着衣とはつまるところ
着衣とはつまるところ
服を着ることである。
まぁ、当然か。
と、私は部屋でごろごろしながら呟く。
一人暮らしな物で。
自然とアレです。
独り言が増えるんです。
暑くなってきた性で、下着一枚でゴロゴロするというのが癖になって大変。やれやれ。
夏ってやつぁ……。
しかし、アレですよね。
世の中には変な人が多い。隣人の右手にはいつも、中世の騎士が身につけてるようなガントレットがあって。
ステータスにりょうてもち、とか追加されるんでしょうかね?
と、思いますが、彼女はどうもネットワーク関係やらの仕事をしているらしく、見た目モンスターと戦う戦乙女とも言えそうな人ですが。意外ですね。職場の先輩に恋をしているそうです。いやいや、可愛らしい方で。
つまり、羨ましい。うーん……我ながら、なかなか単純な思考である。
なんて考えていたら、そう言えば、FFやりたくなったなぁ、なんて考えはじめる時点でもう私はだいぶ末期ですね。えへ。
で、ゴロゴロしてたら、
「――服を着ろぉ!」
日が暮れてました。おかしいな。確か、さっき、朝だったような……?
「聞いてる!?ねぇ!」
「おかえり」
「ちげえよ!俺が求めてるのはそういう返答じゃなくて!服を着ろって事!」
此奴は隣人兼大家の茅萱。高校からの付き合いの腐れ縁である。つかちがやって、
「変な名前である」
「やかましいわ」
勝手にずかずか部屋にあがり、また勝手に服を漁り、投げつけてくる。
「なんか食べたのかよ?」
「雑草を少し」
「俺は食われてねえし、雑草もなにも、お前、部屋から出てないだろ?」
「うーん……印税がっぽがっぽ生活が遠のくなぁ」
「……何食べる?」
「がっつり肉野菜とコメ」
「……なんでこんな事になってんだっけ?」
「さぁねぇ?」
ま、我ながら、なんとも言えない気分だ。
そう、私はアレです。
いわゆるBL作家というヤツです。ただまぁ、作家というとかなり語弊があるというか。
ガチムチ系からソフトで華奢なヤツまで、編集から要請があれば、それはもういくつかあるペンネームを駆使し、いわゆる『雪掻き』的な仕事もこなす作家というか、ライターというか。
つまり、隙間仕事です。あるところにはあるんです。そういう微妙な仕事が。
例えば、スペースは一五センチ×一五センチで、その中にオチありの微エロでほっこりする感じの話をお願いします。と朝一に言われれば、その日中にお届けするような、そういう仕事です。
本を出して、店頭に並んで、というよりも、雑誌の端っこにちょっと載ってるような、ヤツ。少年漫画で言う、プレゼントコーナーの四コマとかに近いですかね?
別段、仕事に不満はなく、実際、そういう細かい仕事は『しゃーんなろー』で『バッチコーい』で『その穴という穴に乾電池をぶち込んでやるわぁ!』という話なのですがね、不調なんです。原因はハッキリしてるんですよ、えぇ。わりとマジで。
「ほい。甘酢の人参とキャベツの豚肉炒め。それと、味噌汁。どうせ、朝から何も食ってないんだろ?」
「ちっちっち」
「?」
「トーストに砂糖を塗って食べたとも」
「それはキャンプ食じゃね?」
「たまにやると美味しいね、アレ」
「ストレート過ぎるだろ、甘味が」
はぁ、と溜息をついた茅萱が言う。かちゃかちゃと食器を運ぶ音がし、
「で、どうしたんだよ?なんか編集の人がうちにきて『おい、茅萱。どういうことだコラ』なんて脅しつけてくるしさぁ」
だからあの人はアホですか!?
そう、うちの編集はアホなのです。男なのに、『ま、大体解るんだよ。面白味』なんて言いながら鼻息荒く、読む腐男子。……まさか実在するとは……。女性にももてるだろう容姿なのに。まぁ……仕方ありませんよね。そういうこともあります。何せ、
「――性癖ですからね」
「編集の人ってそんな危険なの!?」
「ま、まぁ、危険と言えば、危険ですがね」
「おい!」
「まぁ、尻の穴に気をつければ大丈夫じゃないかと」
「……まぁいいんだけどさ」
と言って、視線を倒します。携帯に目が行ったようです。
はぁ。
そうなんです。
私、見ちゃったんです。