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とある研究員の部下

 とある研究員の部下


 上巻梢さん――彼女の名を知らない人はこの『業界』であれば、いません。

 性薬研究所『ぱつきん』。……いえ、なんで名前がぱつきんなのかとか知りません。マジで。ホントに。

 私は梢さんの秘書、というか研究結果のお手伝いをしている中町と言います。

 しかし……


 今日も今日とて、顔面筋肉を少しも緊張させずにパソコンをひたすら叩いている梢さんには正直羨望を覚えます。

 正直、入って三年経ちますが、海綿体に小……いえ、レポートで読む分には意味も把握出来ますし、知ってるんですけどね?それと、言葉に出すのは別問題でして。

 薬、とはいえ、そこはやはり下に関わる事ですので、そういう事を真面目に話し合わなければならない場はあるわけで。

 それぞれの道の権威の方々にお集まり頂き、

 飛び交う弾袋に、

 飛び交う海綿体、

 飛び交う乳房談義、という事態があり得るわけです。

 至って真面目な顔で。


 

「馬鹿野郎!そんなんで上向きになるかぁ!」


 なんて熱い上向きになるかどうかの討論も行われるわけです。

 真剣に。


「しかし先輩!確かに男同士の接触であったとしても、体内で出る物質からは――」

「それがわかったらどうする!?世の中がホモ全盛になるだろうが!」

「戦国時代の再来ですね!?」

「お前目ぇ輝かせるなよ!?」

「そういう先輩こそ早い所腐男子になればいいんじゃないですか?」

「……なんで?」

「ぶっちゃけそれがあたしの好みです」

「やめれぇ!いやつか何!?告白!?上向きにさせるかどうかの実験結果の討論中にそんな告白!?」

「ホモになったら、気持ちに応えてあげても良いですよ?」

「完全に仮面夫婦じゃん!なんの罰ゲーム!?」



 なんて会話もあったりします。

 まぁその話は別に置いておくとして。

「梢さん。珈琲です」

「ありがとー」

 先日、彼氏(旦那?)が出来たらしく、梢さんは最近、ちょーげんきです。ちょっと色っぽくなった気がしないでもないです。たまたま、その後二人で飲みに行きましたが、その時、ぽろっと、


「……結構可愛くて(彼氏が、です)」


 ほろ酔い加減で、ちょっと火照ったホッペタに思わず私がむしゃぶりつこうと思ったのは秘密です。多分きっと周りの人達も同じ事を思ったに違い有りません。

はぁはぁ。

いえ、別に私はノーマルです。至って、ノーマル。

 大丈夫です、振りでも何でもありません。


 さて。


 で、


 梢さんが残業する、と言って、研究室に引っ込んだので、私は隣の研究予備室に入ります。さて、……私が重役出勤の理由がこれから始まるわけです。


 どうでもいい話ですが、世の中には意外と変な趣味とか特殊な性癖とか、諦めきれない青春という物があります。ソレを一概に断罪クライムハザードするわけにもいかないのは真面目な話。超究武神覇斬はもっと駄目。

 しかし、事が彼女――上巻梢に関わるとなれば、我が研究所も黙っているわけにはいかないそうです。(我が、と言ってしまいましたが、私は雇われです)


 彼女の研究のおかげで、励めるようになった夫婦はおよそ一億組。

 あくまで報告に上がった数ですので、実態はもっとかも知れません。

 それくらいの数の夫婦が『性薬』のお世話になった、というわけです。

 最早なんて言うか『聖薬』の域ですよ。肉体接触大事!マジ大事!そう言い放ったのは『海辺の家』でしたっけ?エリクサーもびっくり。

 で、

 そうなってくると、

 意外な効果があると見たのは、

 日本だけでなく、少子化に喘ぐ各国政府。

 自然成分、それも、中毒症状なしで、そんな効果があるなら、是非にでも、合成薬ででも、……と少しお利口な方々は考えてしまうわけです。気持ちは分からないでもないです。

 苦痛と快楽なら、どう考えても快楽を選び取りたいのはごく普通でしょう。

 痛みがマゾにとって『喜び』とする見方もあるらしいですが、マゾは『相手が自分を見ている事が幸せ』という見方もあります。その観点から言えば、サディストは『支配する』のではなく、『相手に夢中になりたがってる』となるので、言葉遊びって不思議。

