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第五章:くすぶる残り火
それから、僕らは時々メッセージで連絡を取った。
短い会話だけ。
幸恵の夜勤の愚痴、
僕の結衣の学校の話。
直接会うことは、二度としなかった。
妻に嘘をつくのが怖かったし、
幸恵をこれ以上傷つけたくなかった。
2026年の元日。
家族で初詣に行った帰り道、
僕は一人で安威の土手に寄った。
雪がちらつく中、
不燃花はもう咲いていなかった。
掌を開くと、
あの焦げた匂いが、かすかに残っている気がした。
家に帰ると、結衣が走り寄ってきた。
「お父さん、おかえり!
今日、宿題全部終わらせたで!」
彩花が台所から笑顔で迎えてくれる。
温かい味噌汁の匂いがする。
僕はコートを脱ぎながら思った。
不燃花は、本当に燃えない。
でも、火をつけすぎると、周りを焦がしてしまう。
幸恵への想いは、
胸の奥で静かにくすぶり続けている。
家族への愛と、過去への淡い記憶。
どちらも、僕の人生の一部。
どちらかを消すことはできない。
だから、僕はただ、生きていく。
不燃花のように、形を変えずに、静かに。
時々、焦げた匂いを嗅ぎながら。




