番外(ていうかそもそも全部番外と言えば番外ですね)
番外(ていうかそもそも全部番外と言えば番外ですね)
コンビニ店員にしろ、世界を相手に他人の金の価値をあげたりさげたりするにしろ、僕らの世界の基盤は食べモノだ。どんなにパソコンを使えたってご飯を食べなければ生命活動は維持できない。ハングリーな人しか居ない場所で世界平和談義なんてしてみろ、すぐに殺し合いだ。まずは飯を、それから、対話だ。衣食住足りて礼節を知る。良い言葉である。現在、僕らが住む日本では、ほぼ一〇〇%海外の農産物で食べ物を補っている。どこを見ても、『国産』なんてモノは少なく、現在では外国産が基本である。一昔前、今も続いているけれど、原発騒動の後から、
「いやいや、国内のなんて食べれないよ、怖くて」
なんていう冗談みたいなコメントが流行り、(餃子騒動をすでに忘れていたらしい)国内の農家という農家は軒並み潰れた。元々、若者の農業離れは加速していたのだ。つまり、技術の廃れ、である。世界には買い叩ける国がいくらでもある!そこに行けばいい!という本まで持てはやされる時代の到来だ。いや、既に到来していたのだ。安い!という単語を筆頭に。そこかしこに。僕らが動物という動物、命という命を食べなければその身体を維持できないように、誰かを踏みつけて良い生活をしていたのだ。どこでもパソコンを、どこでも携帯を、どこでも自宅気分で、消費という消費が幅を利かせ、これがいい、あれが良い!でも、これ自体は元々僕らの根幹なのだ。それを否定するなら、死ね!いっそ心地が良い。そう、僕らは多生物の命なしに生きられない。
遂にそれが人類というお互いに向けられはじめただけだ。いや、戦争と言えばそれはそうだ。昔からそうだ。けれど、此処まで来てしまった今では、もうすでにギリギリだ。
遂にガソリン、がなくなるらしい。
その情報が出たのは、いつのことだったか。
勿論、あの原発騒動の時のようにガソリンスタンドには長蛇の列。国内のガソリン供給を行う企業も『もう買えない値段まであがりました』となり、車産業は事実上全て倒産し、これまであった流通方法は全て不能に陥った。
イコール、食糧危機だ。コンビニに食べ物が供給されることもなくなり、スーパーも勿論、そもそも食べ物は外国産なのだから海を渡ってくるのだ。そして、国が残しているのは借金のみ。他国から買い付けようにも車産業はすでに倒産。当然だろう。手形がでるわけもない。動かない車を使う一般人がいるわけがない。どんなブラックユーモアだ。畑は軒並み、パチンコ業界に吸収されたのが殆どだった。田舎にパチンコを!まぁその弊害が発生したわけだ。
つまり、
食べ物がない。(残るのは他人が家に持ってるであろう貯蔵品)
ということで、
警察機構の破綻(拳銃はすでに警官達により持ち出されたらしい。ちなみに現場でそうしようとしたヤツと防ごうとしたヤツの銃撃戦が展開された)、自衛隊の暴走、紙幣のゴミ屑化。ギャグである。スラップスティックとでも言えばいいのか。つけたしておくとガソリンスタンドに火をつけたヤツもいた。まぁ『国家』なんてものが崩壊するのは簡単だった。もともと『国家』なんてあってないようなものなのだ。利便性を求めた結果として基盤の喪失が起こった性だろう。パソコンがどんなに使えたとしても、電力という基盤がなければ、話にならないし、パソコンがなければ、そもそも必要のないスキルなのだ。勿論、こんな風に書いてる僕もそろそろやらないといけない。取って置いた食料をつまみ、どうにか生き抜いてきたけれど、そろそろ限界だ。隣町に住んでいる奴らを……
「真面目禁止ー!!!」
「ごっぷらー!!!」漏れ出た悲鳴。
前略、母上様。お元気でしょうか?僕は元気です。この学校に入って、まだ一ヶ月ちょいですが、可愛い女の子にドロップキックを噛まされたり、三階からプールに飛び込んでみたり、揉まれたり、校舎を匍匐前進して動き回ったり、髪が伸びたり、といった珍事はいくつかありますが、大旨元気です。(髪が伸びたのは普通ですね)多少、粋すぎた、もとい行きすぎた学校な気がしないでもないですが。
「つぅ……ってアレですよね、部長ですよね、勿論」見回す。きょろきょろ。
どこに行った?あの、部長。と、思ったら、
「おはよう、あずき」
「……なんで僕にキックを噛ましてきた部長が壁にめり込んでいるのか、ちょっと理解できないんですが?ていうか先輩が二年の教室でドロップキックって……」
「いいから引っ張って」
