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終章

 結局私は、不思議な力を持ったこの傘を手に取り、その場から逃げるように立ち去るしかなかった。


 もしもこの傘を、誰か知らない人が持っていくようなことがあったら……。


 それに、この傘を置き去りにしようとしても、きっと誰かが『これ、この傘! あなたの傘では?』と言いながら追いかけて来るに決まっている。


 だから私は、後悔しようとした。


 しかし、いったい、私のどこがいけないのだ?

 この力は、私の力ではない。私は、何も望んでいない。


 いったい何を後悔すればいいのだ。


 下駄の男を恨むのもどこか筋が違う気がする。

 そもそも傘を盗むやつが悪い。傘を盗むような奴は……、盗むような奴がどうなろうと……。


 私はようやく、ことの本質を理解したような気がした。


 私が後悔するようなことは何もない、悪いのは私でも、下駄の男でも、この傘でもない。


 私が私の何かを変えなければならないようなことはない。


 私は、


『目覚ましは使わない』

『天気予報はあてにしない』

『ビニール傘は使わない』

『発泡酒は買わない』

『延滞はしない』

『ジャージでは出かけない』

『呪いごとは信じない』

『セットメニューは注文しない』


 だから……、だからこんな日は、心配でしかたがない。


 もし、あなたが天気予報も見ないで、傘を持たずに外に出かけたとする。

 そしてあなたは、突然の雨にびしょ濡れになりながら、1軒の店を見つける。


 『ちょうどいい、ここで雨やどりをして行こう』


 なかなかやまない雨空を恨めしく見上げながら、ふと見ると、どこにでもあるよな、黒い傘が何本も傘立てに置いてあるのを目にする。


 そしてそのうちの一本の傘が、あなたに語りかけるかもしれない。


 大丈夫、誰も見てない

 みんなやっている

 わかりっこない

 持って、行っちゃいなよ


「今日の東京地方の予報は晴れのち曇り、ところによって雨が降るでしょう」


 私はこんな天気予報の日には……。


 心浮かれて、お気に入りの傘を持って街に出かけたくなるのだ。


I'm singing in the rain

Just singing in the rain

What a glorious feelin'

I'm happy again

I'm laughing at clouds

So dark up above

The sun's in my heart

And I'm ready for love

Let the stormy clouds chase

Everyone from the place

Come on with the rain

I've a smile on my face

I walk down the lane

With a happy refrain

Just singin',

Singin' in the rain


write:Arthur Freed「Singin' in the Rain」


天気と交通事故に関する研究


天気が悪いときには、交通事故の件数が増える、というデータがあります。

財団法人 交通事故総合分析センター

http://www.itarda.or.jp/

降水時には自動車乗車中、歩行中の死亡事故が増加

http://218.44.62.5/itardainfomation/info34/info34_1.html



 また、ある研究者は、大気中のイオンと交通事故に一定の関係があるという研究結果を発表しています。

 それによれば、人間の心の状態と天気にはつながりがあり、低気圧が通るとき(つまり、天気が悪いとき)には、地上にプラスイオンが増えます。

 このプラスイオンが人間の精神力、特に判断力や注意力といった自動車を運転するのに重要な能力に対して何らかの影響を与えている可能性を指摘しています。

 この研究は、精神に何らかの障害をもった人が、自殺や暴走行為にいたるメカニズムにも影響があるとも考えられています。




 この物語は、実際に小生が体験した話――DVDを雨の中、返却しにいったら、ものの10秒で傘を盗まれた体験――をもとに、描かれています。


 しかし、きっかけは、とあるブログに書かれていた悲痛な体験にインスピレーションを受けました。


>誰だ俺の傘を盗んだバカ野郎は!

>俺の体のサイズに合った、でかくていい傘だったのに!


>これだから愚民は以下略。

>しょーがない、濡れて帰るか…

>…不思議なもので、傘を盗まれて雨に濡れると、いつもよりみじめさが増します。

>外出する用事が王将だけだった、というのがまたみじめさに拍車をかけてくれます(笑)

とある魔人の記(月~金にて小説「ソード☆ビート」連載中!)  ささやかな惨事

http://ameblo.jp/jmz-b/entry-10567519578.html

(ブロガーのbさんのブログを見なければこの物語は生まれなかったでしょう。bさんに感謝)


 人の怒りや悲しみは「少しのこだわり」と「なんでもない日常」の中で、思わぬ化学反応を起こし、恐ろしく大きなものになるのではないか・・・ましてそれが雨の日ならなおさらだ・・・と思いました。


 多分、同じような体験をした人の中には

「傘を盗むようなヤツは氏ねばいいのに」とtwitterなどにつぶやくに違いありません


 でも、いいんでしょうか?

 そんなに簡単に「死んでしまえばいい」などと書き込んでしまって……


 この物語の中で起きたことは、『下駄の男』がいなければ、ただの偶然の出来事だといえます。

 資料にもあったように、雨の日は、特に急に天候が変わったときは交通事故が多発します。


 これは統計上、偶然といえる出来事なのです。


 ワタシもこれを読んでいるあなたも、同じ統計上の数字の中で日常を過ごしています。


 主人公のちょっとしたこだわりは、きっとあなたにもあるはず。

あとは、下駄の男が、あなたの横を通り過ぎたとき、それにあなたが気がつくかどうか?


 ただそれだけの違いではないでしょうか?


 最後に、無理を言って戦友のkawauさんに表紙を作成していただきました。

 なかなかにホラーな表紙絵ができました。ありがとうございます。

 

 そして、最後まで御読みいただいた全ての方々に感謝、ありがとうございます。

 

 今日の天気予報は……

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