ダッフルコート 2
ダッフルコート 2
そもそも彼と私の関係ははっきり言って微妙だ。恋人未満友達以上。
ていうか、アニメでも漫画でもないのに、この関係が成り立つという恐ろしさ。
まぁそれもこれも、
同じ大学で同じアパートに住み、同じサークルと言うことで築かれた微妙な距離感、の性に違いない。
そして、多分、家族や兄妹という感覚に近いに違いない。
かっくんは、見た目は悪くない。スゴイ美男子というわけじゃないし、凄く背が高いというわけでもないし、凄くお金持ちというわけじゃない。けれど、優しい。
はにかむ笑顔が……なんともまぁ。うふ。というか。
……いや、男を詳しく知ってるのかと聞かれれば、正直な話、それほど経験を積んでないし、別段、ピュアであるとも言えない。けれど、まぁ……私としては凄く心が落ち着くと言うか。
例えば、スクール水着を今日のように持ち出してきても、リアクションを返す余裕があるというか。
とは言え。
迂遠だし、決して……そのまぁ何?表現してないわけじゃないのだけれど。
そろそろなんらかのアクションをして貰いたいところではある。
……
…………
そこっ!
女の子は等しく来て貰いたいものなんですっ!
口説かれたいモノなんですっ!
そして口説かれた上で決めたい生き物なんです!
それが女性!
それが私!
……だから、まぁ少々、というか、やれコスプレだの、やれ制服だの、をかっくんに着せようとし、隙さえあらば、私のパンツを被せてみたり(飲み会の帰った後は大抵かっくんは私の部屋で潰れてます。悪戯し放題)したのだけど。
……まぁ私の好意の示し方というのが迂遠過ぎるのかしらん?
……というか、びびってるというか。
この距離感を変えたくないというか。
……例えば、もし、告白した性で、振られて、結局、行き来もなくなって……
と考えると、……ねぇ?
別に今が全てじゃない。
縁があるなら社会人になっても……とも思う。
けれど。
けれどけれどけれど。
バイト先の先輩は――
「いや、……社会に出ると出逢いにさく時間がなくなるのよね……」
と、お茶を飲みながら寂しそうに語っていた。まぁさもありなん。職場となれば、それはもうしがらみ天国のフィーバーで。上手く行こうが、行くまいが、新たな問題と戦わなきゃならないだろうし、そもそも五日働き、二日休みだとしても、今だからこそ気楽に周囲の人間とどうでもいい話を出来るけれど、バイト先に行けば解るように、同年代という存在は稀少だ。となると、会話だって、会社の人とするか、と聞かれれば、『当たり障り』のない会話はするだろうけれど、それはあくまで『会話』をしているだけで。
で、出逢いを探すとしても、落ち着いた人か、稼ぎのある人か、と『第一条件』を作ってしまい、結局、『条件』何てモノは、あくまで『振り分け』であって、それが『相性』を決めるわけじゃない。となると、当然――
性格の不一致は出るだろう。
まぁじゃあ学生の時に結婚してしまえばいいかと言えば、そうでもないだろう。
社会に出て頑張れるタイプなのか、それともというのは全く未知数だし。
で、私は今日も結論を先送りにしている。
そう、多分、それほど好きなのではないのだ、と結論づけて。
一時の気の迷いで、ただの性欲だ、と心へ向かって言う。
それなら、それなら別に気楽そうなたるくて軽い話を繰り返し、寝て、という事をすれば気が晴れるだろう。
と考えてみたり。
でも『それ』をしたところで、きっと、やっぱり、『此処』に戻ってきてしまうわけで。
だからそういう事も出来ず、
やっぱり私は一歩も進んでないわけで。
最近はそればっかりだ。
社会が具体性を増してきたからだろうか?
などと、食堂でひたすらポッキーをかりかりかりかりかりやりながら、考えている所へ――
「えーと、安田、さん?すいませんっ!」
「んぁっ……?」
「はじめまひてっ!」
……噛んだ。
と、変なヤツが来た。
で、その変なヤツ――童顔で、良い顔をしていて(つまりちょっと弄ったらさらに雰囲気が良くなりそうな)、年下であり(見た目的に)弄りやすそうな性格をしていそうなヤツが来た。
何せ、私が思った事は、
『可愛い顔をしているじゃないの』
というすでにただれたOL的発想である。
汚れていないと言えばそれはもう完全な嘘なので、素直に私はこう言おう。
こういうのも悪くない、と考えた、と。
やれやれ。
で――
告られたわけだ。
「か、彼氏居ますか!?」
「いきなりだねぇ」
「超好きです!」
どちょっきゅう。……どストレートですよ!お兄さん!
みたいな。
ま、まぁ……ほら、……ねぇ?
えへ。
いやまぁ、ほら、誰かに好かれるってことがすでにそれは何らかの証で、それだけで他人を好きになれる、という話は聞いたことあるし、それはそうなんだけどさ。
悪くない……ねえ。
というすでに私は悪女である。
でもまぁ――
「――は?」
この顔である。そう、かっくんの、ね。
目をかっと見開いて、それまでちょいちょい目を向けて読んでいた新刊(良く私も借りている)からも目を上げてこっちを見ている。
……完全に失敗しているに違いない。……やり方としては。
だってきっと……意地になるだろう。普通。
『ふーん』とか。
『へ……へぇ、良かったじゃん』とか。
――何せ私が意地になっているのだから。
――はぁ……厄介な性格だ。
めんどうくさっ……と思って自己嫌悪……。
で――