指
指
レジ打ちの佐山です。え?いや、女の子です。顔つき?……いやまぁ、卑下するつもりはないですけど、ごく普通でしょうね。普通。悪くもない。けれど、格別良くもない。そんな感じ。体つきもどちらかと言えば、そんなにグラマーでもないし……ま、外見にさしたる魅力もない、ただの本屋のレジ打ちです。当年とって、二十三。はぁ。大学は行かず、専門学校に行ったモノの、当然、そんな簡単に人生が進むはずもなく、フリーターで、バイトしています。
出逢い?……真面目に聞いてます?
別にないわけじゃないですが、サービス業で同じ職場ってのは結構大変なんですよ。安定してませんし。後、大学生が多いってのもありますね。まだ二十三なので、正直、世間を知らないと言うか……いや、やかましいです。うるさい。黙れ!
処女の何が悪い!
……こほん。
いやまぁ、見た目が普通な性か良く勘違いされますが、普通に恋愛した事はありません。一切合切。いや、小学校の時とかはありますよ。中学校の時もありましたね。でも、どちらも上手く行かず(まぁ……上手く行くってのもどうかと思いますが。……失礼)、最終的な結論には至らず(まぁ当然でしょうな)、現在に至るというわけです。え?高校?……女子校ですが何か?
誰が少女漫画中毒者じゃ!
……いや、失礼。認めましょう……自身の少女漫画中毒を!
でもね、男性の皆さん。私、思うんですよ。手を引っ張れ!口説け!って。
察しろ、と。
それは卑怯だと言うかも知れませんが、そういうものなんです。何もなくて、貴方の気をひきますか?何もなくて貴方の視線を注目させますか?何もなくて抱きつきますか?
いや、高校生の男性諸君は知りません。自分で自分のを弄ってなさい。勉強しなさい。というか、大学生になってお金を稼げ。責任を取れる状態で告白しろ。
まぁでもこれはただの妄言です。ただの本屋のレジ打ちの嫉妬全開フルバーストです。全部撃ち落とします。最狂最悪のニート……じゃなくて。
困ってることはそれじゃなくて。
「……指、キレイですね」
へ?
そう、これ。
……流石に、握られはしませんでしたが……
まるで指は見ずに私の目を見て……
にこっ……
さてさて。諸君。
こういう演出は止めて下さい。嬉しすぎます。嬉しすぎて一周しちゃって、逆に冷静になっちゃうくらいです。はい!ストップ!ストップ!私の火照り!火・照・り!そしてニヤニヤするな!梅ちゃん!(隣のレジ打ち。同僚)
「ありがとう」
左隣に居るニヤニヤ(鼻の穴が開く可愛い女の子)する梅ちゃんの横っ腹を親指で突きつつ(『あぁ!痛い!地味に痛いよ!』)、私は右手で自分の耳たぶに触れました。熱を持ってる耳たぶが『言われた』現実を指していて……なんだろう。
「ニヤニヤ」
……友人をパイルドライバーするべき、という単語が頭を過ぎりました。
「ちょ――まっ……!!!――にゃーす!」
まぁそんな事があって。
とは言え、好きになるほど、私は尻が軽いわけもなく、というか、うちの本屋はそこそこ広いので、そう簡単に休日に私のレジに来るということもなく、指折り日にちを数えるようになって一週間。
隣の梅ちゃんが「パイル」という単語だけでビクッとなるようになったのは置いといて。(まぁ日常生活でパイルなんて単語はそうそう口にしないでしょう。普通)
その日も混んでいたので、まぁ……会えないだろうな、というか、何を期待しているんだ、私。つかそもそも、彼の見た目が好みじゃなかったら、ドキドキもしなかった癖に……云々かんぬん……ま、そんな(傍目にはそんな邪悪な面に取り憑かれた風ではなかったらしいです)、邪な黒々とした思いを抱えながらその日もレジを打ち、本にカバーをかけ、隣の同僚に時々眼鏡を光らせてあげてたんですが。(私の特技です。キラーん)
来ちゃいました。
おいおい。
「こんばんは」
きゃぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!
その笑顔は反則です!
レッドカード!レッドカードです!退場!退場してください!
――ついてってあげますから!
おいちゃんが更衣室で反省をうながすまで良いことをしてやろう……ゲヘゲヘ……
……はっ……危ない危ない。……いやぁ……暗黒面に引き摺り落とされる所でした。厄介です。(『だから!地味に痛いよ!聞いてる!?ていうか連射モード!?連射!?あのスーファミとかのコントローラーにあった連射機能だよね!?コレ!?』)隣で、梅ちゃんが何かを言っていますが、正直それどころじゃ……それどころじゃ……
『指――マニアックなその嗜好に至高。全ては指のために。フィンガーオブ“ユビバース”』
……どこのハリー大尉でしょう?ていうか、このネタ解る人がコレを買うんでしょうか?ユビバースって……。微妙に上手いところがこっちのむかつきを誘いますね、コレ。
つか、リアルにマニアックな人じゃないですか――――――!!!!!!!
え!?私の指!?つかパーツ狙い!?真面目な話……
などと考えていた所へ――
「ところで、お茶しませんか?」
……まぁ……その……いや、何よ。別にいいでしょ。
男日照りよ!えぇ!それよ!?悪い!?悪いと言うのか!処女は死ねと言うのか!
……ん?
いや……私だって、そりゃ、あの台詞を『さらっ』と言われたら行かないわよ。……誰が欲求不満じゃ。認めるけど。悶える処女って私の事だもん……ってやかましいわ!そうじゃなくて。顔が真っ赤っかで、いや、そりゃ演技かも知れないけれど、店員がさりげなーく、全員注目してる中、そう言うことを言ってくれたってのはそのまま嬉しさなの!解る!?
で行ったのか、と?
……
……
………………………………
あぁ!行きましたよ!行きましたとも!あの眼鏡!キュートなめ・が・ね!何あれ!?ていうか何あの照れ!つーか、年上!年上なのにあの可愛さ!ナ・ニ・ア・レ!?
『いや、指だけじゃないんですよ。正直……その……』
『魅力的で……』
萌・え・殺・す・気・か!?
語っていい?語っていいわよね?そう!あのつぶらな瞳!指に注視する変態性!その真剣なめちゅき!……目つき……何よりあの照れっぷり!微妙に癖がある髪!眼鏡の似合う好青年!首筋をかりっとする癖!照れると真っ赤になるほっぺ!
……いや、そこじゃない?……あぁ……尋ねるわけ?コレについて?……うーん……そうそう、……いや、私もまさかね。自分に此処まで変態性があるとは思わなかったわ。
『耳タブー・オブ・ザ・イアー』
……目覚めちゃった……。
だって……くぁいいだもん……彼の耳たぶ…………食べたい……
じゅるり……
「病気だね」
……
……
……
………………………キラーん
……友人をパイルドライバーするべき、という単語が頭を過ぎりました。
「ちょっ――それは――まっ……ぎゃーすっ――……!!!?」