007 串焼きと作戦
突如として起きた梶原失踪事件。
その真相を究明するため、我々吉岡隊は捜索に乗り出すのだった。
「いたぞ! 梶原だ!」
梶原は、捜索開始から約2分で見つかった。
小便をするため、こっそり林に入っていただけだったのだ。
「もう! 心配したんだからね! 梶原!」
「まさか小便のタイミングで戻ってくると思わないじゃん。つか、ユズたちこそ戻ってくるの遅すぎない? ログが出てから数十分経ってるぞ」
「正確には27分47秒だ」
「吉岡先輩、体内時計までレジェンド級なんすか!?」
「いや、今のは適当だ」
「適当なんすか! 吉岡先輩の場合、何かと超人的だからわかりにくいっすよ!」
俺は笑って流すと、梶原を見た。
「こっちはメシの用意をしていたんだ。アユを大量に捕ったから、みんなで食おうと思ってな」
「異世界にアユいるの? 本当にアユ? アユっぽい魚じゃなくて?」
「それはわからんが、俺と早川とユズが見たところ立派なアユだ」
「へぇ……食えるの?」
「食えなかったら食あたりで死ぬだけだろ、気にすんなよ」
「そこは気にしろよ!」
「いちいちうるせぇ奴だな! じゃあ、梶原だけメシ抜きな!」
「それは嫌だな……。よし、俺も覚悟を決めたぞ!」
俺は喋りながらユズの持ち帰った木材を積み上げた。
後から足す薪は別によけてある。
「よしユズ、やれ」
「了解! 燃えちゃえー!」
ユズがユニークスキル【ボム・フルーツ】で赤い果実爆弾を出して投げた。
爆弾は積み上げた枝の山の手前に着弾し、炎が広がる。
その炎がいい具合に燃え移り、枝の山が燃えてたき火が完成した。
「よくやった、ユズ隊員!」
「いえい! ユズ隊員、大活躍!」とユズが俺にVサインを向ける。
「次、早川! 串をたき火のそばに立てろ!」
「了解っす!」
早川が背負い袋からアユの刺さった串を取り出し、たき火のそばに立てていく。
「魚の下処理どころか串打ちまで済んでるのか。相変わらずイカれてんな吉岡」
梶原が苦笑しながら俺を褒める。
「モテる男はこのくらいできないとダメだぞ梶原!」
そう言うと、俺はおもむろにユズへ近づいた。
「吉岡くん?」
ユズが首をかしげる中、俺は右手を伸ばし、ユズの胸をわしづかみにする。
それから上下にブンッと大きく振り、「よし!」とうなずいた。
「ひゃっ!? なにが『よし!』なの!? 謎の安全確認なんだけど!」
「建前は『おっぱい祈願』とかなんか適当に頼む」
「もう……!」
「あのさぁ吉岡、そういうのやめてくれない?」
梶原が軽い調子を装いながらぶち切れている。
だからといって、「以後、気をつけます」という俺ではない。
「仕事のあとのユズっぱいは大事なんだ。仕方ない。早川の裏切りのせいで死にかけたからな」
「俺のせいっすか!? たしかに吉岡先輩を残してユズ先輩のところへ行ったのは反省してますけど……」
こうしている間にも、いい感じにアユが焼けていく。
焼き始めて約20分なので、まだ片面しか焼けていないが、すでに香り立っている。
頭を下に向けて串を打っているため、開いた口から水分が滴り落ちていた。
「もう美味しそうなんだけど! 吉岡くん、あとどのくらいかかるの!?」
「30分くらいだな」
俺は串をひっくり返していく。
「吉岡先輩、めっちゃ手慣れてますね! キャンプとかよくやるんすか?」
「吉岡の場合、キャンプっていうかサバイバルだな。そこは普通にすごい」
梶原が素直に褒める。
「なんか憧れます!」
「俺に憧れるのか! 見る目があるな早川! 師匠と呼んでいいぞ!」
「いつかそう呼ばせていただくかもしれないっす!」
「そろそろ食えそうだ」
