パンチラとパンテラって字面が似てる
パンチラとパンテラって字面が似てる
二人の宇宙人(と思われる)が会話をしている。何せ背景が宇宙だし。大体頭に花が生えているのだから、常識的(?)に考えてみて、恐らく、地球人から見れば、外様だ。
『観測長、どうも日本のヤツの、最近の行動が可笑しいんですが』
『どれどれ?……うーん……そうか?』モニターを見て、心此処にあらず、という体で観測長、と呼ばれた男が言う。
『最近とみに人間くさい動きをするというか。少し、行動規定から逸脱している気もするんですが、どう思います?』
『うーん、まぁ、確かに、そうだけどぉ』
『どぉ?』
『俺今フルメタのプラモ作りたいからな……アオシマから出ると思ってなかったし。ていうか此処で手に入ると思わなかったし。ついでに二期というかアナザーのレイブン格好良いよな』
『……あ、そうすか』
答えになってねえよ!と、突っ込みたいのを、部下は堪えた。
『ま、何か起こってからで良いよ、対応は』
『はぁ、そういうもんなんですか』
『そうそう、まぁ、新人だからってそんなに気張らなくて良いから、……とりあえず、一緒にプラモを……』
『じゃ、小生、モンハンやってきます』
『……あ、そう、うん、狩り、頑張ってね』
観測長は、一緒にプラモを作りたかった。
いいから仕事しろよ。
これは、その時見ていたら確実に言った私の台詞。
四月十六日 快晴
『喫茶 タンバ』
タンバ町の商店街の通りを入った瞬間、右に曲がり、寂れた通りに面した喫茶店の名前だ。私、木守京行きつけの、寂れた喫茶店だ。店の作りは悪くない。田舎のセンスではなく、瀟洒な雰囲気、というよりかは、どこぞの国のパブのような。少し、崩れた感じが印象的な、今風に言うなら、カフェ、だ。ちなみに、古き良きディキシージャズやらビッグバンドジャズがかかる、BGM的には可愛いお店、だ。夜はモダンジャズ。有線で流れている(ことになっている。)
木守京。私の名前。いずれは、世間で押しも押されぬ大作家になる予定だ。うん、マジで。冗談抜きに。女の子で大学生。講義を受け、小説を書き、小説を書き、書き続けるということをしている。
自宅で書くのも、好きだけど。ついつい、自宅にいると身の回りにある雑多な興味をひくモノや事が多く、集中力が弱い若輩者の私は、そこにいくことにしている。
顔見知りがいるし、長居が出来るし、行きつけ、というくらい良く顔を出すからだ。
そこで働いている男の子がいる。
名前は志馬田志真。
ある意味で私は彼が目当てだと言える。
特に何か変わったところがあるわけじゃない。同い年で、同じ大学の学生。学部やらなんやらは被らず、そもそも大学で見たことがないのだけれど。顔はまとも。美男子……だと思う。少なくとも、作りは良いはず。私の微妙な選球眼によれば。女の子に人気が出るタイプだと思う。優しそう。とは言っても、見た目や物腰に反して、思ったより間抜けなところがある。どこかの小説で読んだような、月の住人的な雰囲気が、ある。極々普通の男の子、だと思う。多分。多分、と書くのには、理由がある。
例えば、こんなことがあった。
1.バイトが終わるとまっすぐ帰る。それも家々の屋根を伝って。
デパートの屋上でサークルのメンバー(ちなみにサークルは、同人誌研究会)とハシャイでいた時に、見た。お酒プラスハイテンションの、めんどくさい大学生状態だったので、あまり自信がないが、多分、彼奴。
