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第1章 天気予報はあてにしない

 『目覚ましは使わない』


 朝起きるとテレビのスイッチを入れ、朝の情報番組に耳を傾けながら身支度を始める。今朝はこれといって大きなニュースがない。


 芸能ニュース、毎回繰り返される政治の醜態――。もう、うんざりだ。


 私が家を出る時間までに、この番組の天気予報のコーナーは始まらない。


 それに――。


 『天気予報はあてにしない』


 部屋から仕事場までは、歩いて10分。オフィスには置き傘がある。帰りに雨に降られようが問題はない。だから天気予報を気にすることはない。だがその日、私が支度を済ませ、テレビを消そうとしたとき、番組のテーマが異常気象の話題になっていた。雨の少ない梅雨、そして、梅雨が明けたと宣言したとたんにゲリラ豪雨が頻発した。


 どうやら、午後には強い雨が降るらしい。

「ちぃっ!雨かぁ」


 ふと、レンタルショップで借りていた「あの」DVDのことを思い出した。

「今日が返却日かぁ」


 普段なら仕事場から帰ってきて、食事やシャワーを済ましてからDVDを返却しに行く。部屋から歩いて5分。返却したら、次に借りるDVDをいろいろと物色する。借りるのは一本だけ。選ぶのにかかる時間は、長いときで一時間くらいになる。


 帰り道。


 途中にあるコンビニエンスストアに立ち寄る。その日借りてきたDVDにあわせて、ピーナッツやポテトチップスなどのスナック菓子と、ビーフジャーキーやチーズと缶ビールを買う。


 『発泡酒は買わない』


 週に一度の楽しみだ。発泡酒は何か誤魔化されている様で好きになれない。味の問題ではない。私は、ビールが飲みたいのだ。


 だが、しかし問題はあのDVDだ。


 全ての準備が不意になる瞬間――。大いなる落胆とそれ以上の憤り。


 あのDVD。


 劇場公開当時、それなりに話題になった作品で、レンタルが開始され、その映画専用の棚に、ずらりと空のDVDケースが並ぶ。借りようと思っても、いつも貸し出し中になっていた。


 次こそは、次こそは。


 じらされればじらされるほど、いつの間にか作品への期待も高まる。これはどうしようもないことだ。しかし、あのDVDはひどすぎた。前作が低予算にもかかわらず、斬新なアイデアと、奇想天外な展開で、見るものを引き付け口コミでじわじわと高評価を得て話題となっていた。


 あれはよかった。


 満を持して公開した新進気鋭の監督の2作品目。それなりの制作費をかけて、それなりの著名な俳優を使い、映画館での観客動員数も上々だった。雑誌の評判も悪くなかった。

 だが、この内容――。


 お前ら頭がどうかしているだろう!


 『あのDVD』を再生して30分も経たないうちに私は、そう吐き捨てていた。わざわざ雨の中『あのDVD』を返すために出かけて行くのは面倒に思えた。だから私は、『あのDVD』をカバンに入れて、仕事帰りに返却することにした。


 今日の夕飯は、外で済まそう。


 たぶん、『あのDVD』を借りて観た人なら、わかってくれるはずだと思う。コーヒーに砂糖を入れたり、ヨーグルトにコンデンスミルクをかけて食べるような人でなければ、きっと私と同じ気持ちのはずだ。あんな駄作を喜んで観る奴は、脳みそが砂糖で溶けているにちがいない。私はそう思う。


20121129 修正

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