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境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


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第41章 遠くで輝く人達

昼下がりの回廊が、ざわめいた。


それは、騒ぎというほど大きなものではない。

だが、確実に空気が変わった。


「……来た」


誰かが、息を飲む。


黒髪の青年が、ゆったりと歩いてくる。


後ろで一つに束ねた髪。

整いすぎているほど端正な顔立ち。

無駄のない所作。


アストリア王家の王子――

カッシウス。


その名を知らぬ学生はいない。


頭脳明晰。

学内の成績は常に上位。

それでいて、決して驕らない。


近くにいるだけで、

自然と背筋が伸びるような存在だった。


その隣を歩くのは、小柄な少女。


柔らかな金色の髪。

可憐な顔立ちに、向日葵のような笑顔。


歩くだけで、

周囲の空気が少し明るくなる。


エイドリア皇族――

第4皇位継承者、フローラ王女。


「……はあ」


ため息が、あちこちから漏れる。


「綺麗……」

「一度でいいから話してみたい」

「近づける気がしないけど……」


憧れ。

畏れ。

遠巻きの好意。


二人の周囲には、自然と人が集まる。

それでも、一定の距離は保たれていた。


近づける者と、

近づいてはいけない者。


無言の線引きが、そこにはあった。



少し離れた場所。


リュシアたちは、その光景を眺めていた。


「相変わらずだね」


フェリクスが、楽しそうに言う。


「歩いてるだけで、あれだ」

「もう一つの講義みたいなもんだな」


「……すごいですね」


リュシアは、淡々とそう言った。


周囲の声。

視線。

ささやき。


それらを、まるで風景の一部のように受け流している。


「気にならないの?」


フェリクスが聞く。


「別に」


答えは短い。


「立場が違うだけです」


カイオンは、そのやり取りに口を挟まなかった。


視線は、すでに別の方向。

次の講義棟へと向いている。


「行こう」


それだけ言って、歩き出す。


「ほんと、興味ないんだな」


フェリクスが肩をすくめる。


「君は?」


「俺は面白いから見る」


即答だった。


「人の視線が、ああやって一斉に向く瞬間」

「嫌いじゃない」


リュシアは、もう一度だけ振り返った。


人に囲まれながら歩く二人。


華やかで、

遠くて、

簡単には届かない存在。


(……世界が違う)


そう思いながらも、

羨望も卑下も浮かばない。


ただ、淡々と。


(私は、学びに来た)


それだけが、確かだった。


回廊のざわめきは、やがて収まる。


殿下たちは先へ進み、

学生たちは、それぞれの場所へ戻っていく。


日常は、続いていく。


だがこの日、

多くの者の心に刻まれた。


「遠くで輝く人たち」がいる、という事実を。


そして――

その光に、近づきたいと願う者もまた、

 静かに生まれていたことを

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