そして、ついでに、というより、故に、なのかな?超人的なジャンプ力(多分)を持っている。たまたま、その日丁度店を出る彼を見かけ(確かサークルの飲み会帰りだったため、しこたまに私は酔っていた。故に自分の見たモノを信用できない)そのまま彼は音も立てずに跳び上がり、消えた。
2.手が伸びる。
お客さんが、珈琲をこぼしそうになったとき、彼は腕が伸びていた。
その日は、私はカウンターで珈琲を飲み、たまたま隣に座っていた奥様のカップが、奥様は気づかずに肘で押してしまい、こぼれそうになった。それを見ていた私は思わず、『あ』と小声を発してしまいそうになったが、延びてきた彼の腕を見て、息をのんだ。もし、珈琲を飲んでいたら、珈琲を噴くところだった。昭和だ。流石にそれをキャッチするとは思えないが。その日も、前日にガールズで鍋を囲み、酔っぱらい、二日酔いだったために(彼に酒臭いと言われた)、あまり信用できない。
ていうかここまで書いてて自分が信用できなくなってきた。ははは。
3.動物の言っていることがわかる。
ドリトル先生みたいだが、そのまんま。町で彼を見かけると、何故かその辺の野良猫やら犬やらが彼の隣を歩いていたりする。謎だ。彼もその動物を見、頷き、二人(一人と一匹?)やら三人(一人と二匹)でどこぞへと歩いて行く。ついていこうとした時もあったが、大抵突如消えたり、私が飲んでいたりするから(私良く飲んでんな)、毎回謎は謎のまま。
4.何か探偵業的な何かを営んでいるらしい。
これは、私が直で確かめた事実だ。『おーい、志真、依頼だよー』という風に志真君に向かって、ここのマスター(名前は矢吹伊里さん。女性。美人。旦那さんもなかなか渋い)が言っていた。『おばあちゃんが孫がどうやらこうやら』とボソボソ話し、『じゃ、そういうことでしたら』みたいな会話をしていた。
まぁ他にもUSB的な事が出来たりとか、変装できたりとか、色々と疑惑があるにはあるんだけど、都合良く、私は大抵酔っぱらっているか、二日酔いだったりする性で、断定が出来ない。いつも。
つまり、うん、変なヤツだ。
何かオカシイ。けれども、何で可笑しいのかは、わからない。気になる。多分、恋する乙女張りに気になっちゃう。
「あれ?京さん、悩み事?」
そう、こいつは私の事を京さん、と呼ぶ。理由は知らない。京でいい、と言うのだが、それだと、この国のルールに反す、という台詞を言う。変なヤツだ。素直に、あんたについて悩んでたんだけど、というのも、なんとなく癪なので、言わない。
「別に、ただ何を書こうか考えてただけ、よ」
「ふーん、ま、何か悩み事があったら言ってよ。聞くだけは出来るからさ」
「うん」
そう、案外普通なのだ。踏み込んでこない。距離の取り方が上手い。こちらから歩み寄ってもいいし、何かがありそうなら踏み込む。変なヤツだ。人によっては物足りない、特に普通の女の子からしたら、そう感じるかも知れない。しかし、それは邪推というやつで……
「?ホントに悩んでないんだよね?」
「んぁ!?う、うん、大丈夫!悩んでない!ち、近い!」
多分、此奴はそんなこと気にもしていない。……
あぁ、最近なんだか調子が悪い。小説を書いても、乗らない。それに妙にこいつが視界に入ってくる。変だ。自分でも時々なんだかよくわからない台詞を吐くときがある。やっぱり恋する乙女なのかしらん……?なんて巫山戯てもちっとも、動揺しない、なんて事がない。困った。
なんだ、コレ?