「引っ張るんですか?てかまた生徒会の人達に怒られますよ?」
「ダイジョウブだ、常にあずきがやったことになっている」
「全然ダイジョウブじゃないですよね!?それ!」
「私は内申点が大事だからな」
「まるで僕は問題がないみたいな言いぐさ!」
「だって、あずきはひも希望だよね?」
「どこからそんな情報が!?」
「いやいや、私はある意味、尊敬してるよ?思っても言えないでしょ、普通はそんなこと」
「言ってないし思ったこともないんですが!」
「でもまぁ……向いてるよね?」
「いや向いてないですよ」
「向いてる!」
「――……っ!」
「ナニ?ナニに気付いたの?」
「あんたでしょ!部長!そう言ったの!」
「ば、ばばばば馬鹿な?なんでこの眉目秀麗、健康美的、素肌美人、もちもちビジネスウーマン希望の星たる私がそんなあずきがひも過ぎるだの」
「……全く、部長。まぁいいですから、はい、抜きますよ」
「ちょ!ななななナニを抜くの!こんなところで!」
「それは部長の――」
「ワタシノカラダデ!?(ぼんっ!)」『抜くの!?』と続ける部長。……朝から何の想像をしてるんだ?この人。
「ちょ!部長!声が大きいですよ!ていうかなんで顔を赤くして抵抗してるんですか!また生徒会の、もといクラスメイトの青木さんに怒られるの、多分、僕なんですから、いいから落ち着いて身体を任せて下さいよ」
「むーっ!むーっ!(ばたばた)」
「え?いやいや、脱がさないですよ、部長。なんで僕が部長の服を脱がさなきゃならないんです?そんなに興味ない――ぐはぁ!?なんでパンチ!?しかもぐーで!?いやいや、僕、特に失礼な事はなにも――うわぁ!?今ガチで目を狙ってましたよね!?ガチで!うわ、もう!ちょっと!あーもう!ていっ!ははは、これで抵抗できまい!ていうか、ほら、引っ張りますから……行きますよ、せー――」
「何やってるの?」
壁にめり込んだ部長の身体を引き上げようと僕は格闘していて気付かなかった。何故、僕は部長を置いて逃げなかったのか。今でも、悔やまれる。まぁ、三秒後には教訓なんて忘れてたりもするけれども。
「青木……菜々美さん?」
「あたしは確かに青木菜々美だけど……何で一ヶ月も経って、クラスメイトからフルネームを言われる必要が?とりあえず、そんなことより、何でそんな汗ダラダラで壁にめり込ませた女の子を襲おうとしているのか聞かせて貰いたいかな?」
汗が止まらない。ダラダラダラ……。この一ヶ月で学習した事、その一。菜々美は怖い。見た目に反して。つーか、僕だけ扱いがひどい気がする。雑用係だから?それとも、先輩と二人で微妙な部に入ってるから?でも、家庭の事情なので、その辺は大丈夫と部長が言っていたような?
ちらり。
「むーっ!むーっ!」
ダラダラダラ……これは……絶対勘違いされる!先に事情を説明しないと!てかそれよりいつの間にか部長の口を塞いじゃっていたから、、いや、それだって、不可抗力で、まずは手を離して……
「――私の身体で抜くってどういう意味!?
」
「…………」
「…………」
無言。青木さんが無言。青木菜々美さんが無言。嫌な沈黙が流れ……
「……へぇ?」
凍てついた笑みと一緒にぼそっと唇が動いた。
ゾゾゾと僕は背中に嫌な汗を掻き――足に力を入れ、部長を置き去りに、ていうか元々、僕が引き起こした事態じゃない。ちょっと恥ずかしい小説を書いていただけだ!そしたらなんでか部長からドロップキックをくらい、勝手に部長が壁にめり込んだだけだ!そう!だから、僕が此処に残っていなくても――そう、逃げだそうとしたのだけれど――
いつの間にやら隣に来ていた青木さんが僕の肩に手を置き――
「……青木さん」
とりあえず、僕は彼女に話し掛ける。
「ナニ?変態なの?」
「いやチガウヨ!何で僕が壁にめり込んで喜んでるみたいな反応なの!?」
「いや、そういう趣味なのか、と」
「ていうか何で拡声器で喋ってるの!?ていうかこの状況はナニ!?なんでどうして部長が穴から抜け出せて代わりに僕が突っ込まれてるの!?」
「……なんかビーエルみたーい~」
「――じゃねえよ!」突っ込んでもいないし突っ込まれてもいねえよ!
こいつは僕をどうしたいのか全くわからん!ていうか生徒会自体がわけのわからない組織だけれど!
「……青木菜々美……恐ろしい娘……(ぎりりっ)」
「あ!部長!助けて!部長!ていうかなんで壁越しにそんな演技!少女漫画的展開じゃないですよ!多分!だから助けて――ってあぁ!捕まっちゃった……」
以上、こんな感じです。僕の日常。