私の日常へ襲撃 2
私の日常へ襲撃 2
まぁ、あれだ。よくある話だ。
少女漫画の基本と言ってもいい。
もしくは少年漫画の恋愛の初手と言えば、そう、友人と恋愛相談。なるほど。
確かに。
で、段々と何故か相談をしているうちに話しやすさが互いに伝播して、
びびびっ、と親近感とか愛情が電波にのるわけだ。
そこからはルール無用の残虐ファイター。気付いたら、想っていた相手を置き去りに、相談相手に愛の玉砕をかけに行く。
なんて事もあるだろう。うん。
しかし、
「かみきちゃーん、ぎいでよー」
いや、これはない。
「ちょっと梓さん。これは、違いません?こないだの引き的に、確実に今回は私の恋愛相談とかそういう事じゃないんですか?」
「いや、他人の恋愛なんてどうれもいいし」
「ぶっちゃけ過ぎでしょ!?」
「あぁ、大丈夫よ。あたし、正直な人間らから」
「舌が回ってないし、しかも撤回しないという驚きの二重コンボですね、わかります」
「大体さぁ、彼奴のさぁ」
「具体的な話は控えてください!」
「じゃあ、あれら!ナンパしよう!逆ナンパ!」
「ビールジョッキと仁王立ちでそんな宣言をすんなや!」
「おんらにもみだれらい夜があふのよ!」
「わかりましたから!つーか乱れてます!リアルに!」
「ちっちっち」
「……なんです?」
「字がちがーう」
「うぜぇ!」
「ちょっと!親友に向かってなんて事言うのよ!」
「――え?」
デイトレ趣味のいけすかない私を……親友?
「まっらく。もう。上木ちゃんてばいつもそう。そうやって、ポケットにさり気なく蘭君の靴下を持ってる」
「だー!知ってても明かさないでください!」
「ていうか、一緒に住んでんの?」
「いえ。たまに遊びに行ってゲームしてご飯作って食べる感じです」
「死ね」
「すげー具体的な殺意を飛ばしてきますね!梓さん!」
「あらし以外の幸せものは滅ぶべき」
「つか親友じゃないんですか!?私!?」
「親友は不幸であるべし」
「格言みたいに言い切った!」
恐ろしい人……綿貫梓(二八)……!!!
「ていうかなんで私を連れ出したんです?」
「幸せ成分を奪い取ろうかな、と」
「いや、私、だいぶ享受してないですよ?」
「みらいれぇ」
どうでもいい話だけど、先輩はモテる。長間屋蘭。……まぁ、今は収入がアレなので、顔だけでモテるとかはないんだけど。
「ま、正直な話、女二人で逆ナンしようかな、と思っれらんらけろ、どうも上木ちゃんがそういう雰囲気じゃらいから仕方ないかな、と」
「……すいませんね」向いてませんし。
「むふふふ。そういう所、好きよ。上木ちゃん」
「私も、その、」
「幸せな親友とかまじくびり殺したい」
「そこはせめて呂律を上手く回さない感じでお願い出来ますかねぇ!?」
「いやほら、アタシ正直者だし」
「頭ハッキリしてきてんじゃねーですよ!」
「『私も、その、』……何?」
言葉に詰まる。
自分で言うのもなんだけど、私は性格が悪い。マジで。正直な話、女の子って皆こういうもんだと思い込んでたくらい、性格が悪いし、世の中を知らない。知ってるのは銘柄の上下だけ。ほら、その一面だけで性格が悪く思える。そんな女だ。
だから、
「えっと――、梓さん、」
「とりあえずフラれてきたら?」
「だからなんでそんなカウンター!?私の心を揺らさないでください!」
「揺れる乙女心。……うん、ないわぁ」
「ごらァ!」
「何ソレ?貴女いくつ?ちょー羨ましいんですけど」
「いくつってそりゃ――って羨ましいのかい!?」
「あ、あそこのウェイター可愛い」
「聞けよ!」
「ちょっと。上木ちゃん。あっちの可愛い女の子のウェイターじゃなくて、あっちの可愛い男の子のウェイター呼んで!沢山注文して気を惹くから!」
「いや、それで引くのは多分、あの男の子だけですよ?」
