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引きこもり探偵と動かぬ証拠

「何だ、こりゃ…」


二人の冒険者は戸惑った表情を見せた。


「ユウちゃん、どういう事かしら?」


社長がオーク樽に向けて尋ねると、


「ゆ、ユリアさんが犯人じゃないってことを証明できます……!」


と答えが戻ってきた。


「聞いてみよう。」


社長は席についた。

オーク樽は立ち上がり、上の丸い板の部分が開いた。そこから目をぎゅっと瞑ったユウが首を出した。レイは意外だと言わんばかりに少し眉を上げた。


「三人以上集まっているよ。」

「め、目は開けませんので……耐えてみます……」


ユウは身を震わせながらやっと答えた。


「そう。」


レイは軽く頷いた。


「お前は夜中に掃除していた…」

「そんな所に隠れていたのか?」


二人の冒険者はユウに詰め寄った。


「まさか、共犯者?」

「確かにこの泥棒女と一緒にいたぞ。」


ユウは誰とも目を合わさず首を振った。


「私も、ユリアさんも犯人じゃありません……」

「ふざけたことを!」


ユウは握っていたリモコンのボタンを押した。するとオーク樽の上に光で出来た画面が現れた。


「監視魔法じゃん!」


魔王はユウの部屋で見た複数の画面を思い出した。それは宿のあっちこっちを覗けるものだった。今の画面に映っているのは二階の廊下。


「監視だと?」

星黄石(せいこうせき)を盗むために俺らを見張っていたとでも言うのか!」


監視という言葉に反応した冒険者たちはいきり立った。


「違うでしょ?その子が犯人じゃないということを証明できるって言ったし。」


レイが二人の冒険者を落ち着かせた。


「は!見せてみろよ!」

「じ、事件発生時間の現場の録画です………」

「録画?」

「魔法で撮った場面を記録したものです……」


ユウはリモコンのプレイボタンを押した。画面の中の魔王とユウが動き始めた。彼女らは雑巾でドアを拭いていた。暫くすると、冒険者たちが隣の部屋から出て来た。


「俺らだぞ!」

「これは確か、狩りに出掛ける時か。」


みんなが画面に集中するようになったようでユウは大樽の中に潜り、蓋を閉めた。狭い空間に一人になったからか、不思議なことに彼女の体の震えが止まった。


「ふ……死ぬかと思った……」


深呼吸をしたユウは樽の中にコントロール用の画面をつけ、再生速度を調整した。画面の中の人物たちの動きが速くなった。魔王が気を失ったユウを背負って階段を上がった。冒険者たちが戻るまで二階には誰も下りて来なかった。

ロングヘアの冒険者は魔王を見下ろした。


「こいつ、うちの部屋に潜入していない。」


坊主頭の冒険者はまだ信じられないというように叫んだ。


「窓から入って来たかも知れないじゃないか!」


その声を聞いたユウはすぐに画面を変え、窓側から撮った場面を見せた。窓から侵入するものはいなかった。

それを確認してロングヘアの冒険者は魔王の胸倉を放した。


「す、すまない。君が星黄石(せいこうせき)を持っていたからつい…」

「謝るなよ!こいつら魔法使いだろう?ドアと窓を通らずに部屋に潜入するぐらいいくらでもできる!」


坊主頭は疑い続けた。


「できなくはないけどしてないもん!」

「言ったよな!できるって!」


ユウは場面を二階の廊下に移し、映像を巻き戻した。そして冒険者たちが部屋から出るところで停止し、二人の足元を拡大した。そこにはドアが開いた隙に部屋に入る一匹のハムスターがいた。


「あたしが見たネズミ!」


魔王が画面を指さした。


「あれはハムスターだけど。」


レイが突っ込んだ。


「え?ハムスターってネズミと違うの?」

「違う。」


ユウはオーク樽の外のみんなに次々とハムスターの移動経路を見せた。冒険者たちが戻った時脱出する姿。階段の前で魔王と出くわす姿。廊下を走る姿。通気口に逃げるために星黄石(せいこうせき)を吐く姿まで。


「本当にハムスターの仕業だったとは…」

「だから、あたしが言ったじゃん!」

「申し訳ありません!」


二人の冒険者は魔王に深く首を下げた。


「誤解が解けたならいいよ!」

「マオウノ様、私も申し訳ありません。」

「え?セナちゃんはどうして?」

「マオウノ様があんなことをする訳ないと思いつつも完全に信じられなかったことへのお詫びでございます。」

「大丈夫だってば。」


魔王は歯を見せながら微笑んだ。


「ハムスターがまだ持っている星黄石(せいこうせき)はどう回収すればいいんだろう…」

「まいったな…」


事件が解決されても冒険者たちの顔色は暗かった。


星黄石(せいこうせき)の損失分は私が弁償しましょう。うちの宿で起きた事故ですので。」


社長が提案した。


「ありがたいけど…」

「そこまでして貰うわけには…」


その時だった。何かが窓を叩く音がした。社長は椅子を回転させて後ろを向いた。窓の外では一匹の猫がガラスを掻いていた。


「この猫は何かしら?」


魔王は窓の外の猫の正体に気づいて社長に言った。


「ドアを開けて!あたしが作ったものだから。」


社長は魔王の頼み通りにした。猫はすぐ社長の机の上へ飛び跳ねた。猫の口には頬を膨らませているハムスターが咥えられていた。

魔王は猫に近づいて撫でてあげた。そしてハムスターを取りあげた。すると、猫は雑巾に変わって床に崩れ落ちた。


「ほら!犯人を捕まえたよ!」


魔王はもぞもぞしているハムスターを冒険者たちの前に突き出した。もう片手は腰にあて、誇らしそうな表情をした。

坊主頭の冒険者は魔王からハムスターを受け取って頬袋を押してみた。黄色い粒がハムスターの口から出てきた。


「本当だ!この中に星黄石(せいこうせき)が入っている!」


冒険者たちはハムスターの口の中から星黄石(せいこうせき)を一つも残らず取り出した。


「31、32…数が合っている。星黄石(せいこうせき)を全部取り戻したぞ!」


ロングヘアの冒険者が嬉しそうに言った。


「ありがとう!全部君のお陰だ。」

「いつかうちのギルドに遊びに来いよ。恩返しするからな。」

「ふふん、いいだろう!もっと褒めちぎりなさいよ!」


魔王は胸倉を掴まれたことは全部忘れたように胸を張った。


「よ、よかったですね、ユリアさん……!」


オーク樽の中からユウの声が聞こえて来た。魔王は礼を言いたくて樽の蓋を開けた。


「えっ……?」

「ユウちゃん!ありがとう!」


魔王はユウを樽から抜き出してぎゅっと抱きしめた。ユウは目を開けたまま三人以上がいる空間に引きずり出されてすぐ気を失ってしまった。


「え?ユウちゃん?しっかり!」


魔王はユウの肩を揺らして起こそうとした。それを見た社長は手を口元に当てて微笑んだ。


「じゃ、今日はもう解散することにしようかしら。ユウちゃんはセナちゃんが部屋まで運んであげて。」

「かしこまりました。」


みんなが社長室を出たので魔王もついていこうとした。だが、


「ユリアちゃんは残ってちょうだい。話があるの。」


と社長が止めた。

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