彼女と僕のややこしい霊的事情の云々かんぬん 1
「あのー……そろそろ、どいて貰えないですかね?」
「いやじゃ」
どうしてこんな事になったのか。
目の前に立っている彼女――玉義佐惠木を前に僕は立ち尽くす。
「つーか、おぬしもいつまでもだらだらといつまで此処にくるつもりじゃ」
「そうは言われても仕事なんですよ、僕も」
「じゃあ儂も仕事じゃ」
彼女の見た目は同い年くらいだ。それよか下手したら下。でも多分、その実、いくつなのかは知らないが、かなりの年ではあると思う。しかしそんなことを口にだせば目で追い切れない速度のパンチが僕のホッペタにめり込むのは間違いようがない事実なので、言わないけれど。
僕の名前は西潟禄。職業フリーター兼退魔士である。本業はどちらかと言えばコンビニ。退魔士はどちらかと言えばアルバイトである。
本当は本業だけど。
退魔士は国家資格だけど、これほどゆるい国家資格は他にないに違いない。面接会場に行き、眼鏡をかけた眼光のするどいおばちゃんが、
「うん、良し」
これで終わりだ。
拍子抜けである。ロフトで買った簡単マジックシリーズを使う時間もなかった。
折角の練習が無意味だとは……しかしまぁバイト仲間に見せたりするので無駄ではなかった。花をさっと取り出すとか朝飯前である。タネさえあれば。
……話が逸れた。そう、友人の誘いでなったはいいけれど、肉体的にも能力的に正直僕のスペックはいまいち……いまさんなので、単発の仕事が多い。後は荷物持ちとか。勿論、収入も良い方ではないから、普段はコンビニで接客をしている、というわけだ。
でも、ここに来て、中央でまともに働いている友人――波須田椿――男である――が僕に直接仕事をくれた。流石、エリート。
「前々から噂されていた霊墟があってな、霊層から、こっち側に元々はみ出していたんだが、……其処になんだかアヤシイヤツが入り込んでいるらしい。そいつをどっちかの世界に括り付けておいてくれ。霊墟に関してはこっち側で手を打つから」
現層が僕らの普段暮らしている世界を指し、霊層が霊達の住んでいる世界を指す。
現層の一枚裏は霊の住まう世界である。
けれど、普通はそっち側に行く必要もないし、覗く必要もない。
けれど、夜は世界の境界を曖昧にする。何かの拍子で線を越えてしまうのはそんなに少ない話でもない。むしろ、よくある話だ。人間は簡単に死ぬ、という事実みたいなモノだ。
当たり所が悪ければ、ペットボトルでもヒトは死ぬ。
それくらい、簡単に霊層へ落ちてしまうヒトが居る。
結構居る。たくさん居る。
で、その人達をこっち側に連れ戻したり、こっち側に来てしまった霊の方達を霊層へ返してあげるのが僕らの仕事である。とは言え。
まぁ仕事と言っても、正直な話、霊によってはやはりこちらを一方的に殴りつけてくるヤツも居るし、戦いが好きな方もいる。逆に穏やかな方もいる。その辺は、やはり人間と一緒で、妙な親しみを抱かせる。人間も、嫌なヤツは本当に嫌なヤツだからね。コンビニ店員もピンキリだけど、レジを打つ時その人のヒトとなりは一瞬で解る。あ、こいつは嫌なヤツだ、とか、こいつは優しいとか単純なことだけど。単純な部分こそ、人間、大事である。ま、ヒトによるんだけど。
というわけで、退魔士と一口に言っても、迷子係と戦闘班などと内実、意外と別れている。
僕は、どっちもいける派だが、正確に言えばどっちにもいけない派で、どっちも向いてない派である。だからまぁ今回のこの「玉義佐惠木」の居る霊墟の件は真面目に僕なんかに任されるのはかなりのレアケースと言える。
しかも一人でなんて。
あ、そう。霊墟というのはこっちの世界の建物じゃないのだけれど、なんらかの影響で霊層からはみ出してきた建物を指す。いわゆる、僕らの世界で言う廃墟とその出現場所がよく重なるのでこんな名前だが、霊墟と言っても、廃墟のような場所とは限らない。
下手をすれば霊層の高級マンションだったりする。まぁ霊層の方は色々と濃いので、霊層に行ってしまった現層の一般の方は頭が可笑しくなってしまう、とか覚えてない方の方が多いのだろうけど。そういう場所である。
つまりケースバイケース。
一概にどんな場所、とは言えない。
