

「凄いわ!マジで!ヤバイ!だからさえちゃん!次は一緒に――来た――――!」

「てぇことはアレか?……此奴、実はただのオタクじゃったのか?」

「……いや、どうなんだろ?そこんとこは知らないけど、スゲ―楽しんでるよ?」

「……ふぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「儂の……あの霊墟での日々は……」

「まぁまぁ」

 佐惠木の肩に手をやり、ぽんぽんと叩く。

「これからは縛りもないんだし、この世界での楽しみ方でも見つけると良いんじゃね?」

「……全く、ホントにおぬし、変なヤツじゃな?」

「良く言われるよ、マジで」


 手紙


 えー、父上。お久しぶりです。

 相変わらずご清栄の事と、存じますが――ってよくわからない(不出来な息子で申し訳ない)ので、簡潔に言ってしまえばお元気でしょうか?まぁきっと、家族揃って元気な事を祈っています。

 母上には相変わらず父上の方からこういった情報が流れていないようで、少し安心しています。(母上は相変わらず『コンビニ、頑張ってる?』と尋ねてくる位です。)

 今回の騒動に使った金額に関して、ナニかご入り用であれば、用立てしますので、よろしくお願いします。

 と言っても、父上に取ってみれば、そんなんはどうでもいいという話かも知れませんが。

 僕の運用方法ははっきり言って、無駄、以外の何物でもないし、結果も些細なモノです。

 極端な話、誤差みたいなモノでしょう。おっきな視点から見れば。

 まぁこんな話を手紙に書いている辺り、すでにどうしようもない息子です。

 では、またいずれ手紙を書きます。


 あ、そうそう。同居人が増えました。

 厄介な事に?

 残念な事に。

 どうも、僕はそれなりに人間関係をどうにか頑張れているようです。

 嬉しいことに?

 ツいてないことに。

 まぁどうにか頑張れてます。

  敬具 西潟 禄


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