年頃の彼女
年頃の彼女
「悩んでるんです」
と口を開くなり、言われる。ふむ。なるほど、悩み。悩みは尽きない、それが人生。なんてことじゃあないのだろう。
きらぼーしーじゅうじだん。
駄目だ。あの、トーン、真似出来ない。
「真面目に聞いてないですよね?」
ホッペタを抓られた。
「つつ……で?何の悩み?」
「恋の悩みです」
「はぁ、なるほど。恋、ねぇ」
どうでもいいけれど、何回も繰り返すけれど、いざ社会に出てみると、真面目に出逢いってないもんでさ。俺にしたって、周囲は全て三〇オーバー。年上が好みと言っても、そろそろ限界なんじゃないだろうか?などと考えながら、
「それは重大だ」おっ、あそこの店員の女の子可愛い。
「……ていっ」
「ぎゃあっ」
喫茶店(カフェと言うんだっけ?)で思わず悲鳴が出た。
野上七夏(目の前の彼女)が俺の弁慶の泣き所を蹴飛ばしたのだ。ついでに痛みで跳ね上がった膝がテーブルの裏側に当たり、目の端に涙がにじんだ。
痛い。
「まったく。こーいちさんはデリカシーがありません。もうデリカリーですよ。デリカリー。ていうかデリカリーって何ですか」
俺に聞くのかよ。それは、青春男を読み返せ。
「つか、なにゆえ、俺にその質問?それにこんなオシャレなカフェで。パジャマでこたつにぬくぬくしながらの方が上手いこと絶対ボケられたのに」
「ていっ、たぁっ」
「ほぎゃあ」
……的確に痛い所を攻撃してやがる。つか、慣れてんじゃねえよ!
「だからですね。こーいちさん。詰まるところ、私は恋をしてるんですよ」
「従姉妹が、ねぇ」
「そうです。だから私は――ってまたまるで関係ない方向の反応!?しかも私の説明!?こーいちさん!あなたの視線、どこに行っちゃってるんです!?」
「あの洟垂れ美少女がねぇ」
「誰が洟垂れ――って美少女って」
「あぁ、俺にとってね」
「……」
喜んでいいのか、それとも、なんらかの暴力行為で報いるべきなのか、悩む表情をさせながら(とりあえず後者は捨ててもらっておk)首を捻る。
しかし、休日ってカップル多いなぁ。
で、女子大生とはいえ、そこはまだ学生。とりあえず、先制。
「いやいや、カップルばかりだね」
「そうですね」
「周りから見たら俺等もきっとカップルだろうね(テンプレ)」
「おりゃさー(机の上の俺の手に掌を重ねて指へと間接技プラス机の下で蹴り)」
……母上、周囲の目が痛いよ。
「デレろよ!そこは!」
「ていうかこーいちさん!私にボケを求めないでください!」
「いやいや、そこはほら。同居人としての心温まるホームドラマ的なコメントを期待して、だな。どやっ」
「……どやぁ!」
「させるか!」
机の下で蹴りの攻防。相手の足が動き出す前に俺の足を――ブロックさせようとしたら、踏みつけられた。
「……痛い」
「だから言ったじゃないか」
「キラ!」
「……そんなキャラでしたっけ?こーいちさん」
「いや、俺、どちらかと言うとクロトに近いかも。『ぼーくーはねぇー』」
「あぁ、あのゲーム二人で良くやりましたね」
エクバに比べるとだいぶ敵さんがしょぼかったけれど。
まぁ、かなり楽しめた。
「つか、七夏」
「なんです?」
「恋って事はあれだ。つまり」
彼女の手を取り、
「上手く渡せよ」
「死ねぇ!」
何か間違ったのだろうか?
やれやれ。年頃の女の子ってわからねえなぁ。