表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/26

第22章 王妃のお茶会

第22章 王妃のお茶会


嵐のような数日が過ぎ去ったあと、

王宮には、いつもの静けさが戻っていた。


王宮の奥、陽の入りにくい小さな温室で、

ひっそりと茶会が行われていた。


白い陶器のカップから、かすかに湯気が立ちのぼる。

花の香りと、乾いた書類の匂いが混じる場所だった。


「ずいぶん、顔が変わったわね」


王妃は、微笑みながらそう言った。


向かいに座るリュシアは、一瞬だけ言葉に詰まる。

だが、背筋を正して答えた。


「……多くを見ました」


王妃は、それ以上問い返さなかった。

代わりに、ゆっくりと紅茶を口に運ぶ。



リュシアが幼い頃、

この温室でセリウスと三人で菓子を分け合ったことがある。


王子はいつも先に飽き、

リュシアは最後まで紅茶を飲みきり、

王妃はその様子を、何も言わずに眺めていた。


泣いているときもあった。

叱られた日も、悔しさを隠そうとしていた日も。


王妃は、決して慰めなかった。

ただ、席を外さなかった。


「あなたは、あの頃から変わっていないわ」


王妃は静かに言った。


「“見なかったことにできない”」


リュシアは、思わず視線を伏せた。


「それは、重たい性質よ」


王妃は微笑む。


「でも――

 それを捨てなかったから、ここまで来た」



王妃は、ふと視線を窓の外へ向けた。


「第二王子は、今もエイドリアで学んでいます」


「制度を知り、思想を知り、

 “なぜ国は揺れるのか”を学んでいる」


「あなたも、行きなさい」


それは命令ではなかった。

選択肢を示す声だった。


「力は、剣だけではありません」


「人を救うための力は、

 時に“考え続けること”から生まれる」


王妃は、はっきりと言った。


「あなたには、それができる」



一瞬、沈黙が落ちる。


その沈黙を破ったのは、

紅茶のカップが置かれる小さな音だった。


「……もっとも」


王妃は、わずかに口元を緩める。


「あなたの家族が、

 大人しく送り出すとは思えないけれど」


リュシアは、思わず息を詰めた。


「父も、兄も……」


「ええ。よく知っているわ」


王妃は、少し困ったように笑った。


「昔から、あの家は“守りすぎる”」


「それもまた、あなたが育った理由でしょうね」



茶会は、穏やかに終わった。


王妃は最後に、リュシアを見て言った。


「学びなさい」


「そして、戻ってきなさい」


「世界がどれほど複雑でも、

 人が“選び続けられる”ことを、忘れないために」


リュシアは、深く一礼した。



温室を出ると、

王宮の廊下はいつものように静かだった。


侍女の足音。

遠くで響く鐘の音。


世界は、何事もなかったかのように続いている。


だが――

その夜、リュシアの家では、

まったく別の意味で、嵐が起きようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