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コンビニ店員の男

 コンビニ店員の男 


 当年とって二一才。

 特に起伏無く、普通に生きてきたらフリーターになっていた。

 ……いや、俺自身いかんな、いかんなと考えていたけれど、気付いたらこうだったのだ。

 受け入れるしかない。

 

 というわけで夢は売れる小説家。


 現実はコンビニ店員であり、友人はデザイナーでかちゃかちゃやっている。

 年上の彼女が居るらしい。

 リア充め。

 羨ましい。

 と思う。けれどまぁ、アレだ。リア充め、と思えると言うことは俺自身、リア充らしい。

 本当に、リアルがどうしようもない人間にそんな台詞は言えない。

 まぁ普通、四つ上を友人と言うのかどうかは意見が別れる所だろうけど、そいつと俺は友人だ。


 ちなみに小説家も別に正確に言えば夢というわけじゃない。


 バイトだけで毎日が擦り切れていくのに耐え難いから書いてるだけ、と言うのが正しい。一種のストレス解消。だから、ゲームで面白いモノが出れば一も二もなく飛びつく。飽きたら文字を書き込む。繰り返し、繰り返し。


 とは言え、お金になれば嬉しいなぁ、と思っていないわけじゃない。


 お金。


 そう、俺が愛してやまないのはお金と言える。

 お金があれば、家は買えるし、学校にだって行ける。学生諸君、その幸運をあますところなく享受したまえ、なんて俺が言うのはおかしいけれど、実際、今更そうとも思う。


 大卒と高卒で、出来る仕事の入り口がまるで変わる。


 大卒であるかないかだけで、入り口は容易に姿を変える。


 なるほど、知識。


 合コン。


 ヤり方。


 コネ。


 すげーな、大卒。


 これは嫌味だ。


 そして僻みで、


 羨望だ。


 まぁ大卒であれば、少しは、感じなくてもいい劣等感から解放されるかも知れない。

 まぁお金が好き、なんてのは、誰でもそうなので、大した特徴でもない。

 お金に嫌われてるなんて事は、誰でも経験している事だろう。

 俺より余程、困窮している人も居るに違いない。

 同情しよう。


 けれど、お金は俺にくれ。


 そう、俺は優しくない。

 お金があれば優しくなれる。

 こういう心持ちがいかんのだ。やかん。いかん。

 いや、つーか、ぼくと言った方がいいか。俺、という語り口だとまるで、なんだか、妙に大人びてしまう。ぼくは子供だ。二十一だけど。

 ……いや、ぼくも不味いな。必要以上に幼く感じる。

 僕でいいや。

 被るけど。

 あ、被らねえや。

 彼奴、最近、微妙に混じるけど、俺になったんだったな。

 これは丁度良い。

 

 コンビニの深夜バイトは割に入る。普通に食べ物屋で働くより良い。何より、ゆるい。ハッキリ言って、毎日、社会性とか、そう言った大事な要素をボロボロとこぼれ落としている気がするけど、……これがずっと続けられるならこれを続けてればいいのだが。


 きっと、そうではないだろう。


 店長はすげーいい人だ。


 普通、サービス業の上は性格が悪いと相場が決まってる。


 そうでなければならないし、そうであらなくてはならないのだろう。と言ってたヤツも居るが、全てが全てそうじゃないという感覚は正直嬉しい。

 だからと言って、あの人がずっと此処に居るとも思えない。所詮店長も雇われで、俺はバイトだ。

 何かあればすぐに首を切られるし、きっとずっと此処に居るなんて不可能だろう。

 多分、数字を弄っているヤツからすれば、それはどうでもいいことだろう。

 優しさや、心遣いなんてモノは数字に反映されてやしない。

 明確な基準を持たない不確実性の――


 あっそ、だ。


 売れれば勝ち。


 売れなければ負け。

 

 だから今日も僕は某かを書く。


 ……昼過ぎからいつも通りにシフトに入る。眠い。とは言え、僕は『こんな』性格をしてるが、見た目はこざっぱりだ。そう、なんか僻みとか恨み辛みとかうっつくして鬱屈したもやもやの類はやや注意深く見ないと見えない。


 店長は一目で見抜いてたけど。


 全然注意深くねえよ。まんまかよ。と突っ込みを入れた方。


 まぁそうかも知れない。


 いやほら、うちの店長、本能に頼ってるっぽいし。

 ……本能に頼ってるって表現も何かが間違ってる気がするけど。


「悪くない」


 その後に発した一言には、変な感触が残った。

 ま、それはいい。若いって言うのは、どうでもいいことまでうじうじ考えるのだから。

 と、どっかの小説か漫画で読んだはずだ。着ぶくれ異質。体質。速攻ザ・ヤングメン。

 とりあえず、先輩と交替する。


 しばらく経つと、お客が来た。


 ――お姉さんである。


 僕が勝手にそう呼んでる。


 知的美人と言う言葉がまさに正しく。


 顎に手を当て、お菓子を選別する様はなんとも言えない。


 まさにクール。美人。


 クール・オブ・クールとでも言おうか。


 いや、見た目からすると、そうは見えないのだが、僕の曇った両目からすれば、アレはきっとすげー悩んでる。


 あ、……出たんだ。新作。結構好きだったのよね、これ。でも……そうね。この小腹の感じだと量的にはきっとこっちのスタンダードなクッキーの方が……ちょっと待て私!違う!甘い!そこはそうと見せ掛け……ってこれは流石に入らないか。好きだけど、ちょっと量があるのよね、このストロベリー……むぅ……あ、でもこっちのキャンディとかでも良いかも。悪くない、悪くないよ!キャンディ!……なんと!?何!?キャラメル!?どうしてそっちに食指が動いたの!?私!――はっ!?……く、クランチだとぅ……!?

 

 ま、こんな感じ。


 なんとなく。なんとなくそう思う。


 さらにさらに。


 ……


 ……ま、それはいい。

 レジで会計をする時はそれまでの颯爽とした態度が一変。なんだか異様に可愛らしくなる。……まぁ買ってる物はお菓子類を除くと、まむしドリンクとかそんな健康促進系のえげつないのだけど。ギャップ萌え……いや、颯爽とした感じからすると……駄目だ。わからん。


 とりあえず可愛いのは解る。


 時間帯はいつもの暇な時間帯。


 ……しかし何か……なんだろう。違和感?


 ふらふら。


 ふらら。


 ふららんらん。


 ……なんだか異常にふらふらしている。


 あ、倒れた。


 ありゃ痛いな……いやつか、飲み物のケースに頭ごと行かなかったか?

 ……大丈夫かな。


 と、僕は彼女を抱き起こす。


「大丈夫ですか?」


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