この時の私は、まるで考えてもいなかった。
この後、一連の騒動に巻き込まれることになる、と。
こんな書き出しもありかな。
先輩失踪事件 四月十八日 青天
事の起こりは、その先輩と付き合っている同期生の女の子の一言だった。
「連絡が取れない」
で、二人でその先輩の家を訪ねることにした。
留守。
手紙もない。彼女の合い鍵で家に入ったが、誰もいない。
……というよりも、生活感がない。洗濯物は干しっぱなし。少なくとも、ここ数日は帰っていない。パソコンは、何故かついている。
なんとなく、嫌な気配を感じる。
「ね、健君、やっぱりいない」
柳田健、それが失踪した先輩、四年生の名前。春の陽気で浮かれてどっか行っちゃった、とも思えない。パソコンの画面は、なんとなく、見ないようにして、電源を押して、強制終了で消す。きゃるーん☆っておい。
何か、違和感を感じる。キッチン、トイレ、押し入れ、仕送りで一人暮らし。バイト先からも連絡が通じない、という連絡があったらしい。……何かがあったのだろうけど、何があったのかわからない。就職は決まっているらしい。内定通知書が張ってある。違和感の正体……人の気配がする。一人でいる家、の空気じゃない。同期生の女の子がいるから、というのでもない。いるけれど、見えない。実態が此処にない。それに近い。
結局、何もわからず、喫茶店に二人で歩いて行った。
「……っていう感じなんですよ、伊里さん」
「へぇ、それはまた」
事の顛末を話し、隣でカウンターで珈琲を淹れている志真もうんうん、と頷いている。
なんか、変な汗かいてない?彼奴?
「こんな可愛い彼女がいて、そんな失踪なんてねぇ」
「でしょう?オカシイですよね」
「て、照れます……恐縮です!あ、そういえば、って言うほどでもないんですけど!」
頬を染めたまま(可愛い。舐めたい)突如、何かを思い出す彼女。あ、ちなみに名前は、半田渚という。
「ここしばらく、寝てないって話しをしていたらしいです」
ぶはぁっと、珈琲を淹れて飲んでいた志真が、珈琲を噴いた。
……知っている。確実に、何かを知っている。
「大丈夫!?志真君!?」
渚が驚いている。
「いや、ちょっと」
ちょっと、って何よ!?
「志真、噴くなら水にしろ」
そういう問題ですか!?
「まぁ、その話しなんですが」
「え!?志真君、何か知ってるの?」
「多分、二、三日したら、ひょっこり帰ってくると思いますよ、多分」
「「え!?」」
私も驚いた。
「どういうこと!?」
思わず聞いたのは私だ。
「多分、バブルの残りってヤツですよ、内定隔離」
「こんな時代に!?」
不況も不況なのに!?二一世紀だぜ!?
「俺が保証しますよ、渚さん。真面目に、ほっといて大丈夫です。なんなら、兄に届け出をだしておきますけど」
そう、こいつのお兄さんの一人は警察官、だ。
渚に向かってウインク。
「……あー……うん、……まぁ、志真君がそう言うなら、大丈夫な気がしてきた、うん、ありがとう、志真君」
なんか納得いかない。
「……あ、私もバイト行かないと!ごめんね、京!先に帰るね!」
「あ、うん、じゃあ」
風のように走り去っていく、渚。
速い。……私ならもっと心配する気もするけど。まぁ、ここにいてどうかなるわけでも……。
マスターと志真が話している。お客は、私しかいない。
……怪しい。確実に怪しい。
今日は、酔っていない。
疑惑は、晴らすべきだ!
情報開示を求む!
責任をとれぇ!
しかしながら、真っ正面にいったのでは、私の小説家魂が許さない。(何だソレ)いや、そのなんとなく癪な気がするってヤツでして。
「じゃ、私もそろそろ帰るわ」
「あれ?京さん、もう帰っちゃうの?」
そう、下手したら、大体閉店までいるのだ、私は。
「そう、なんか書けそうになってきたから」
ウソだ。
「そうかぁ、……うん、頑張ってね、京さん」
勘付かれただろうか?まぁ、さしたる問題じゃない。笑顔で手を振る彼奴。ふふふ、今日こそは、あんたの尻尾をつまむ!首を洗って待っていろい!
