まぁ、アレだ 2
まぁ、アレだ 2
「ぎょぇえっ……」
「流石にその反応は傷つくわぁ……」
仕方ないので、流石に下着のまま対応するわけにはいかず、ジーンズ、Tシャツ、パーカーを羽織って応対することにした。
うーん……これから下着のまま、鼻息荒くBLワールドに突入する予定だったのに。
しかしまぁ、来客は来客である。
丁寧、安全、妄想、鼻血、汁ダクダクで構成された鹿子さんはちゃんと対応するのだ。ちなみに一昨日しんにゃのてんしょんとか言ってたが、時間はまだ昼過ぎ夕方前である。ただ単純に私がアクセルワールドしちゃってるのだ。あぅあぅ。ていうか、私は何を言ってるんだろう?うん、きっと月刊少女野崎くんの発売が嬉しすぎたに違いない。
「お昼食べた?」
「いや、つか、鹿子さん。逃げるなんてひどいじゃん。それにすぐ追いかけてきたんだから食べてるわけがないでしょ!?」
「いや、逃げてないし。戦略敵撤退だし。ただ単純にLとRを同時押ししただけだし」
「逃げてるよね!?認めてるよね!?」
「やれやれだぜ」
「どこに嘆息しなければならない箇所が!?」
「コチュジャンとめんつゆソースの肉野菜炒めで良い?」
「話、聞いてる!?」
「大丈夫だ。問題ない」
「それは問題があるときの台詞だ!」
「女には……逃げなければならない時があるんぜよ」
「言ったことないよ!?そんな台詞!つか、龍馬は男だぜ!?」
「気にしちゃいかんとよ」
「やかましいわ!」
玉ねぎを弱火でいじりながら、その間に手早くキャベツ、人参、と切り刻み、ついでにピーマンをぶち込む。適当なタイミングで豚肉をいれて、作っておいたソースを絡めてさっさと仕上げる。味噌汁は朝作っておいたヤツを渡す。一人暮らしの女の子の料理は案外こんなものである。
十五分料理。
で、皿を直美に用意させ、盛りつける。
「はい」
「つか対応が雑じゃない!?鹿子さん!?もしかして怒ってる!?」
「キレてないですよ?」
「顔真似はしなくて良いよ!つか、前髪で隠れて見えないから!」
「やれやれだぜ」
「だからその対応は何!?」
「……餃子くいてぇ」
「だからそのキャラクターは何!?」
「突っ込み多くない?」
「呆けてるのはアンタだよ!」
「頂きます!あ、そこのかけるラー油とって」
「置いてけぼりなんですけどね!」とろーっとご飯にかける。うーん……マンダム。
「大丈夫だ、問題ない」
「ありまくりだよ!てかマンダムって!古いよ!パタリロか!」
「ちゃんと頂きますを言いなさい」
「俺のかあちゃんか!でも確かにそうですね!頂きます!」
「まるで飢えたブタだな……」
「ドヤ顔をする意味がわからない!つかキャラクターがブレてますよ!?つか、美味しい!手抜きなのに!」
「手抜きこそ、料理の神髄。愛情が全て」
「相反してる属性な気がするけれどね!」
「感想は?」
「言ったよね!?」
「ほら、早く言いなさいよ」
「美味しいです!」
「そ、そう……その……えっと……ありがと……」
「いきなり素に戻らないでくれないかなぁ!?」
「ま、まるで、飢えた、狼ね……」
「だからどんなキャラクターだよ!」
如何如何。これまで攻め一辺倒のはずが、気付いたら、何故かほっぺが赤ずきんちゃん。
私が狼さんのはずだったのに。これは不味い。そう、不味いのだ。
何せ、この内柴直美。意外に人気がある。いや、意外というのは、ちと不味いか。普通に人気がある。まぁ、いけめんだし。可愛い男の子描くのが得意な鹿子さんが言うのだから、それは間違いがないというモノだよ。ちみぃ。(『だから言ってるだろ?お前はどこにも渡さないって』『そんな!でも、男同士でそんな……』『そんな事言いながらこっちはそう思ってないみたいだぜ?』『アッ――――……』……失礼。持病の発作が……ほくっほくっむふーっ)何より、対応の柔らかさ、というのだろうか?