今回の彼女と僕が居る此処は神秘的な場所である。いや、崩れてるっちゃ崩れてんだけど。僕は西洋のお城が崩れている光景なんて見たことがないので素直に感動したくらいである。
――初日。
そう、初めて此処に来た時――のことである。
「其処で止まれ」
奇妙な女の子が玉座――というんだっけ?――の前、そこで腕組みをして立っていたのだ。
長い黒髪で姫カットの可愛い女の子。第一印象はそんな感じだ。
「おぬし、何者じゃ?」
まぁこの子が件のアヤシイヤツだと僕は思ったわけだ。
「僕ですか、アレですよ、退魔士です」
「……はぁ?」
「いやいや、だから退魔士ですよ。此処になんかアヤシイヤツが出入りしているって言うんで危ないですよ、って言おうと思って来たんですよ」
「おぬしがアヤシイヤツじゃろ?」
「へ?」
いやいや、この僕が言うに事欠いてアヤシイヤツだって。全く、深夜のコンビニで暇だからエロ本でも立ち読みしようかと考えてしまう僕でもあるまいし。
「いやいや、お嬢さん、僕はアレですよ、一応国家公務員――」
「つかこんな真夜中に出歩くとか、おぬし変態か?」
「どうしてそんな質問!?ちょっとお嬢さん!?初対面ですよね!?初対面ですよね!僕たち!?大事なことだから二回言いましたよ!僕!」
「……うぅ、出来れば二度と関わりたくないのぅ……」
「傷つくぅうううう!無茶苦茶傷つく!つかあんた誰!?てかそう!僕は西潟ろ――」
「誰も聞いとらんわ」
「心が痛―――い!折れそうだ!」
「ところで変態や。服は脱がなくてだ、ダイジョウブなのか?……その……まぁ儂の目の届かぬ所でなら裸でぶらぶらさせるのを許さんでもないぞ?」
「なんの心配ぃいいいいいいい!?完全にカテゴリーHにいれられてるよね!?僕!しかも呼び名が変態って……ちょっとぉお!」
「あぁ……あの以心伝心の」
「それはF!てかなんの話!?」
「おぬしは超弩級のヘンタスティック」
「ナニ!?そのなんか歌のタイトルみたいな名称」
「……まさかそれが本性とは……ごくり」
「言ってない!だから真面目に変態じゃないんだって!」
まったく。ヒトをいじるのも大概にして欲しい。僕は毅然とした態度で言う。
「とにかく、僕は退魔士なんです。お嬢さん。怪我したくなければ、此処にいるのであろう、その霊虚の主と話させて下さい」
霊虚の主――そこがいわゆる霊の皆さんによってしっかりと運営されている(例えば霊のマンションとかの場合)なら、混じっている事を教えてあげるだけで解決出来る場合が多い。ありゃ、こりゃすみません、いやぁ、最近、多かったんですよ、迷い子。みたいな感じで収拾がついたりする。
ケースバイケースだけど。ついでに僕はこれまで三回霊墟を解決したことがあるが、――「兄ちゃん、いっその事こっちに来たらどうだ?」
と誘われる感じで生涯を閉じそうになったのも三回ある。お酒を飲むと気が大きくなっていけない。全く困ったモノである。
「ふむ、それはさせられんの」
「……えぇ!どうしてです!?ていうかどういうこと?」
「それは封印してあるからじゃ」
「……封印?」
妙な話である。となると、僕は封印を解いてこの建物を霊層に返さなければならないことになる。……あ、でもあれじゃん。別に僕は霊墟をどうにかしろとか言われてないじゃん。
となるとアレだ。アヤシイヤツについてだ。
「そう言えばお嬢さん、アヤシイヤツ見なかった?」
「……目の前に一人おるのぅ……」
「……いや、そのぅ……僕じゃなくて……ですね……」
「あぁ、知っとる、知っておるぞ、勿論」
「おぉ!マジですか!じゃあその――」
ビシッと犯人を捜し出した探偵のように指を指し、
「おぬしが変態じゃ!」
「もういいっつの!もう変態でもなんでもいいから此処にアヤシイヤツが居ないか聞きたいの!あ、でもやっぱり違う!ていうか変態じゃないよ!犯人みたいな扱いをしないで!変態じゃないから!だから僕は違うって!一応国からのお仕事なんです!大変なの!」
「……と言っても……のぅ……儂は此処がこっちに来ている時間はずっと此処に居るが、そんなアヤシイヤツは此処には普通来れんぞ?」
「……?普通来れない?いやでも普通に入れましたよ?此処」
「……まぁおぬしは退魔士だからそれくらいできて普通じゃろ」
