エルフの誘いとイチゴケーキ
魔王は古木の一軒家についた。
「え…」
その家は巨大な木自体が家になっていて、木の幹に玄関ドアがあった。魔王は上を見上げた。千年もの間、ここを見守ってきたかのような巨木が枝で空を覆っていた。
「不思議な家…」
魔王はドアの横についているベルを押した。つづいて容器に入ったオムライスを取り出し、ドアの前においた。
「よかった!まだ爆発してない!」
オムレツはきれいな形を保ったまま美味しい匂いを漂わせていた。魔王は満面の笑顔を浮かべてカバンを閉めた。
ここまで来る間、何回危ない目に遭ったことか。猛スピードで走る馬車にぶつかりそうになったり、石に躓いて転びそうになったり、子供たちが蹴ったボールに当たりそうになったり…
「町中が吹き飛んでしまうところだった。」
勿論、そんなことは起こるはずがなかった。
魔王は振り向き、うたたねの宿に戻ろうとした。その時、ドアの下の隙間から一枚の紙がひらひらと飛び出てきた。そこには、
『すみませんが、部屋までお届けできますか?』
と書かれていた。魔王が戸惑ってじっとしていると、もう一枚の紙が出された。
『ドアのロックは解いておきました。』
魔王は木の幹の玄関ドアのノブを回してみた。紙に書かれているとおり、ドアがすんなりと開いた。
魔王は置いておいたオムライスを手に取り、玄関に足を踏み入れた。室内は木の中だとは信じられないほど広かった。幹の内部全体が空っぽだったのだ。円筒形の空間の中心には螺旋階段が上へと繋がっていた。
「頼もう!」
と魔王は礼儀正しく(?)叫んだ。魔界では他の人の家に訪れる時、こんな風に訪問を知らせていたのだ。
迎えにくる人も、答える声もなかった。暫くすると、上から一匹の鳩が舞い降りてきて魔王の方に折り畳んだメモを投げた。
「ふん…?」
魔王はメモを拾って広げた。
『二階へどうぞ。』
階段の上を見上げた。空まで届きそうな階段が永遠に渦巻いていた。
「よし!」
魔王は気合いを入れ、カバンのストラップをぎゅっと握りしめた。そしてすごい勢いで階段をタッタッタッと駆け上がった。
パタパタ!
メモを投げた鳩が魔王の肩にちょこんと止まった。
「鳩ちゃん、疲れた?」
鳩は首を傾げた。
「ぷるっぽ!」
「もうすぐだからちゃんと捕まえてて!」
魔王は明るい表情で速度を上げた。
階段を上りきるのに10分も掛かった。二階というメモに偽りはなかったが、一階からあまりにも離れていた。上る間オムライスが爆発しないよう神経を使い過ぎて気疲れしてしまった。
「到着…!」
魔王はため息をつきながら呟いた。すると、肩に乗っていた鳩がパタパタと飛び立ち、目の前のドアについている止まり木に止まった。
「ぷるっぽ!」
鳩はくちばしでノックをした。
「はいー!」
中から朗々な声がすると、すぐドアが開いた。緩やかに波打つボリュームのある髪のエルフが姿を現した。
「お疲れさまでした!」
魔王は両手を膝についたまま顔を上げた。魔王の目の下には酷いクマができていた。体力的には余裕だったが、精神的にはすり減ってしまったのだ。
「へえっ?!まさかここまで歩いてきましたか?」
魔王は頷いた。
「大変!魔力エレベーターを使えばよかったのに…」
エルフはそう言って、階段の手すりの親柱に手を当てた。すると、螺旋階段の中心に下の方へと流れる光の筋が現れた。
「一階にも同じような装置があったはずなのですが…」
「そんな…!」
魔王はまたため息をついた。
「あはは…もしよかったら休んで行きませんか?せっかくここまで頑張って上ってきてくださったのに、申し訳ないのもありますし…」
「でも仕事が…」
「忙しいのですか?」
よく考えてみれば宿に帰ってもとくにすることはなかった。
「そういうわけじゃないけど…」
「じゃ、遠慮せずお入りください!」
エルフは外に出て魔王の背中を強引に押した。
「お茶やイチゴケーキもありますから、ゆっくり休んで行ってください!」
「イチゴケーキ?」
困っていた魔王の表情が一転し、目が輝き始めた。