『俺についてこいよ』
ではないのが、また、丁度良いといいますか。
いけてるうぃーめん(women)の方々にはそこが壺と言いますか。
と言っても、扱いやすい割に意外と男らしいところもあるというのが、好評らしいです。見え隠れする『俺についてこいよ』が壺。
確かに勝手にサークルに引っ張りこまれたし。
しかも勝手に我が家に乗り込んでくるし。
うん、行動力はある、意外と頼れる。悪くない。
しかし謎だ。うん。マジで。
なんで私?
「で、何の用?」
「うぇえ!?此処でその質問!?それは、」
「ほらっ……は、早く言いなさいよ……」
「そ、それは、さ、その、俺は、鹿子さん……いや、その、鹿子が……」
「……」
「おい!顔を真っ赤にするなよ!すげー恥ずかしいじゃねえか!」
まったく。
歩く赤面発生装置である。
何考えてるのかしらん。
「ていうか、なんであんな皆が居る所で、その、……えっと、うん、あんな事言ったのよ」
「そりゃ……だって、何回か、二人きりになろうと連れ出したのに、毎回、逃げられたし」
「はて?」
「『はて?』じゃなねえよ!『ごめん!見たいアニメがあるの!』『ごめん!今日好きな作家さんのサイン会が!』『ごめん!今日はおきにのBLの発売日なの!』『ごめん!今日はメロンブックスで探索しなきゃ!』『無理!今日はオンリーイベントがあるの!』『今日はアニメイトで誕生日グッズを!』『ごめん!締め切り間近だから!』とかさ……」
そう言えば……
「……うん、覚えがありませんな」
「そこでその台詞!?」
「全ては秘書が行ったことですので」
「いねえだろ!」
「じゃあ、執事」
「いい加減だな!」
「個人的には、Sっ気のある執事と、可愛い感じの見習い執事の絡みが見てみたいです!むふー!」
「そんな主張は聞いてねえよ!」
「むふー!ぬふー!」
「鼻息荒くすんな!」
「でゅふふふふふ」
「おかしくなっちゃった!」
全く。困った話である。
「つか、好きなんだよ!鹿子!」
と、言われて悪い気はしない。けれど、アレだ。
「私はオタクで、腐女子です」
「……なんだよ。それがいけないってのかよ」
「そして三度の飯より気付けば萌え三昧」
「……」
「そして、洗濯だってしょっちゅう手抜きするし、ご飯だって、はっきり言って、いい加減。揚げ物は主に外食。そして、別段、男と付き合った事がないわけじゃないし、やった事がないわけじゃない。ピュアでもないし、靴下も臭い。断言しておくわ。無茶苦茶臭い!それはきっとキューピッドがぶらんぶらんさせておげーって吐瀉物を撒き散らしながら逃げ出すほどね!」
「……いや、それは言わなくていい部分じゃね!?そして偉い具体性を伴った表現だな!?」
「あのね、直美」
「……なんだよ」
「好きよ。直美の事」
「……」
あーほっぺが真っ赤だろうな。私。でも、言われなければならない。
「けど、無理。確かに見た目とかちょー好みだし、良いと思う。性格も凄く良い。魅力的。アンタは私が出会った男の中で、トップの抱きたい男ナンバーワンを獲得してる」
「いや、そこは抱かれたい、じゃね?」
「ストップザジャスティスモーメント!」
「意味がわからない!そこはジャストだろ!?」
「必殺技よ」
「中二病か!」
「きっと、私はアンタと付き合ったら、駄目になる」
「……」
「アンタは魅力的。そんなアンタを私だけに縛り付けておく魅力があるとも思えないし、何より、私は下手すれば、アンタよりBLを優先する時が絶対ある!これは120%!忍たまに誓って!」
「……言い切るのかよ」
「女の子ですもん!萌えは必須!ぬふー!」
「好きなモノがあるって良いことじゃないか……」
「でも、男が出来るなら、その彼氏には私だけを見て欲しい」
「……」
「不安定になりたくない。私はかなりの依存症で、自己中で、下手したらそこらへんの高校生より、よっぽど、子供で、幸せなままでいたいの。安心し続けたいの」
一度、言葉を句切る。
あぁ、ホント。
私ってやつぁ……。まったく。
自分で言うのもなんだけれど。ひねくれてる。
けれど、言葉にしたのは、本音で、本心で、好きだというのも、本心なのだけれど、それ以上に私は傷つきたくない。
なんて自己中!
私こそナルシストの中のナルシストだろう、と自嘲して、
「だから無理よ」
そう告げる。