というわけで、向かいにある、
『中華飯店・猫田』
にやってきた。ここの主人とは顔見知り、息子とも顔見知り。ていうか、同期。同じ学科、同じ学年。二階建ての中華飯店の入り口から入り、
「お、京ちゃーん、良く来たね」
と言うおじちゃんに、
「どーもー」
と挨拶をし、そのまま二階にあがる。ちなみにどれもこれも、旨い。
美味しいじゃなくて、旨い。
餃子然り、ラーメン然り、チャーハン然り。良く、タンバ町の町長もいる。
タマ、と書かれた表札付きの部屋に入る。ちなみにタマの作る餃子も旨い。ファンがそこかしこに居るくらい、綺麗な焼き目と香りを引き立てる腕は並じゃない。
「ちーす」
――「ぐわああああああああああああああああああああああああああああ!?」
慌ててパソコンの画面を締め、オーバーリアクションで色々と隠す、パッと見、不良風。無駄なのに。そう、ぱっと見、完全な不良だ。オタクで、真面目で、二次元大好きだけど、不良だ。いわゆる格好いい系。でも、最近流行りの中身は残念な、感じ。ちなみに、何故不良っぽいかと言えば、髪が長めで金髪と黒髪のアッシュで、髭は生えているし、ピアスは似合うし、と言った事情に加え、お母さんがハーフで、彼がクオーターなのだ。
パンテラの友人的な見た目と言えるかも知れない。
「へ、部屋に入るときはノックをだなぁ!」
そんな乙女。男だけど。
「ち、うるさいわい、このヘタレ乙女が!」
「うぅ」
ちなみに、超優しい。近所のおばあちゃんに、超人気。夜な夜なゴミを拾ったり、片付けたりといった事をしている。どこかの小説で読んで、感動したらしい。……変なヤツだ。
「窓際、借りるわよ(グシャッ)」
「ぐわぁ!?マミタンがぁ!」
足下に何か転がっていたらしい。確かに踏んづけた音はした。決して、狙ってはいない。ちなみにマミタンとは、地元密着アイドルらしい。食堂経営。サディズム全開女王様。そういう人にはたまらないらしい。
「珈琲」
「……ふん、絶対持ってきてやるもんか」
「持ってこないと、今度の新刊渡さない」
「お任せ下さい、お嬢様!」
ちなみに、新刊とは、私の所属しているサークルの新刊だ。お得意様。変態め。
「ほい、珈琲」
窓際を眺めてしばらくすると、珈琲を持ってきた。ちなみに猫田多磨、冗談抜きに猫みたいな名前。犬科に所属しているタイプなのに。タマとはこれ如何に。ま、そんな上手くもない下手なコメント(小説家を目指す物としてはどうだろう?)ことはどうでもよくて。
「で、……観察?」
「観察」
丸わかりである。大体、隠し事に向いてないのだ、私は。まぁ、世間は狭い、町内はもっと狭い。この世界でも有数の狭さを持つ日本において、情報保護なんて、霞のようなものだ。たびたび、彼奴を追跡調査しているのを、目にしているのだろう、タマは。
「そういえばタマってさ、志真について詳しい?」
「いや、噂しか知らない。ていうか、大学で見たことがない」
やっぱり。でも、噂。聞いてみたい気がする。
「で、その噂って何?」
「うーん、眉唾なんだよなぁ、マジで」
それは知っている。ていうか、発信源がきっと、私だったりするのもあるんだろう。何せ、有数の志真追跡班の一人だからな(メンバーも一人なのは内緒)。
「まず、そうだなあ、屋上を走っている、とか、猫と話せる、とか、悩み相談所を設けてるとか、すげージャンプが出来る、とか、かな」
思ったより収穫がなかった。
「あ、後、兄貴が警察官、それと、もう一人の兄貴が科学者だのなんだの、お母さんは発明家だとか、だったかな」
科学者?発明家?それは、初耳。
「まぁ、ほら、けっこう顔を合わせるじゃん、何せ向かいだし。ちょいちょい店に顔を出すし、話すし、で、なんとなく思うけど、変わってるけど、彼奴、面白いヤツだよな」
