まぁ、アレだ 3
まぁ、アレだ 3
言った瞬間、私は思いっ切り後悔した。
それはもう、とっても。
全米の私が眼鏡をバックブリーカーする程度に。
いや、意味解らん。
……。
まぁ、そうやって、脳内でだって、おどけないといけない位、動転してる。
簡単に傷ついてる。
知りたくない。
知りたいからこそ、
知りたくない。
目の前で『好き』と言ってくれた此奴と、別れる事になるのが、嫌だ。軽蔑されるのが嫌だ。結局、首ったけになってしまって、『私』が、崩れるのが、嫌だ。
きっと、たかがメール一通で、嬉しかったり、来ないメールで、哀しむ私が嫌だ。
今までだって、そうだったのだ。
きっと、
簡単にそうなる。
声をかけて貰うだけで良かった。視界の隅っこに混じろう作戦なんてモノで良かった。
でもきっと付き合う事になったら……ら……
なったら……って、
らって……おい。
おぃいいいいいいいいいいいい!
「何しとんじゃわれぇええええええええええええええええ!?」
思わず絶叫。
さっきまで私の話を真剣に聞いていたと思ったら、
気付いたら、部屋の隅っこの、洗濯カゴからまだ洗濯していない靴下を取り出して、
「何って嗅ごうとしてるんだけど?」
「どんな論理展開よぉおおおおおおおお!?」
「いやほら、俺って鹿子超好きじゃん?」
「それと靴下の香りを嗅ごうということにどんな共通項があるのよ!?」
もうアッかっか。いや、真っ赤っか。いあいあ。ふぅーっ!
「いや、ほら、俺を受け入れないって言うからさ、嗅ぐんだ!」
決然とした表情で言い放つ!ちょっときゅんとしてしまった!靴下を嗅ごうとしているだけなのに!
「だからなんで!?」
「だって、キューピッドが裸足で逃げだすんだろ?単純じゃないか……この程度……俺の鼻が、その幻想を打ち破ってやる!」
「どんな台詞よ!?」
「何って、イマジンブレイカー?」
「ネタもとを聞いてるんじゃないわよ!ていうか恥ずかしいから!無茶苦茶恥ずかしいから返して!(ぶんぶん←思いっ切り奪い返そうと突進)」
「これは……ダメだ!返せない!俺の命にかえても!この臭い靴下に俺の恋路が、命がかかってるんだ!」
「なんで格好良い台詞風に言ってるのよ!しかも臭いって言うなぁ!」
「普通じゃない……臭さ……俺は、負けない!」
「そういう意味じゃない!そういう意味で『言うなぁ』って言ったんじゃない!ていうか解りづらい!その突っ込み解りづらいわよ!?」
「ていうか、顔に手を伸ばすな!嗅げないじゃないか!」
「そんな情熱的な感情で嗅ごうとしないで!」
「これが……俺にとっての試練なんだ!邪魔を……するなぁ!」
「うぁあああああああ!超バカっぽい!でも格好いい!うぅううう!乙女と羞恥心がせめぎ合ってる!でも、でも、
でも、靴下をかがれた性で求婚を受け入れるとかなんかいやぁああああああああああ!」
「安心しろ。その程度じゃひかない。お前が世界征服したいって言っても、ついていってやる」
「バカじゃないの!?」
「頂きます!」
「ぎゃああああああああああああああ!?」
時が――、
止まった。
わけもなく、
すんすん、くんかっくんかっ
部屋に、静寂の部屋に、直美が息を吸い込む音が、
「変態だぁああああああああああああああああああああ!」
思わず、絶叫。
「素晴らしい!なんだ!この芳醇な香りは!まったりとしていて、それで尚かつ粘り着くような――、」
「そして解説すんなやぁ!」
思わず殴り掛かった。ほっぺは最高潮。テンションマックス。リミットマックス。今なら超究武神覇斬を放てそうな気がする。セフィロスだって、余裕で斬り殺せる戦闘力を発揮出来そうな気がする。
でも、そんな私を、
此奴は、抱きしめて、
「良い香りだ」
「なっ――」
思わず、そのまま、唇を――、
ちゅっ――、
「奪われたぁあああああああああああああ!?」
「おいおい、鹿子、そんな俺とお前、今日から――、おぐふっ……ナイスパンチ……(どさっ←膝から崩れ落ちる音)腰の入った……ナイスなボディブローだぜ……」
はぁ、はぁ、と息づかいの荒い私の声が部屋で響く。
「鹿子さん」
「何?」
思わずぎらりと睨み付ける。
大の字で横たわって、
顔をそむけたまま、
「すげー好き」
そう言われて、
「わかったわよ……」
そう呟く。
とても、見せられない程、真っ赤だったし。
まぁ、そんな話。
まぁ、アレだ。
私の彼氏は、変態だ。