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第十三章:決意
診察が終わり、
点滴を打つことになった。
処置室のカーテンが閉められ、
幸恵が針を準備する。
淳也の腕に消毒液の冷たさが広がる。
幸恵は針を刺す前に、
一瞬、淳也の目を見た。
その瞳に、
20年前の土手の夏が、
一瞬だけよぎった。
針が刺さる。
痛みはほとんどなかった。
幸恵はテープを貼りながら、
小さな声で言った。
「淳也くん……
あの不燃花、まだ持ってると思う?」
淳也は驚いて、幸恵を見た。
幸恵はポケットから、
小さいキーホルダーを少しだけ覗かせた。
枯れた花が、
ガラス玉の中で形を保とうとしていた。
「火をつけても燃えへんって、
ほんまやったね」
その言葉に、
淳也の胸が締めつけられた。
幸恵は続けた。
「私、淳也くんの幸せ、
ちゃんと見守ってるよ。
遠くからでええから……
これからも」
声は静かで、
でも、どこか決意を込めた響きがあった。
淳也は、点滴の管を見ながら、
小さく頷いた。
「僕も……幸恵が、
幸せでいてくれること、願ってる」
幸恵は微笑んだ。
八重歯が、ほんの少し見えた。
あの頃と同じ笑顔。
でも、すぐにプロの表情に戻った。
「点滴、30分くらいかかるから。
ゆっくりしててな」
幸恵はカーテンを開けて、
処置室を出ていった。