「そんなもんですか?」
「だって儂が結界張ってるんじゃもん」
「……はぁ?」
「ほれっ、こんな奴じゃ――ほっ――」
身体が一気に押し戻される。
「――ぐはっ!?」
ゴロゴロと地面を転がる。
「――な、なにっ!?ナニが起こったの!?つか鼻血!?もう結構いいオトナなのに!?」
「ふふん、スゴイじゃろ、儂の結界。つかそこまで無防備にガードもせずぶっ飛んでいく退魔士とか初めて見たのぅ……ノーガード戦法か?」
「いやいや、つか、お嬢さん、何者?ていうか結界?そんな威力じゃないよね?」
「だから言っとるじゃろ?儂は封印を守りし霊虚の姫君じゃと」
「言ってないよ!?つか姫君!?こんな暴力的なのが――にょふっ――っ!?」
さらにゴロゴロと転がる。
「……いたい……」
「ていうかマジでなんなのじゃ?時々思い出したかのように退魔士と名乗るヤツが来るが……全く、おぬしみたいに弱っちぃ退魔士は初めてじゃ」
「んなこと言われても……僕下っ端も下っ端ですし。つか何て言うんです?名前」
「おぬし、名縛りの御業使いか?」
「まさか。てか名縛り?」
「いや、なんでもない。儂はアレじゃ、玉義佐惠木と言うおぬしは……アレじゃの……えーと……へ――」
「はい!ストップ!違いますよ!僕の名前は――!」
「黙れぇい!」
「――ぎょえっ!?」
「此処まで出かけてるのじゃ!だからストップぅうう!いくぞ、……へ――ではないらしいからの……」
「全然出てきてないじゃん!一文字もあってませんよ!?」
「そう!ヘンタスティックじゃ!」
「だから違う!へ、じゃない!に、です!」
「に、に、……にんにくまん?に、にんにく好きじゃったっけ?」
「……そんなににんにく臭が……確かに餃子は好きだけれど……ソックだ……いやつかそんなにゆえ!?てか初対面ですよ!初対面!……」
「あぁ!落ち込むな!すまん!名を違えるとは軽率じゃったな!……今度はダイジョウブじゃ!任せるが良い!」
「つか僕名前言ってましたっけ?」
「……に、に、にし……」
「お!おおぅ!名字とは言え!言えそうですよ!」
「に、煮染めた魚?」
「それが僕の名前ですか!?だからもう言っていいですか!?――ぷげっ」
「さ、最後のチャンスをくれーぃ!」
「だからいちいちその結界で弾き飛ばさないでくれます!?表記されてないからいいですけど、後ろ回りで地面を転がるのって地味にいたいんですからね!?」
「に、に、し……にし……が……」
「く、来るか……!?」
「煮染めた坂田」
「微妙に違う!なんですか!?それ!切って貼っていれぐいですか!?西潟禄です!泣きそうです!二十四歳です!つか泣いて良いですか!?帰って良いですか!?」
「……ふん、帰れば良かろう(ぷいっ)」
「可愛い!なんですか!?玉義佐惠木さん可愛いじゃないですか!」
「そ、そうかのぅ?(照れ照れ)……し、しかし、おぬしは儂の好みじゃないぞ!」
「はぁ……まぁそれは別にいいんですけどね。僕、低収入ですから。つか、おぬしじゃなくって、禄って呼んで下さい。まだその方がなんかいい気がします。てか、アレですよ、彼女もコンビニで働いている彼氏とかは嫌でしょうし」
「そうなのかの?」
「まぁ一般的に言って」
そうだろうと思う。好きで働いているわけでは無いとは言え、学歴社会という差別社会において、能力がない、大学をでていない、というだけですでに世界が違う、という風に設定されているのだ。となると、抗いようがない。それ以上の結果を出せれば文句はないのかもしれないが、機会がない。時間を食い潰しているような感覚。それが、僕だ。
僕に望まれているのはただ歯車になり、使えなくなったら捨てられる。そこら辺のゴミと変わらない。それが「普通」なのだろうけど。
なので、単発とは言え、僕個人を指名してくれる、この「退魔士」という職業は嫌いじゃない。むしろ、好きだ。確かにそんなに向いてないかも知れないが、結果が分かりやすくでるおかげで生きる理由になっている気がする。
「普通、馬鹿だから好きになるわけじゃないでしょ?」
「そうじゃの」
