第33章 知は裏切らない
講義室に、緊張が走っていた。
昨日の小テストが、成績に反映されるらしい。
ざわめきの中で、ローデリクは苛立っていた。
(確認程度のはずだろ……)
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教官が淡々と言う。
「理解度に、はっきり差が出た」
一瞬の沈黙。
「特に――
カイオン・アルテリウス」
名を呼ばれ、空気が止まる。
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「君の答案は、暗記ではない」
教官は続けた。
「制度が“なぜ生まれ、なぜ歪んだか”まで書かれていた」
周囲がざわつく。
ローデリクは、思わず手を挙げた。
「……彼は現地を見ていないはずです」
「想像で書いたのでは?」
露骨な悪意だった。
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カイオンは落ち着いて答える。
「見てはいません」
「ですが、記録はあります」
「制度の矛盾は、
数字と報告を並べれば再現できます」
教官が頷いた。
「正解だ」
ローデリクは、言葉を失った。
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前の席で、フェリクスが小さく笑う。
「知識ってさ」
「声を荒げなくても、人を黙らせるよね」
ローデリクは、何も返せず席を立った。
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講義後。
「……よく言えましたね」
リュシアが小声で言う。
「事実を言っただけです」
カイオンはそう答えた。
フェリクスは肩をすくめる。
「それが一番、強いんだよ」
リュシアは、二人を見比べた。
(この人たちと学ぶ意味が、少し分かった気がする)
知は、裏切らない。
逃げなければ。




