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境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


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30/53

幕間 同じ朝、別の場所で

朝。


境界の詰所は、異様なほど静かだった。

夜明けを告げる鐘は聞こえない。

代わりに、乾いた風が砂を転がす音だけがある。


エリアスは、壁にもたれ、腕を組んでいた。

剣は腰にある。

だが、抜く理由がない。


「……待機」


それが、今朝の命令だった。


理由は告げられていない。

期限もない。

ただ、“動くな”とだけ。


(試験は、もう始まっている頃か)


自然と、別の場所を思う。

石造りの講堂。

紙の音。

張りつめた空気。


彼女は、今、そこにいる。


(……遠いな)


距離の話ではない。

立っている場所が、違う。


エリアスは、境界にいる。

いつも、そうだ。


剣を振るえば、結果は出る。

斬れば止まる。

倒せば終わる。


だが今は――

何も斬れない。


情報は来ない。

敵も現れない。

味方の動きも、見えない。


(俺は……何をしてる)


自問して、答えが出ない。


境界で捕らえた男。

神殿で語られた告白。

名前の出ない“上”。


すべてを知ったわけじゃない。

だが、知らなかった頃には戻れない。


(使われる側のままじゃ、いけない)


そう思ったはずだ。

なのに今は、

その“使われる構造”の中で、

静かに立たされている。


足音がした。


振り向くと、詰所の兵が一人、首を振る。


「……まだです」


「そうか」


それだけで会話は終わる。


(知らせが来ない、という知らせ)


エリアスは、空を見上げた。


薄い雲の向こうに、朝日がある。

同じ太陽を、彼女も見ているはずだ。


紙に向かい、考え、選び、

自分の名前で前に進もうとしている。


一方で――

自分は、名もない待機者だ。


(……それでも)


拳を、ゆっくりと開く。


剣を持たない朝があってもいい。

動けない時間があってもいい。


だが。


(次に呼ばれた時)


(俺は、考えて動く)


ただ命じられるのではなく。

ただ従うのでもなく。


境界に立つ者として、

自分の足で、立つために。


遠くで、鐘の音がした気がした。


どこかの街で、

誰かが、未来への一歩を踏み出した合図。


エリアスは、静かに目を閉じる。


同じ朝。

別の場所。


だが、物語は確かに、

同時に進んでいた。

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