「そこにはなんかしらんの理由があるのかしれないですけど、貧乏だから、とか、ファッションセンスゼロだから、というマイナスの理由を好む必要なんてなくて、そういうマイナス面ていうのは、後の話じゃないですか。付き合っていくうちに「それでも」とか「まぁ悪くはない」みたいな感覚の部分でしょ?洞窟に入る時に身一つで鼻ほじっててやる気のなさそうな死んだような魚の目をした「じゃあ僕が……いや、やっぱり案内してくれます?」みたいなガイドより、つかそいつはガイドって言うんですかね?とにかく「懐中電灯、もしもの時の救助バック、無線機、マシンガン、テント……良し、じゃあついてきてください」の方がいいじゃないですか」
「ふむふむ。おぬ――いや、禄はなかなか当を得た返答をするの。確かにその通りじゃ。しかし変わりもんも中にはおるじゃろ?」
「まぁ攻略の仕方はそれぞれですからね。でも、ニッチを好んで狙うのは、自分に酔いたいか、自暴自棄か、普通は犯罪でしょ?」
「確かにな」
「てかところで、玉義さん。貴方はどうしてこんな――」
「佐惠木で良い。そう呼べ」
「はぁ……佐惠木はどうして此処に居るんです?」
「まぁそれには儂にもなかなか長々とした理由があっての」
「と、言いますと?」
「此処の霊虚の主とある取引をしていてな」
「取引?」
「それはもぅ……なんと言うか世界規模の天変地異的な感じで」
「そりゃまたスゴイスケールですね」
「あぁ!禄!おぬし信じておらんじゃろ!?」
「いや、そんなこと無いですって!てかなにゆえ僕の頭をもしゃもしゃし始めたんです!?どういうノリ!?」
「……詰まるところ、アレじゃ……なんじゃったっけ?」
「――って忘れてるんですか!?」
「まぁそれは冗談じゃ」
「……で、真面目な話、どういう理由で此処に居るんです?」
「その理由はおぬしみたいな退魔士が送り込まれている理由でもあるんじゃろうが、真面目な話アレじゃ。此処の主は世界をひっくり返す力を持っているんじゃ。RPG的な感じで言うと魔王みたいな感じのヤツじゃ」
「作り?」
「やっぱり信じておらんかったんじゃの!?」
「いや!だって僕ですよ!?退魔士なんて名ばかりな殆ど一般人と変わらない能力しかない僕が派遣されてきたんですよ!?そんな僕が行くところにそんな危険度マックスな場所なわけがないと思うじゃないですか!」
「いや、マジじゃから」
「マジなの!?」
「ちなみにアレじゃよ?封印解いたらまず世界の半分消滅させるからの」
「どういう魔王!?世界の半分!?」
「半分壊して即もう一回リピート、みたいな」
「ぱないよね!?半端無い魔王だよ!?やばくない!?つかなんでそんな魔王がこんな所に!?全く聞いてないんですけど!」
「だからぁ、それは儂とアヤツの契約であって、取引なのじゃ」
「……はぁ……」
「で、儂はその封印をする鍵なのじゃ」
「……鍵?」
「そう、だから儂は此処をでていく気はない。『この』霊墟が此処にある間ずっといるのが儂の仕事じゃ。それが取引であり、契約。人類が阿保で無い限り、世界は回る」
が、初日の会話である。つまり、下手に彼女をどちらかの層に括り付ける、なんてことをすると、世界が滅びる、ということらしい。
「――と、いうわけなんだ」
「……それでオマエはのこのこ引き下がってきた、と」
椿の野郎がはぁーと溜息をつきながら、そんな事を言う。やれやれ、こいつは解っちゃいない。どれだけ僕のお尻、カーゴパンツの危機だったか、を伝えなければならないとは。
「いや、別に俺はオマエの尻の話は聞きたくない」
断られた。腹いせに出された珈琲をしばく。
「てかそんなのが眠ってる所に僕を派遣するなよな」
「まぁもっともな意見だ。けれど、オマエが適任だ、と課長が決めたんだから仕方がない」
「課長ってあの面接会場に居たおばちゃん?相変わらず課長なんだ。後進に道を譲れよな」
「……俺はオマエのそういうずばずば言うところが少し羨ましい気もするけど、やっぱり要らない」
「……?馬鹿にされた!?今椿オマエ僕の事馬鹿にしただろ!?」
「禄のIQっていくつだっけ?」
「どういう質問!?」
「そっか……ごめんな、IQなんて言われてもわかんないよな……すまん」
「知ってる!知―――ってるよ!それくらい!ゲームだろ!IQ!」
「古いよ!どういうボケだよ!?つかオマエいくつ!?」
「うるさい!」
がすん!
