第11章 境界に集うものたち
第11章 境界に集う者たち
翌朝。
境界の街は、いつもより早く目を覚ましていた。
通りに人が多い。
荷を背負った者、馬を連れた者、
顔を伏せて歩く者もいれば、
必要以上に声高に話す者もいる。
「……多いな」
エリアスが率直に言った。
「昨日より、
明らかに人が増えています」
リュシアも周囲を見渡す。
「行商にしては、
動きが早すぎます」
「宿の主人も、
朝から落ち着かなかった」
その言葉に、
エリアスは昨夜の食堂を思い出した。
飯の話しかしなかった男が、
今朝は外を何度も気にしていた。
⸻
通りの角で、
三人は足を止める。
前方に、人だかりができていた。
「何かあったのか?」
エリアスが近づこうとすると、
セリウスがさりげなく腕を伸ばした。
「待って」
「まず、聞こう」
人混みの外側にいた老商人が、
低い声で話している。
「……夜明け前だ」
「神殿の倉庫の方で、
兵装らしきものを見た」
「見間違いじゃないのか?」
「いや、
箱の形が違った」
「食糧でも、
聖具でもない」
「じゃあ……」
言葉は、最後まで出なかった。
出さなくても、
全員が同じものを想像していた。
⸻
リュシアが小さく息を吸う。
「……人が集まり始めるときは」
「必ず、
“何かが動く前”です」
「そういうものなのか?」
「はい」
「学問でも、
政治でも……」
「人は、
結果より先に集まります」
セリウスが、苦笑する。
「怖い言い方するね」
「事実ですから」
⸻
そのとき。
通りの反対側から、
数人の神官が早足で現れた。
先頭に立つのは、
見覚えのある人物。
「……エルマスだ」
エリアスが呟く。
エルマスは、
人だかりを一瞥し、
こちらに気づくと足を向けてきた。
「朝から、
騒がしいですね」
「何かありましたか?」
リュシアが問う。
エルマスは、少しだけ声を落とした。
「正式な発表は、
まだです」
「ですが……」
一瞬、言葉を選ぶ。
「“境界の倉庫”に関する
問い合わせが、
一晩で増えました」
「神殿としては、
看過できない数です」
セリウスが、静かに言った。
「表に出始めた」
「そういうことです」
エルマスは頷いた。
⸻
街の空気が、
じわじわと変わっていく。
噂が、
人から人へと渡る。
不安が、
言葉を伴って膨らむ。
「……止められると思いますか」
エリアスが、思わず聞いた。
エルマスは、即答しなかった。
「止める、というより」
「向き合う段階に来た、
というべきでしょう」
「逃げ場が、
なくなった?」
「責任の所在が、
見え始めた、とも言えます」
その言葉に、
エリアスは畑のことを思い出した。
荒らされていたのに、
誰も判断しなかった場所。
だが今は違う。
ここでは――
人が見ている。
⸻
セリウスが、周囲を見回す。
「……集まるの、
早すぎない?」
「はい」
リュシアも同意する。
「誰かが、
“集めている”」
エルマスの視線が、鋭くなる。
「それが、
偶然でないのなら」
「今日中に、
何かが起きます」
三人は、互いに視線を交わした。
役割は、もう決まっている。
エリアスは人を見る。
リュシアは全体を読む。
セリウスは動きを探る。
境界に、
集う者たち。
それは、
まだ名も持たない事件の始まりだった。




