彼女とラーメン
彼女とラーメン
そう言えばいつ以来だろう。
と、目の前で湯気を立てている麺をずぞぞーとすすりながら考える。
人参とピーマン、それに豚肉。豚骨ラーメンと形容していいのかどうかは知らないが、間違いなく、使用していたのは豚骨ラーメンだ。
二人で暮らし始めてなんのかんのと五年。
私は先行き不安が半端無いCDショップの店員で、彼は本屋で働いている。
ワーキングプアというヤツだ。二人合わせて三〇いかない。
契約社員というバイトだ。
正直な話、辛いと言えば辛いが、辛くないと言えば辛くない。
子供が居るわけではないので、先の心配がないというのも大きい。子供がいたら、真面目な話、私はキャバ嬢やら風俗嬢になり、アレしたりコレしたりして彼に面倒見させるのが一番良いだろう。
なんのかんのとあって、今日は久しぶりに二人の休日が重なった。
で、彼の料理を食べている。まぁ手抜きだけどさ。
でも、冬に食べる温かいモノは本当に美味しい。衣食住足りて礼節を知る。
まさに。
寝起きの機嫌の悪い人は大抵、朝ご飯を食べない人である、と言っていたのは誰だったっけ?まぁ、うちは二人が同程度の稼ぎだからか、比較的食べ物、掃除、洗濯に関してお互いがやる。多分、彼の母親がしっかりしていたのだろう。でなきゃ、これほど、マメに家事をこなす男というのも珍しい。
「なこさーん、お風呂入るー?」
「入るー」
「一緒にー?」
アホだ。正真正銘のアホだ。
そのアホに参ってる私も大概だけどさ。
なんていうこともなく、ふとした瞬間、例えばソファーで寝転びながら、彼が本を読んでる時(萌え系も読む。最初は敬遠してたが……最近は後で私も貸して貰う。マスラオ、レイセン、ミスマルカは熱い。たまらんです)やら、なんやらに見る首筋。喉仏とか。勿論、そのパーツ単体で見ても楽しくはないんだけど。彼についてるパーツだから、とでも言えばいいのかな?暮らす前はまるで気付かなかった魅力的な部分を発見し、私は一人悶える。
腕とかね。腕。
血管とかね、血管。
頭をかく癖とか凄く好き。
人参の香りが拡がる。
かみ砕く。喉を通り、胃に呑み込まれる。
咀嚼し、麺をすすり、汁を飲む。
砕いてみるとややこしい。
ぼやんと描いていた円が輪郭をハッキリさせるように人参が主張する。
こんな味だっけ?
それだけ私は色々と味わってたものをないがしろにしていたらしい。
目の前の彼は真剣に
「ずぞぞー」
と麺と格闘していた。真剣に。鼻の頭に細かく刻みすぎた人参を乗せながら。
私は特に何かがあったわけじゃないけど、楽しくなる。
戦え、食え。飲め。そして、戦え。
まさにその通りだ。
「ん?」
麺を口から垂らしながら、お間抜けな顔をあげる。
食いながら顔をあげるなっ……にやけながらそんな事を思う。
勿論、まだ人参はとれてない。やれやれ。
私は手を伸ばして、
「ん」
人参を頂く。
頂いた。
咀嚼する。
「んん?」
やっと麺をずぞっと音を立てながら、呑み込んだ彼の唇を奪う。
まさに。
奪う。
頂いた。
「にひっ」
そんな休日。