と、僕の頭に衝撃が走る。
「――っ!?!??!?!?!??!??」
思わずゴロゴロと地面を転げ回る。
「椿!あんたもうるさい!ナニ禄になんて付き合ってはしゃいでんの!?混ぜなさいよ!」
「――いや、悪い悪い、実はさ……――ってぇえ!?なんかその反応おかしいよな!?混ぜなさいよ!?ナニ!?それ!もしかして録が来るの楽しみにして――ぶべらっ?!」
「ちょっと、禄。もう二四なんだから落ち着きなさいよ。ゴロゴロ転がって馬鹿みたいよ!」
「――……ぼ、僕が覚えている限り、僕が退魔士になったのも、僕が現在進行形で頭が痛いのも多分、紙月のおかげだと思うんだけど?」
「ってことはナニ?デートしたいの?」
「ていうか紙月さん!?あんた僕の話実はいっつも聞いてないよね!?『良い仕事があるの?やらない?』というアルバイトか何かだと思えば退魔士なんて眉唾な仕事だし!おかげで両親には相変わらず『コンビニ頑張ってる?』ていう心配されるし!まぁ自分の性ですけどね!」
「そ、そんなに褒められても……」
「褒めてない!褒めてないよ!でも感謝はしてるよ!紙月さん!てか椿!椿どうすんの!?伸びてんじゃん!紙月さんの『ペチン』と肩を叩いたパワーで壁にぶち当たって伸びてるじゃん!あんな間抜けな姿、もとい醜態さらしていいの!?」
「え!?こ、こんなところで!そ、それは、私……(ちらっ)」
「――じゃねえよ!紙月さん!だから聞いてないよね!?話が進まないでしょ!早く起こして!」
「ちぇっ、仕方ないなぁ……はいっ(ぽいっと放りなげられる椿)、これで満足でしょ。もぅ、強引なんだからぁ」
「いやどういう評価!?僕ナニもしてないよね!?そして職員の皆さん!僕はナニもしてませんよ!?だから何でいちいちこっち見て携帯うってるの!?なうってんの!?ナニを書き記してんの!?」
「で、真面目な話、オマエ、ナニもせずに帰って来たわけ?」
頭をがりがりやりながら、椿が話しはじめる。無駄にいい男だ。
「あぁ、そうだけど。だって、ねぇ?あんな強力な結界初めてくらったよ」
実際、この退魔士協会でもそうそうあのレベルの結界を張ることは容易ではないはずだ。
「しかし、結界があるからと言っ――」
「まぁ向こう側に行っちゃうヒトは行ってしまうだろうけど」
「……とは言え安全だと?」
「まぁ彼女ならダイジョウブだと思うんだよ。普通に『管理』しているみたいだし、霊虚の主と契約、もとい、取引しているらしいし」
「またそういういい加減な判断を下したのか、オマエ」
「……はぁこれだから椿は人間として甘いと言うか……」
「オマエだよ!オマエが甘いの!てかさりげなく台詞を被せて俺の性にするな!」
「あぁ、そんなことよりさ、椿。結界ってどれくらいの強度が出せる?」
「強度?」
「そう、僕が使える結界は人体を勢いよくはじき飛ばせる程の威力はでないじゃん」
「……まぁ、オマエは……退魔士の中でも戦闘能力の部分が大きく欠落してるからな……」
「まぁそれは仕方ないとして」
「仕方なくないぞ!?普通に練習すればそれくらい――」
「まぁまぁ、それより結界だよ、結界」
僕は自分の結界を彼に――椿に向けて張る。
「……まぁ禄の結界じゃ攻撃は無理だろうな」
「防御としてはなかなかいいんだけどなぁ……」
「……しかし、俺の結界も禄を転がすような威力はでないぞ?」
「――エリートの椿でも!?やれやれ、エリートって言っても大した事は――」
「……禄、オマエ、俺とやり合いたい、そういうことだよな?」
