夢
―――何だろう?
声が聞こえる。
―――あぁ、違う。…これは夢だ。幼いころから何度も見る夢。
それなのに、どうしてか夢から醒めると覚えていない夢。
ただ、夢を見たことだけ覚えていた。でも、その夢を見ると、いつもの夢だと理解できた。
今夜もまた、その夢を見ているのだ。
その夢は霞がかかっているみたいに映像がはっきりしていない。
でも、心に語りかける、その声ははっきりしていて、それでいてどこか懐かしい。
この声は誰だろう。
この声を私は知っている。
遠い、遠い昔から知っている気がする。
声はどこか哀しげで、切なくて…
―――夢から醒めると、いつも瞼から涙が溢れていた。
―――――――――――
不思議な感覚に意識を揺さぶられ、少女は目を醒ました。
いつもの夢を見たのだろう、目尻には薄く涙が浮かんでいた。少女は指先で涙をふき取った。
「―――夢…ここしばらく見ていなかったのに」
少女は呟いて、ベットから出て窓の前に立つ。
初夏の涼しげな風が頬を撫でていく。
空はまだ、濃い闇に包まれている。朔の夜なので月はなく、かわって星がいつもより強く光り輝いていた。
「今、何刻ぐらいだろう」
夜の風を受けながら、外を眺めていた時、ふと、全ての音が掻き消された。否、全ての音が止まった。
夜の静寂が世界を包んだ。
「―――何…?」
少女は怯えた声で呟く。
見上げた空から、世界から今まで満ちていた音が消え失せた。
その事実に混乱している少女の目の前で『それ』は起きた。
―――夜空に光の矢が走ったのだ。
その光は一瞬の出来事だった。しかし、その光は少女の目に強く焼きついた。
「今の光は何?」
少女は呆然と呟く。
―――あの光は何だろう?
そのことが頭から離れない。
―――この心のざわめきは何だろう?
突然、『夢』から目が醒めたのだ。ただの夢ではない。幼いころから見る、覚えていない『夢』。
そして、その直後に光が走った。
これはただの偶然だろうか?
―――呼んでる?でも、誰が…?
不思議な気持ちが、今の自分を支配している。
―――懐かしい…
そう、思ったのだ。その光は温かく、哀しげで、それでいて懐かしい。どうしてかは分からない。
でも、確かに心はそう告げている。
ふと、頬を伝うものがあった。
手で触れてみたら、それは涙だった。
「―――涙…どうして…」
少女は窓の外を見つめた。
外は既に元の落ち着きを取り戻している。
「あの光、あっちの方向だったよね…」
少女は光が走った方角を見つめながら、小さく呟いた。そして微笑む。
「―――行こう。あそこにある何かを確かめに」
だって、そうしなくちゃいけない気がするから―――だから行くんだ。
心がそう告げているから。
―――行かなくちゃ。
あそこは私が行くべき場所だから―――