何故か胸がほっとする。あれ?うん……面白いヤツ、ねぇ。
確かに。変わってる。どこが、というのでもないけど。
「しかし京、良く見てるよな、彼奴の事」
「……(ドキッ)いや、そんなでもないけど」
「観察ってことは、依頼があったのか?」
「……うー、ん、まぁいいや、渚わかる?渚の彼氏がね」
かくかくしかじか。
「へぇ、なんか怪しいんだ」
「うん、オカシイ気がするんだけど」
「そこが素直に聞けないところが京の可愛いところだよね」
「ふんぬらば!(ズゴッっく!←ボディブローが決まった音)」
「ぐはぁっ!?(ばたむ←倒れた音)」
と、窓の外を見てみれば、丁度店から出てくる志真。
「キタキタキター!」
「……はい、あんぱん」
何故かあんぱんを差し出してきた。
「いいの?」
「張り込みの基本は、牛乳とあんぱんさ」
「……牛乳はないの?」
「えぇ!?そこまで!?」
おっちゃんに「さよなら」と言い、「おう、行ってらっしゃい!また来てな」と言われながら、中華飯店を出る。(牛乳もせしめた)
今回は、撒かれないぞ!決意を新たに終え上がる私。
タンバ町商店街への道へまっすぐ進み、右に曲がる志真。電柱の影に隠れ、ささっと背後をかすめ取る。ふふん、まさか監視されているとは夢にも思うまい。わぁっはっはっはっは……
「で、何やってんの?京さん」
……。
角を曲がったら見つかった。
そっこーデスよ、そっこー。こいつどこのゴルって人ですか。振り返らずに喋りやがった。心なし眉毛にノリでも貼ってるんじゃ、とも思ったけど。……このネタ解る人少ないかな。この状況にあってもいないしね。
「何って、その、えっと、探偵ごっこ?」
「へぇ……その年で」
「むきー!」
「そんな怒り方をされても、俺は破廉恥ピンクなブリーフは履いていない」
「……いや、聞いてないし、答える必要もないし」
時々、こいつは別次元の生物じゃないかと疑う。ピンクブリーフって。
「生ユバは、嫌いではない」
「知らないわよ!?」
「同じように、猫ラーメンはいずれ食してみたいと」
「はい、解った。いいから次の発言に繋げなさい。確かに美味しそうよね、猫ラーメン」
「……えっと、人捜しに行くんだけど、ついてくる?」
素直だ。全く面白味のかけらもない。展開的にごまかせよ!
「ちなみにさ、京さんはさ、いわゆるゲームでさ、イージーから始める人?それとも、ハードから物語を始めちゃう人?」
何の話を?
「うーんと、ほら、難易度ってあるじゃない?ゲームにはさ。その中で、修羅モードってのがあってさ」
「あぁ、三国志モノでしょ?」
「あれの達人まではなんとかいけるんだけどねぇ」
普通の女の子にそんな話を振らないで欲しい。わかるけど。
「でもさ、そこがいいんだよね」
「え?」
「勝てるかどうかわからないギリギリの一歩手前、そして」
「そして?」
「こっち側の俺たちは、無傷」
「……穿った見方だね」
「じゃなきゃ、やってらんないよね?」
「まぁ、そうだと思うよ」
「その辺が、京さんの凄いところなんだ」
「なんで私?」
「福銭てやつだよ」
「あんた字、間違えてない?」
「富めるモノは分け与えよ」
「端折ったね?」
「端折ってなど、ない!」
「いや、わかりにくいよ、そのギャグ」
「えぇい、この腐女子目が!」
「やるのか、この貧乏人!」
「清貧と言えぇ!」
「いや、だから、わかりにくいよ、ソレ」
「そんなことは、ない!」
「いや、知らないし」
そんなこんなやっている最中に、
「そう言えば、兄貴に電話しないと」
と言い出した志真。おもむろに左手の人差し指を耳に突っ込み、
「あぁ、もしもし兄さん?」
話し始めた。……何かがオカシイ。携帯電話を耳の中に仕込んでいるのか、こいつは?