「――(ぶっぱぁ!)」
「……血?――って紙月さん!?ナニしてんの!?そこで!」
お盆にお菓子を載せた紙月さんが盛大に鼻血を噴き出していた。
「……や、やり合いたい?(ブビュビュビュ!←鼻血の噴出音)」
「だからそれは答えになってないよね!?紙月さん!?てかお菓子が!お菓子がが!」
「そんなことより、どっちが今日は刺すんですか?(つめつめ←ティッシュを丸めて送り込む音)」
「そして全く聞く気がないよ!僕の台詞!」
「創作意欲がわきますね(らんらん←目が輝く音)」
「僕は全然ハッピーじゃないよ!そして椿に至っては無駄に逞しい想像力で気絶してるからね!このムッツリ妄想イケメンめ!どこの勇者だ!」
「――そ、そんな激しいプレイを!?私とだってしたことがないのに!」
「してないよ!?ナニソレ!?いつ紙月さんと僕がそんな関係になったの!?」
カチカチカチカチカチ――
「だから職員の皆さんはさっきからチラチラこっちを見て携帯を打って一体ナニをしてらっしゃるんですか!?わけわかめなんですけど!」
『うわぁ……』
「そしてひかれた!?ヒトの惨状を覗き見して誤解を加速させヒトの不幸を楽しむのであろう人間として最悪な人達にひかれた!なんかショックだ!僕が悪いんだっけ!?ねぇ!?」
「そういうリアクション、もといいじられ役の禄はなかなか萌える!(ぐっ)」
「ヒトを天性のMっこみたいに言うな!」
「ところで話を戻すけど、真面目な話、どうするの?椿」
紙月さんが眼鏡をかける。伊達だけど。どうやら真面目になったらしい。そういう設定だと本人は言っていた。設定って……と思わないこともないけど、思い込みが重要な場合も時にはある。
「……いや、まぁアレだよ。どちらにせよ、彼女にはその霊墟から移動して貰わないと困る」
「……どうして?だってなんか厄介なヤツが下に居るんだよ?」
「その多分厄介なヤツの性だと思うんだが……これを見ろ」
「?……これは……」
椿に渡された書類を見て僕は思わず驚く。
悪霊の出現が記された書類である。
「まぁその霊墟の出現と合わさる形で奴らの活動が激しくなってるんだ。関係はないかもsれない。もしかするとあるのかもしれない。通常、霊墟は大抵なんらかの影響力をこっち側に持ってるからな」
「因果関係のあるなし、は解らないけど、確かに霊虚の出現時期と悪霊の活性化は時期が重なっているようだというデータがとれた、と。データを見る限り。でもって、現状、この活性化も含めてどうにかしたい、と」
紙月さんはそのデータは確認済みらしい。渡そうとすると、ダイジョウブ、という感じで首を振っていた。
彼女が言う。
「勿論、今日もちゃんと退魔士をそれぞれの霊気が濃そうな場所に派遣してあるわ」
要するに、僕のバックアップもかねて手は打ってあるらしい。まったく、椿の心配性には自分の尻を危うく感じるぜ。
「そぅ。その辺も含めて、その彼女に尋ねて欲しいんだが。霊虚の移動を俺等にやらせてくれって。もしくは、その封印、契約を利用して霊層に返して欲しい、と」
「てか椿、また椿がナニかやってるわけじゃないんだよね?」
「おいおい、そう何度も俺が悪いことをするかよ?」
「……僕が覚えている限り、三回同じ台詞を聞いたな。今回四回目だ。てかなんで首になってないの?そしてモテてるの?どこの勇者だ!」
「今回に関してはダイジョウブだ。俺はナニもやっちゃいない」
「まぁいいけど。てかまた僕が行くの?」
「適任だから、な」
「……真面目に?」
「真面目に」