第47章 選ばれたと思い込む日(ローデリク視点)
最近、すべてが順調だった。
成績は安定して上位。
教授の評価もいい。
取り巻きたちは、以前にも増して機嫌よく擦り寄ってくる。
(……当然だ)
ローデリクは、廊下を歩きながら思う。
努力が結果に結びつく。
それだけの話だ。
それに比べて――
ふと、脳裏に浮かぶ顔があった。
あの、貧乏人。
入学試験で名前を聞いたときは、
正直、目障りだった。
身の程を知らずに、
同じ場所に立とうとする存在。
だが、最近はどうでもいい。
(……哀れだな)
育ちが違う。
血が違う。
スタートラインが違えば、
結果も違って当然だ。
一時的に目立ったとしても、
結局は落ちる。
そういうものだ。
(むしろ――)
(いなくなった方が、学園のためかもしれない)
自分でも驚くほど、
その考えに迷いはなかった。
⸻
ローデリクは、ふと足を止める。
池のほとり。
あの日のことを思い出す。
成績が振るわず、
苛立ちを持て余していたとき――
声をかけてきた、あの上級生。
物腰が柔らかく、
言葉遣いも整っていた。
「君の方が、ずっと筋がいいと思ったよ」
あの一言が、
どれほど胸に心地よかったか。
(殿下の友人、だったな)
そう名乗っていた。
血統も良さそうだった。
立ち居振る舞いにも、品がある。
最初は疑った。
勉強会に来ないか、なんて。
あまりにも都合がよすぎる。
だが――
行ってみれば、違った。
内容は高度で、
前年度の試験傾向まで分析されている。
「こういう問題、また出るよ」
「ここを押さえておけば、
評価は落ちない」
合理的で、
効率的で、
無駄がなかった。
(……俺に合ってる)
そう、思った。
⸻
最近、あの上級生は言っていた。
「今度、もっと上を目指せる会がある」
「本当に“選ばれた人間”だけの集まりだ」
ローデリクは、その言葉を反芻する。
(俺の実力なら、行ってもいい)
(いや、行くべきだ)
周囲の顔が浮かぶ。
取り巻きたち。
信用できる家の出の連中。
「君の周りにも、
見込みのある人がいるだろ?」
「そういう人も、
紹介してほしいんだ」
そう言われたとき、
不快感はなかった。
むしろ――
誇らしかった。
(俺が、選ぶ側か)
そう考えると、
胸が自然と高鳴る。
⸻
池の水面は、静かだった。
歪みも、波紋も見えない。
ローデリクは、踵を返す。
(……とりあえず)
(今日も、勉強会だな)
迷いはない。
疑う理由もない。
順調だ。
すべてが。
――そう、信じられるほどに。
その背中を、
誰かが静かに見送っていたことに、
ローデリクは気づかない。
学園の空気は、今日も穏やかだ。
だがその下で、
選別は、すでに始まっていた。




