お客様を床で寝かせるわけには…
魔王は小さくて窓のない部屋に案内された。掃除道具や荷物があっちこっち置かれていて物置みたいに見えた。
『申し訳ありません。狭くて…』
魔王は住み込み用の部屋に移されることになった。セナが宿の社長さんに魔力電話で宿泊代を払えない客がいると報告したらそうしろと言われたのだ。魔王は部屋の片隅の小さいベッドの上に座った。
『大丈夫。あたしは美味しいもの食べられればこれでいい!』
お金のない魔王が人間界に引き続き滞在するためには不便な部屋ぐらい我慢するしかなかった。でも彼女はまだ住み込みの従業員になったわけではない。次の日社長さんの面接が待っていた。
『今日はたくさん助けてくれてありがとう、セナちゃん。じゃ、お休み!』
魔王は横になって布団を被った。
『出る時ろうそくを消して。』
セナは何も話さず困った表情で立っていた。暫くして彼女は燭台を持ったまま床で横になった。
『え?なにしてるの?』
びっくりした魔王は起き上がった。
『ろうそくを消そうとしていました。』
『そうじゃなくて。どうして床で寝るのよ?』
『実はこちらは私の部屋でございます…』
『え?本当?』
魔王は早々ベッドから出た。
『あたしの部屋はどこ?』
『えっと、こちらになります。』
セナは指で方向を示したり、歩き出したりする代わりにじっとしていた。
『一緒の部屋ってこと?』
『さようでございます。恐れ入りますが、ベッドが一つしかありませんので…』
『じゃ、ベッドも一緒だね。』
『不便でしたら私は床で構いません。』
セナは横になったまま答えた。魔王は彼女の手を握って起こしてやった。
『そんなのダメ!元々君のベッドじゃん。あたしこそ床で構わないから。』
魔王はセナをベッドの方へ押した。
『それでもお客様を床で寝かせるわけにはいきません。』
『じゃ、一緒に寝よう。』
『かしこまりました。幸い枕は二つございます。』
二人は並んでベッドの上で横になった。セナが壁側、魔王は外側だった。ベッドは一人用で背中がくっついてしまった。
『お休み。』
『お休みなさい。』
魔王は懐かしい気持ちになった。小さい頃ユーズと一緒に寝ていたことを思い出した。
ユーズはいつも背中をなでながら子守唄を歌ってくれた。しゃべり続けていた魔王が静かになるとユーズは振り向いて眠った。でも本当は魔王はその時まで寝ていなかった。自分の背中に当たるユーズの腰の暖かさを感じてから、ようやく深く眠り込んだ。
『ユーズはなにしてるかな。』
魔王は小さい声で呟いた。多分怒っているだろう。と彼女は思った。ピーマンを沢山準備して待ってるんじゃないかな。罰を与えるために。
眠る前の空想は長くは続かなかった。いろいろと疲れたのだ。ユーズに背中を当てて眠る時代のようにセナに背中を当てて眠り込もうとしていた彼女は。
ドカッ!
どうしてかベッドの下に落ちてしまった。
『えっ、なに…?』
魔王は眠りかけてヘロヘロしながら起き上がった。魔族は暗闇の中で目が効く。彼女はベッド一面に大の字に寝ているセナを見た。魔王はセナに蹴られて落ちてしまったのだ。
『あの…』
魔王はセナの手と足を片方に押しのけてまたベッドに上がろうとした。でもセナは再びすごい勢いで手足を広げ、ベッドを占領した。
『お客様を床で寝かせるわけにはいかないと言ったくせに酷い。』
魔王は仕方なく床の上で横になった。硬くて冷たかった。
『枕だけでも使おう。』
彼女はまた起きてベッドで自分の枕を持ち上げようとした。しかし、いつの間に姿勢を変えたセナは魔王の枕を抱いて離さなかった。
魔王は枕もせず寝るしかなかった。その晩、彼女はあまり眠れなかった。そのまま面接の日が明けた。
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