泥棒扱いの魔王とオーク樽
「え?泥棒がいるの?」
魔王は周りを見回した。机に肘をついて手を組んでいる社長。唖然として立っているセナ。そして冷たい表情で腕を組んでいるレイ。順に視線を移し、目を大きく開けた。
「もしかしてレイちゃん?」
「どうして私よ?」
「社長とセナちゃんはそんなことしなさそうだから。」
レイは答えずため息をついた。二人の冒険者は魔王に怒鳴った。
「お前が泥棒だろう!」
「ずっと俺らの部屋の前でうろついているのを見たぞ!」
セナは魔王をかばってくれた。
「マオウノ様はそんな行動をとるような方ではありません。」
魔王も心外だと言うように腕をピンと伸ばし、頬を膨らませた。
「そうだ、そうだ!あたし、泥棒なんかしないもん!」
「じゃ、そんな夜中まで何をしていた!」
今回もセナは魔王の代わりに答えてくれた。
「除霊儀式の後片付けをなさっていました。」
魔王は片手を横にさっと広げ、もう片方の手は胸に当てた。
「あたしのお陰で宿が安全になったんだ!」
と自慢そうに叫ぶ時、彼女のポケットからチャラっという音がして黄色い粒が飛び出た。すぐ傍にいたセナがそれを拾った。指先で摘んだまま目の高さまで掲げ、まじまじと見つめた。
「これって…」
冒険者たちの中、坊主頭をした人がセナの手から粒を奪い取った。
「あっ、」
セナは驚いて一歩ぐらい下がった。
「星黄石…」
黄色い粒を確認して坊主頭の冒険者が呟いた。
星黄石は星ウサギの額に埋まっている黄色い石のことだ。磨いたら黄金に虹がかかったような神秘的な光を発する美しい宝石になる。星ウサギがシジャック辺りの野原でしか狩れないので高値で売れる物だった。
「やっぱりこいつか!」
ロングヘアをしたもう一人の冒険者は魔王のポケットを漁った。
「落ち着いてください…!」
セナはロングヘアの冒険者を止めようとした。だが、彼が魔王のポケットから一握りほどの星黄石を掴み出したので固まった。
「見ろよ!こいつが泥棒だという証だぞ!」
ロングヘアの冒険者は社長に向かって星黄石を握った拳を突き出した。社長は冷静さを失わず魔王に問った。
「ユリアちゃん、あれはどうやって手に入れた物かしら。」
「廊下で拾った。」
「嘘つくな!部屋に忍び込んだだろう!」
ロングヘアの冒険者が魔王の胸倉を掴んだ。
「ヒイッ!本当だもん!ネズミが吐き出したもん!」
魔王は必死に自分を弁護した。でも全然通用しなかった。
「でたらめ言いやがって。残りはどこに隠した!」
「だからネズミが…」
「この畜生が!」
ロングヘアの冒険者は胸倉を掴んだ手に一層力を入れた。魔王はセナの方を見た。いつも魔王の味方になってくれたセナが目をそらした。魔王のポケットから出た明らかな証拠がセナを戸惑わせたのだ。
「え…」
坊主頭の冒険者は社長の前に近づき、机を拳で叩いた。
「おい。あの従業員、盗んだものを吐く気はなさそうじゃないか。この件の損失は宿から弁償してもらうぞ。そうしてくれなきゃギルドに報告するしかない。」
うたたねの宿の主な客は冒険者。ギルドからの信頼を失うと大きな打撃になりえる。勿論シジャックには数多くのギルドがあるが、その間の情報共有が活発になっている。泥棒事件、特に店員がしでかした盗み事件は全ギルドからのボイコットを招く可能性もある。
社長は立ち上がり、冒険者たちに深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。この度の失礼は…」
魔王は『濡れ衣だ!』と叫びたかった。しかし、セナまで信じてくれない状態で抗弁する自信がなかった。その時だった。
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
社長室の中のみんなは大声がした方向に振り向いた。
「ユリアさんは犯人じゃありません……!」
その声はオーク樽から聞こえた。誰もが首を傾げている中、オーク樽はいきなり倒れ部屋の真ん中に転がって来た。