 SMも二律背反ですねぇ、なんてどうでもいい単語が生まれそうです。正義と悪みたいですね。

 何が言いたいかといいますと、


『こんばんはーピザ屋でーす』


 なんて勘違いした彼等が正面口からわざわざ産業スパイよろしく研究所に忍び込もうとする輩を送りこんでくるわけですよ。

 私は、ちょっと首を傾げてから『GO』サインを出します。


 ぱすっ……


 間抜けな音が響き、


 ピザ屋よろしく、サプレッサーを取り付けた拳銃とともに、にこやかな笑顔のまま、彼の身体が転がります。

 

 間抜け、の一言に尽きます。


『……また今夜もコレかよ』

 無線から諦め半分、まぁ仕事だし、という気持ちが漏れ出てる男性の声が響きます。

 私もまさか、日本でこんな仕事を請け負う事になるとは思ってませんでしたがね。

 

『ていうか、そもそもなんで野乃木がこっちに居るんだっけ?』

『……はぁ。いやまぁ従姉妹がね』


 何故か無線から聞くと漏れ出るのは溜息。

 私は父親が『国際メイド部隊』という怪しげな軍隊を運営していた性で、世界中を練り歩いていました。それはもう。アマゾンの奥地から北極の最南端あめりかんじょーくですまで。ていうか、自分が本当は日本に国籍があると知ったのは、おばあちゃんが、

『クーゲルシュライバー!』

 と言って、電話をしてきた時に(孫のラノベを読んだらしいです)、

『そう言えばアンタそろそろ国籍絞る時期じゃね?』

『はぁ?』

 となったからです。


 で、


 父親が、

『しまったぁ!義務教育受けさせるの忘れてた!(父親)』

『しょ、小学校って今から入れるのかしら!?(母親)』

 おいおい。流石に十九だよ。私。ムリムリ。

『まぁ学歴はごまかすとして(父親)』

『そう言えば、こないだ請け負った研究所の職員さんが……なんだっけ?護衛官募集してたわよね?(母親)』

『あ、じゃあ、ちょうどあたしも日本に帰りますし一緒にどう?(下田香住さん)』

 以来、日本のこの研究所で働いているわけです。

 ちなみに下田さんの家に居候しています。殆どあの人家に居ないですが。

 あの人こそ謎の人物ですが、まぁ違う人から見たらそうでもないのかも知れない……ですね。いや、わかりませんが。

 


 無線の先の彼――野乃町野乃木は、『国境なきメイド団・ラーメン付いてます』という軍隊を運営していた母親に育てられた似たような生涯を送ってきた……なんでしょうね?戦友?

『いや、戦友じゃないだろ』

 うるさいですね。ていうか人の心を読むな。

 でもまぁ、なんだかんだあって、何故か下田さんの家に此奴も居ます。

『いやなんでって言うか……従姉妹だし』

 らしいです。つまり、実質同棲状態みたいな物なのですよ。

 私が知っている男性というのは、せいぜい父親と部隊に居た新しい性別の方しか知らないので、いかんせん世間一般の男性というのに物凄く疎いわけで。

 それはまぁいわゆる女子校育ちといわれる女性の方々もきっとそうなんでしょうけれど。

 なまじ汚い世界にいたぶん、何て言うか、野乃木はごく普通に見えて、ごく普通に良い男に思えます。まぁ、思っているだけですが。言わないですけど。

 というわけで、こっちへ来て、来て早……何年?十九からだから、三年日本にいるわけです。

 気付いてみれば、部屋がまぁ、何て言うか、右側の本棚は♂×♂に汚染され、左側の本棚は乙女浪漫に浸食され、洋服棚には、いくつかの特殊な拳銃と、狙撃銃と、その他もろもろの武器がひとそろい。

 ……平和ボケしてるなぁ、と。

 まぁいいんですけどね。ていうかもう戦場とか嫌です。正直。

 癖でついついやることがないと、銃器をバラして油をさしてスプリングのたわみを確認してナイフを研いで……なんて事をやってしまっていますが、かなりなまってます。それはもう、アレです。卓球選手の三日サボったら、なんて話では全くありません。

 だから、これはきっと油断なのです。

 いまいち、本気をだしていなかったから、いけなかったのです。


「あー……野乃木が誘拐された」

「ぇえええええええええええええ!?」


 一応続きます。


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