約50分かけて、アユの串焼きが完成した。
文句なしに「美味しい奴」の匂いが漂っている。
「食べるよ! 吉岡くん! 食べるよ!?」
「おう」
俺は串を2本取り、1本をユズに「ほらよ」と渡す。
「やったー! いただきまーす!」
「俺もいただきますっと!」
俺とユズが同時にアユへかぶりつく。
「うんめぇ! 塩がねぇのにうんめぇ!」
「美味しー!」
梶原と早川も続けて食べ、「うまっ!」と声を弾ませる。
異世界のダンジョンで食うアユの串焼きは、思い出に残る旨さだった。
◇
「梶原、マジで問題ないんだな?」
「平気だって。額の出血も止まったし、吐き気や目眩もない。大丈夫だ」
「オーケー。なら、ボスを倒しに行こうか!」
食事が終わると、念入りにたき火を消してからボスへ挑むことにした。
ボスの居場所は不明だが、心当たりがある。
林を抜けた先にある緑の丘だ。
いかにも大物がいそうな雰囲気が漂っている。
「ユズ隊員のクールタイムも明けています!」
ユズが敬礼する。
揺れる胸を見てニッコリした俺は、一つうなずいた。
「吉岡隊、移動再開!」
俺が先頭になって林に入る。
その後ろにユズが続き、彼女の両脇を早川と梶原が固める陣形だ。
「魔物どころか動物や昆虫すらいないな」
「たしかに……。なんだか寂しいね」
林の中は完全に静まりかえっていた。
蚊の一匹も飛んでおらず、小動物も見当たらない。
そんなわけで、ザコ戦に巻き込まれることもなく林を抜けた。
「視界の右上に表示されている依頼内容によると、ボスは草冠トロルだ。名前から察するに大物だろう。そこで、事前に作戦を決めておいた」
「作戦!? なんかチームっぽい!」とユズが声を弾ませる。
「ユズ、吉岡の作戦だぞ? 絶対にろくでもないやつだわ」
「でも吉岡先輩めっちゃ強いし、いける気がします!」
「三人とも素晴らしい反応だ。作戦内容は単純だ。まずボスを見かけたら、梶原がユニークスキルで敵の目に風刃を突き刺す。出し惜しみする必要もないし、6本全部使って視界を潰してやれ」
「わかった」
「そのあと、俺、早川、ユズの三人でユズの果実爆弾を投げまくる!」
「三人で爆弾を投げるの!? 面白そう!」
ユズのユニークスキル【ボム・フルーツ】は、爆弾を最大5個まで作れる。
クールタイムは1個目を作ってから10分だ。
本人の自己申告によれば、爆弾は仲間に手渡せるらしい。
だから事前に3個作り、俺たち三人でボスに投げつけるわけだ。
「この時点でボスが死んでいたら任務達成だが、生きていたら追撃だ」
「俺のユニークスキルっすよね!」と早川。
「そうだ。お前のスキルを俺とユズにかけてくれ。その後は全員でたこ殴りだ。ヤバそうなら逃げる!」
「了解っす!」
「待てよ吉岡。早川のスキルはユズじゃなくて俺にかけるべきだろ。俺は双剣だ。槍より射程が短い。素早く敵に潜り込んで切り裂くのに早川のスキルが役立つ」
梶原が不満そうに口を開いた。
「もっともな意見だが、君は双剣で戦う時、腰が引けているからな……。ボスに突っ込めるのか?」
「それは……」
「よし、ユズに決定だ!」
「いえーい! ユズ隊員、期待されてる!」
ユズが嬉しそうに声を弾ませる。
やはり「ユズ隊員」という呼称が気に入っているようだ。
「お? 見えてきたぞ。アレだろ、ボス」
丘の頂上が見えてきたところで、ボスらしき魔物を発見した。
全長2メートル台半ばの人型モンスターだ。
右手に巨大な棍棒を持ち、丘の頂上で仁王立ちしている。
明らかにこちらを見ていた。
「なぁ吉岡、めっちゃ見られてるぞ。風刃で仕掛けても弾かれるんじゃないか?」
梶原が当然の疑問を口にした。