「ところでさ、失踪人とか保護した人のリストの名前に、桜井健て名前ない?」
突っ込みたい。身体の構造なの?それとも、ただの独り言?
「うん、解った、じゃあ、連絡待ってるわ、……あいあーい」
左の人差し指を抜く。
「ちょっと、志真?何今の?」
「電話だけど」
「普通は、携帯電話ってこういう機材を使うんだけど」
私の携帯を見せる。
「へ?……あ、そう言えば前もそんなことを言ってたなぁ、……忘れてた。つい」
「……はぁ?」
「てぃ!」
突然ぼーっとしてしまった。いかん、いかん。春とは言え、陽気でぼーっとなるとは。ていうか何で、私はそんなことをわざわざ思っているんだ?
「京さん?」
突如目の前に現れる志真の顔。
「わぎゃあああああん!」
驚いた。心臓がバクバク言っている。ひらがなかカタカナか知らないけど、文字が口から飛び出して敵をなぎ倒すかと思った。危ない、危ない。
「ほら、健さん探しに行くんでしょ、早く」
「はいはい、……わかったわよ」
なんかやけに地面の白線が白い。うーん、塗り直したんだな。へぇ。
「ほら、顔上げて」
「タンマ!」
止めて!ほっぺが熱いんだから!
「どうして?」
「白線が白いからよ!」
我ながらその台詞はどうかとも思うが、スーハー、スーハー、と息を吸い、……うん、だいぶ落ち着いた。よし。
と、顔を上げた瞬間、志真の左耳が上下に動いているのが見える。
は?
ギクッとした感じの表情で、左の人差し指を突っ込み。
「あぁ、兄さん」
と会話を始めた。
「ふぅん、やっぱり、特にないんだね、え?いや、今日の晩飯は母さんが作るって……ちょっと兄さん?何?遅くなりたい?何を言い出してんの兄さん?あぁ、そう、仕事を長くする予定だ、と。わかった、伝えておくよ」
人差し指を抜く。
「あんた、携帯電話っていうのはね、左耳に着信があるもんじゃないのよ?」
ていうか私は良く信じたな。着信、だと。そんな自分に弱冠の危惧を抱く……あれ?抱かない。ていうか、待って。私はそれを知っている?うん?つい、さっき、私は……
「ちぇい!」
志真の左手が、延びてくるのが見える。
またぼーっとしていたようだ。さっきもなんかぼーっとしていたような。ていうか私って誰だっけ?は、冗談として。いかん、いかん。春だからって、そうと行くわけにもいくまい。陽気は陽気。……何を言い訳してるんだ、私?私らしくもない。
木守京、そう、私は言い訳しない女。
「京さん?」
突如目の前に現れる志真の顔。
「あんぶらそわかぁ!?」
驚いた。心臓がバクバク言っている。危ない、危な過ぎる。
危険だ。
「兄さんから電話があってさ、健さんは、やっぱり警察には保護されてないって」
「そうなんだ」
電話?何か凄い事があったような、なかったような。違和感。
あることがなかった事にされた、違和感。
それはそのまま、健さんの部屋の違和感。
「……ねぇ、志真、私思ったことがあってさ」
「……何を?」
「違和感ていうのかな?今日渚さんと部屋に行ったとき、あるものが見えないような、無いものがいるようなそんな感覚」
「……うーん、ま、とりあえず、ウチの兄さんに聞いてみようぜ」
「兄さん?警察のお兄さんには、もう聞いたんでしょ?」
「もう一人いるんだよ、ドラえもん的な」
ドラえもん?