↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界に立つ者たち  作者: 麻婆豆腐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/132

第13章 夜明け前、影だけが残る

第13章 夜明け前、影だけが残る

空が、わずかに白み始めていた。


鳥の声はまだない。


境界の街が、

一日の中で最も「判断を失う」時間。


⸻


「……動いた」


最初に気づいたのは、エリアスだった。


倉庫の裏手。

音を殺した足運びで、人影が現れる。


一人、二人――

いや、三……四人。


「運び屋だな」


セリウスが低く言う。


「武装は軽い。

 戦う気はない」


「“通す”だけですね」


リュシアが即座に続けた。


⸻


影の一人が、封印札に触れる。


破らない。

剥がさない。


わずかに位置をずらすだけ。


「……“触れていない”扱いか」


エリアスが息を詰める。


扉が音もなく開き、

箱が一つだけ運び出される。


選別されている。

価値の高いものだけを。


「医療資材だ」


「足りない状態を、

 “維持”するためですね」


リュシアの声は冷静だった。


⸻


次の瞬間。


影は、散った。


合図もなく、

四方へ。


「追うな!」


セリウスの制止が入る。


「今動けば、

 こちらの存在を確定させる」


正しい判断だった。


だが――

悔しさが残る。


⸻


夜明け。


倉庫は、静まり返っていた。


封印札は元の位置。

箱の数も、帳簿通り。


「……何も起きてない」


エリアスが呟く。


「ええ」


リュシアは頷く。


「だからこそ、

 “内部と外部の両方”が関わっています」


「完全に、

 仕組まれた通過です」


⸻


そこへ、足音。


「……ここまでです」


エルマスだった。


一晩中、

倉庫の影に立っていた顔だ。


「神殿としては、

 これ以上は追えません」


「ですが」


一拍置き、続ける。


「責任者として――

 私個人なら、動けます」


エリアスは、思わず彼を見る。


「そこまで……」


「判断を止めた結果が、

 これです」


エルマスの声は静かだった。


「今度は、

 止めません」


⸻


その夜。


宿の裏手。

人目につかない細い通路に、影が落ちた。


「……セリウス殿下」


低く、抑えた声。


エリアスが反射的に身構える。


「誰だ?」


影の中から現れた男は、三十代半ば。

地味な装いだが、立ち姿に隙がない。


男はまず、セリウスにだけ深く一礼した。


「遅くなりました」


「監視を避ける必要がありましたので」


「ご苦労、ヴァロ」


セリウスは短く答える。


そのやり取りに、

エリアスは一瞬、言葉を失った。


(……殿下?)


横を見ると、

リュシアもわずかに視線を逸らしている。


男――ヴァロは、

そこで初めて二人へ向き直った。


深すぎず、浅すぎない礼。


「初めてお目にかかります」


「私はヴァロ」


「セリウス殿下の随行を務めております」


「現在は、

 非公式の補佐役です」


エリアスは、思わずセリウスを見る。


「……え?」


「説明は後で」


セリウスが言った。


「今は、

 情報を聞こう」


⸻


ヴァロは、再びセリウスに向き直る。


態度は、完全に変わる。

王族に対する、完璧な礼節。


「殿下」


「境界の運搬人から、

 断片的な情報を掴みました」


「今月中に一度だけ、

 夜明け前の時間帯に、

 非正規の通行が予定されています」


「神殿の動きが、

 最も鈍る時間とのことです」


空気が、張り詰めた。


「場所は?」


「まだ特定できておりません」


「ただし」


ヴァロは続ける。


「次は、

 聖別倉庫を使わない可能性が高いでしょう」


「監視が集まっていることを、

 察しているのでしょう」


⸻


エリアスが、低く息を吐いた。


「……相当、慣れてるな」


「軍属だった者の動きです」


ヴァロは淡々と答える。


「逃げる判断に、

 迷いがありません」


セリウスは短く頷いた。


「ありがとう」


「無理はしないで」


「承知しております」


ヴァロは即座に一礼する。


「殿下こそ、

 御身を第一に」


その言葉だけは、

補佐役ではなく――

忠臣のものだった。


ヴァロは影に溶ける。


⸻


残された三人。


エリアスが、ゆっくりと口を開いた。


「……説明、いるよな」


セリウスは苦笑する。


「うん」


「たぶん、

 全部話す必要がある」


リュシアは、小さくため息をついた。


「……ええ」


「とても」


夜は深い。


だが、

隠されていた立場と立場が、

同じ場所に並び始めていた。


境界で起きたことは、

もう“偶然”ではない。


そう、誰の目にも分かるほどに。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。