第四章:再会の風
2025年12月。
僕は34歳。
仕事で久しぶりに茨木に戻ってきた。
安威はもう昔の面影がない。
高層マンションが立ち並び、
ショッピングモールができ、
川はコンクリートで固められ、
土手は整備された公園になっていた。
プロジェクトの打ち合わせが終わった夕方、
なぜか足が自然と土手へ向かった。
冷たい風が吹き、街灯が灯り始める頃。
足元に、小さな白い花が咲いているのを見つけた。
不燃花。
もう絶滅したと思っていたのに、
まだここに残っていた。
そっと摘んで、掌に乗せた。
感触はあの時と同じ、少し硬い。
「淳也くん……?」
背後から、懐かしい声。
振り向くと、幸恵が立っていた。
ショートカットの髪に、コート。
顔は大人びていたけど、
笑うと八重歯が見えて、あの頃のままだった。
「幸恵……ほんまに?」
声が震えた。
僕らは近くのベンチに並んで座った。
幸恵は神戸の病院で働く看護師。
独身。
仕事で大阪に来ることが多くて、
今日は休みで散歩していたらしい。
「不燃花、まだ咲いてたんや」
幸恵がポケットから古いハンカチを取り出した。
中には、あの時渡した枯れた花が、
形を崩さずに残っていた。
「ずっと持ってた。
淳也くんの想い、燃えへんかったみたいやね」
僕は息を呑んだ。
「僕……結婚して、娘もおるねん今」
正直に告げた。
幸恵は少し目を伏せて、
でもすぐに優しく笑った。
「知ってたよ。
SNSで偶然見たことあって。
幸せそうな家族写真、素敵やったから……
声かけるか迷ったんやけど」
昔話に花が咲いた。
夏の土手のこと、花火大会のこと、
言えなかった想いのこと。
幸恵も、あの時「好きやで」と言ったことを
後悔していたらしい。
時計を見ると、そろそろ帰らないと。
彩花が夕飯の準備をしているはず。
結衣の冬休みの宿題も見てやらないと。
「また会えるかな」
幸恵が小さな声で聞いた。
僕は答えられなかった。
ただ、頷くだけ。




