第17話|配置、完了⑵
「それじゃあ……次は三人の転生先を決めましょう!」
シャナの明るい声が、冷え始めた夜気に響いた。
「俺たちはエリュシオン帝国に行った方がいいだろう。
ルーン王国と敵対していて、ヴェリタスとの情報網も厚い。
それに、その帝国を味方につければ、情勢が動く」
ヴィクターの提案は、軍事的にも政治的にも理に適っていた。
だが、オーロラが即座にそれを制した。
「待って」
静かながらも、否定を許さない重みがあった。
「私としては、三人ともヴェリタス行きの方がいいと思う」
「何故だ?」
「私とヴィクターが”主役側”に入れば、観測者は私たちを生かす方向に補正する」
オーロラは、この世界の法則を逆手に取るように続けた。
「そして、主役の仲間も必然的に保護される。
レイやディランと一緒にいれば、彼らもろとも勝ち筋へ書き換えられる」
シャナに確認の視線を送ると、彼女は愉快そうに肩を揺らした。
「その解釈で合ってるわ。
あなたたちが主役になれば、世界そのものが味方になる。
国際会議の作戦も、自然と上手く回りだすわ。……最高のハッキングね」
ヴィクターは一瞬考え込むように視線を落としたが、やがて得心したように頷いた。
「……なるほどな」
ディランも腕を組み、鼻で笑う。
「……あいつらの絶望顔が見れるなら、俺はそれでいい」
「では、貴方たちもヴェリタスに来るということで」
レイの声には、隠しきれない安堵の色が混じっていた。
ヴィクターは、観念したように肩を竦めてみせる。
「腹は括った。
どうせ逃げ場はないしな。
そうと決まれば、どの役に配置するかだな。
シャノン・ディール、空きはあるか?」
「ええ、選び放題よ」
シャナの即答に、オーロラが小さく手を挙げた。
「じゃあ私はレイの“ペイジ”で」
──ペイジ。
聖王子と共に育つ、公式の学友。
将来、側近として仕える者も多い。
「それはピッタリだな。レイも動きやすくなる」
ヴィクターが頷くと、オーロラは指先で顎に触れながら希望を付け加える。
「あと、魔法の研究に強い家紋の息女がいいな」
『なら、クロスウェル侯爵家の長女なんてどう? 代々、魔塔主を多く輩出している家柄だよ』
ライムの助言に、オーロラはわずかに瞳を細めた。
「いいね。それなら、研究の名目で動けるし、特効薬の開発でも、自然に協力できる」
その声には、冷徹な計算と同時に、微かな高揚が混じっていた。
「じゃあ、俺はオーロラの婚約者ってポジションで」
ヴィクターのあまりにも唐突で自然な申し出に、ディランが即座に噛み付いた。
「待て、お前、何しれっと美味しいポジション取ってんだ」
ディランの指がテーブルを叩く。
平静を装いつつも、その視線は鋭くヴィクターを射抜いていた。
「俺だってレイの──」
口走りかけて、彼はハッと我に返った。
(俺は今、何を言おうとしたんだ……?)
「……私の──なんですか?」
レイの無垢な問いかけに、ディランは咄嗟に目を逸らす。
赤面が夜の闇でも隠しきれないほど広がり、彼は片手で乱暴に顔を覆った。
それを見たヴィクターが、ここぞとばかりに意地の悪い笑みを浮かべる。
「聖王子は生涯独り身だぞ。残念だったな~。ハハハッ!」
「そんなのとっくに知っている……」
ディランは肘をついたまま、絞り出すように答えた。
その悔しげな仕草が、場に奇妙な居心地の悪さを生む。
シャナも何かを察したのか、慌ててフォローを入れた。
「やっぱり配置を変え直しましょう!」
「いいえ。もう決めたことなので」
「そう……?」
レイのきっぱりとした拒絶に、シャナは申し訳なさそうに呟く。
ディランは一瞬だけレイを盗み見たが、すぐに視線を逃がした。
気まずい沈黙を埋めるべく、シャナが勢いよく手を叩いた。
「婚約者がダメなら、側近って選択肢もあるわよ!」
一拍の間。
「……じゃあそれで」
ディランのぶっきらぼうな返事。
「よし!これで全員の配置も決まったわね」
シャナは仕切り直すように全員を見渡し、力強く告げた。
「転生は、明日の朝10時頃。
不調は失敗の元だから、皆ゆっくり休んでね」
それぞれの胸に、期待と、不安と、そして確かな覚悟を抱えたまま、四人は静かにテラスを後にした。
月明かりの下、最後の一枚となった銀色の花弁がハラリと石畳に落ちた。
それと呼応するように、彼らの新たな運命の歯車が、静かに、しかし力強く噛み合い始めていた。
夜だけが、その誓いを見届けていた。




