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眼鏡の男

 眼鏡の男


 あれ?……あきさんのお友達じゃないですか。というか、どうして此処に?……あぁ、なるほど。あきさんから聞いてたんですか、僕の職業。なるほど、なるほど。……ていうか、貴女、旅行する気在りませんよね?……それは関係ないって台詞を聞くとは思いませんでした。仕事中ですよ、僕。いいから、話を合わせろ?……あぁー、なるほどー、スキーに興味がアルンデスネー……これでいいですかね?というか、あきさんの友達だけあって、えーと、梅さんでしたか?特殊な方ですね。いえいえ、ご謙遜を。



 十分変人ですよ。



 ……オマエに言われたくない?失敬な。僕ほど、実直で素直であきさんを愛してる男はいませんよ、マジで。……いや、そこで照れないで下さい。そして羨ましそうな目で見ないで下さい。いや、耳たぶに注目するのもよしてください。……ていうか何ですか?梅さんまで耳たぶに目覚めたんですか?……むしろ歯並び?……いや、わかりませんね、僕には。


 ふん、ユビバース風情が、フェスティースに敵うわけがあるまい?……いや、ユビバースの方が上手いんじゃないですかね?……『フェスティース……歯並び祭り――哲学としての歯並び――』……いや、興味ないです。……おっと、へぇー、スキーを嗜んでらっしゃるんですねー……で?……いやいやいや、大丈夫です。要りません。なんです?布教用に置け?……間に合ってます。僕はあきさんの指とあきさんが居ればそれでいいです。いや、それが最高。素晴らしいです。世界が慈愛に満ちてます!





 ユビバース!!!!!





 ……こほん。失礼。


 で?ナニしに来たんですか?此処に。


 ……は?男を紹介しろ?……いや、歯並びなんて気にしたことないですよ。男の歯並びなんて見ません。見てたら、僕は完全なゲイじゃないですか。……


 ……鼻息荒くすんな。


 ……ていうか、何で僕の上司を呼びつけて……

 え?休憩に行け?ていうか今日はもう帰っていい?……梅さん……?貴女何者?


 ……名探偵?


 本屋で働く?……まぁ、別に何だっていいですけど、その名探偵がなんの用です?……ふむ。ふむふむ。


 堕としたい男が居て、攻略法が必要だと……。


 それで僕に聞く、と。





 ……いや、まるで不適材不適所ですね、それ。





 え?あのあきちゃんを落としたんだから大丈夫って……いや、知りませんけど。まぁ確かに、あきさんはすげー可愛いですけどね。難攻不落って感じです。笑顔ちょー可愛い。語っていいですか?いや、聞いて下さいよ。入りだけでいいですから。大体プロローグで三十六時間程度なんで。指については……って……あぁ、残念。じゃあ、あきさんの魅力について語るのはまた後日……。残念です。


 というか、梅さん。聞き違いでなければいいんですけど、堕としたいという言葉って……


 あぁ、堕落でいいんですね……いや、どっち?落下ですか?それとも墜落事故のつい的な?ふむふむ。


 えぇ、門外漢です。やかましいわ!こちとら童貞なんじゃい!

 

 最近卒業したばっかなんじゃい!


 ……えぇ!?其処でひくんですか!?


 いやだから、そもそも僕がこの年までですね、こうなったのには理由がありまして、詰まるところ、指に目覚めたのが十五の頃で……(うんぬんかんぬん)……


だからそもそも女の子のハートをゲット出来たのもある意味スゲ―アクロバティックで、奇跡の一手だったんですよ!マジで!これまで成功例がなかったんですから!だって僕『指』に目覚めちゃいましたからね!?このマニアックさに気持ち悪さ!どうしようもないでしょ!?いや、あきさんは認めませんけど、美人です。それと同じくらい、指も完璧です!パーフェクト!つまりですね……


……






「感想は?」

「……(ぷすぷすぷすぷす)」






 煙が上がっている。


 名探偵としての仕事を終えたあたし、名塚梅は、赤面し、ぷしゅぷしゅと音を立てている友人をもう一度見る。そう、あたしは名探偵。本屋のバイトは仮の姿。盗聴、録音、爆破、父親のコネと母親のコネを駆使し、悪の華をあたしにとって良い方向に書き換え、『魔王』とも称され生きる名探偵。


 幸せ絶頂の友人の祝福の仕方くらいお茶の子さいさいである。


 先日、この気の良い耳たぶに目覚めた友人に、


「誕生日プレゼントナニがいい?」

 と尋ねたら、


「いや、別に……」

 と、顔を真っ赤にしながら、言ってきたので、


「じゃあ、あまりに嬉しくて焦げちゃうようなプレゼントを用意してあげるね」

 と宣言したのだ。


 そこからはもう簡単。いつも通り、録音機材を利用し、あきちゃんの彼氏の上司に話を通しておき、彼氏にあきちゃんについて語らせる。むふふ。それを雑音を削り、適正な音量に編集しなおし、再生データにし、物理的なプレゼントとして、再生機とデータを共にプレゼントした。ご飯三杯は軽いに違いない。やーん、お腹いっぱい。みたいな。


 と、今、渡し、聞いてるなと思ったら、イヤホンを耳に突っ込んだまま、あきちゃんが椅子を引き、立ち上がる。

 やれやれ。そんなに改まって礼を言う必要なんてないのに。

 と思ったら、


 がしっ……


 ……がしっ?


「パイルっ――」


 途端、身体がびくんっ、と跳ねるが、時既に遅し。まま、椅子から肩を持たれ、宙へと持ち上げられ、そのまま――


 ――「ドライバー!!!」


地面へと叩きつけられた。


「――ぎゃーすっ……」


 流石……あきちゃん……衰えてないね……プロレステクニック……

 

 薄れゆく意識の中……あきちゃんが歩いてカフェの出口へと歩くのが見える。

 ……スキップをしながら……


 悦んでんじゃん!


 と、あたしは突っ込みをしたとさ。


 後日。


 彼氏のその語りを聞きながらぽーっとしてる友人を休憩室で見たのは、当然ながら秘密だ。





…………





 (ぼそっ)変態め……


 ――ってあきちゃん!?いつの間にあたしの後ろに……!!!?


 ぎゃーす!



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