「馬鹿な!?」
「なんでそんなにショック受けてるの!?それが梓さんの中でスタンダードな気の惹き方というのに私は軽くカルチャーショックなんですけど!?」
「ははは。カルチャーショックがそんな軽いわけないじゃない」
「そんな話をしたいんじゃないですよ!?」
「でも蘭君見た目良いから、早い所くどいた方がいいよ」
「?どうしてですか?」
「こないだお金持ちの独身貴族やってる独女と一緒に行ったんだけどさ」
「何やってくれてんですか!?」
「貴女、確かサービス業よね?」
「お客様は神様です」
「で、その彼女が『うそ……スゴイ好み……』って言ってたから」
「何してくれてんですか!?」
「貴女、確かウェイターよね?」
「お客様は神様です」えぇ、神様ですとも。神殺しの血がさわぐぜ。
「で、来週?だっけな。仕事の上がり際を狙うらしいわよ」
「随分タイムリーですね!?」
「女は三十を前に焦燥に駆られるのよ」
「確かにそうなんでしょうけどね!?えぇい!畜生!クソお客様めぇ!」
「貴女確か、アルバイトよね?」
「お客様は地獄送りです」
「それはすでにドジッ子の域を超えてるわよ」
「いえ。別にたまたま先の尖った鉛筆を二百本持っておけばいいだけの話じゃないですか」
「え!?これはあたしの性!?いや、でも多分それ犯罪よ」
「彼氏に発信器よりはマシですかね?」
「十分アウトだぁ!」
「ていうか早くヨリ戻せやぁ!」
「いやだって……彼、モテるんだもん」
「もんとか……ぺっ」
「最悪なリアクションね!?」
「やれやれ。……また一人表に出せない犠牲者が」
「それはそれとして。上木ちゃん」
「なんです?」
「真面目な話、告白してみたらどう?」
「……」
手元の空になったグラスをからんと振り、梓さんが『おーい、そこの可愛いウェイター』『ふぇ!?うちですか!?』『そうそう、チミだよ、チミ、ぐへへへへ』と女の子を呼んで、注文する。
「別にその友人がどうとかそういう事じゃなくてさ」
「……でも、梓さん」
「何?」
「……笑わないでくださいよ?」
「何ソレ?前フリ?」
「いや、フリじゃなくてですね?」
「フニクリ?それともフリクリ?」
「いや、鯖の話でもベスパの話でもなくてですね」
「なるほどラーメン」
「誰がカップ麺の話をしろと言いましたか!」
「絶対笑わない。ブラに誓っておくわ。これでいい?」
「いや、理由を見つけて脱ごうとしないでください。裸足の貴女をおぶって帰るの私ですからね?今日は」
「で?」
「……その、……正直、向こう側から言われたいなぁ、と」
「……」
「……」
「……」
「……」
――、ぷっ――
「――げひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ――ひぃ――ふっふ、」
「最悪だ!この女最悪だぁ!」
「乙女!乙女がいるよぉ!此処に!ぶっふぅ!」
「ごらぁ!コロスゾ!」
「いやだって……ぶっひゅー」
「最低だ!」
「いやいや、上木ちゃん……乙女だねぇ」
「そんなリンちゃんなうみたいな感じで言われても!」
「わかるよ、凄く良くわかる。でもそれだけ、近づいておいて、言われたい……解るけど……ぶっひゃー」
「だからアンタ最悪だよぉ!」
「いやいや。なるほど。なるほど。良し」
……良し?
「明日、確か休みだよね。上木ちゃん」
「なんです?突然」
「明日も付き合え。上木」
「私は百合じゃないですよ?」
「まぁこの台詞を言われたかったのは解ったから。とにかく付き合え」
「まぁいいですけど」
「どうせ貯金額は結構あるんだからそんなに稼がなくてもいいだろ?」
「まぁそうですけど」
「良し!」
「?」
「トイレ!」
「……」
やれやれ。私は、机の上に置きっぱなしの梓さんの携帯電話を取り、