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境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


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第15章 夜明け前の境界

夜明け前の境界は、音がなかった。


風も、人の声も、

すべてが消えたように感じる時間帯。


神殿の警備が最も薄くなり、

街の者たちが眠りにつく刻。


「……来るぞ」


エリアスが、低く告げた。


闇の奥から、荷車の軋む音。

数は――多くない。


「三……いや、四人か」


「いいえ」


隣で、リュシアが即座に訂正する。


「前に囮が二。

 本命は、後ろです」


エリアスが、息を呑む。


「分かるのか?」


「足音の間隔です。

 急いでいない者ほど、後ろにいる」


そのやり取りを、少し離れた位置で聞いていたセリウスが、静かに笑った。


「さすがだね」


「じゃあ――

 前に出ている四人は捨て石だ」


彼は、闇の配置を一瞥しただけで判断する。


「本命は、

 この場を仕切っている“一人”」


「そいつを押さえれば、

 動きは止まる」


エリアスは、喉を鳴らした。


(……判断が、早い)


その時だった。


左右の影が、一斉に動いた。


闇から躍り出たのは、囮とは別の六人。

数は、想定より多い。


だが――


「遅い」


低い声と同時に、

さらに別の影が、闇の奥から現れた。


刃が、閃く。


一人。

二人。


地面に伏せる影が、瞬く間に増えていく。


「……援護!?」


エリアスが驚く。


「はい」


リュシアは、視線を逸らさずに答えた。


「最初から、

 ヴァロだけが動いているとは思っていませんでした」


闇の中から現れたのは、三人。


無駄のない動き。

だが、徹底的に目立たない。


「……レグナ様の、影か」


セリウスが呟く。


「ちゃんと、来てくれてた」


戦いは、短かった。


囮の男たちは逃げることもできず、

本命の一団だけが、後方へ下がろうとした。


その中央にいた男が、動きを止める。


年の頃は、六十前後。

鎧は古いが、手入れは行き届いている。


「……来ると思っていた」


男は、低く言った。


「だが、

 止められるとは思っていなかった」


セリウスは、一歩前に出る。


剣は、抜かない。


「君が、指揮しているな」


男の視線が、鋭くなる。


「理由は三つ」


セリウスは、淡々と続けた。


「部下の配置が、必要最小限だった」

「退路を確保しつつ、誰も先に逃がしていない」

「そして――」


一瞬、間を置く。


「君だけが、

 最後までその場を離れなかった」


沈黙。


それが、答えだった。


「……見事だ」


男は、剣を落とした。


「私が、責任者だ」


ヴァロが、即座に間合いを詰める。


「確保する」


男は、抵抗しなかった。


その横顔には、悔しさよりも、

長い役目を終えた者の静けさがあった。


エリアスは、その姿を見て、胸がざわつく。


(……この人、

 将軍の部下だ)


それも、ただの兵ではない。


「……将軍に、伝えてくれ」


男は、ぽつりと呟いた。


「今回も、

 果たせなかったと」


唇を、噛みしめる。


「それでも――

 国に恥じるつもりはない」


次の瞬間。


男は、顔を上げ、リュシアたちを睨んだ。


「……貴様らは、運が良かっただけだ」


「この国も、

 あの国も」


「正しさなんて、

 都合のいい時にしか使わない」


その言葉には、

悔しさと、怒りと、どうしようもない疲労が滲んでいた。


ヴァロが、低く告げる。


「連行する」


男は、最後に一度だけ振り返った。


夜明けの境界に、

光が差し始めていた。


戦いは、終わった。


だが――

誰も、勝ったとは思っていなかった。


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