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第3型幽霊は饅頭がお好き?

夜のカウンターでは灯が不気味に点滅していた。魔王はロビーの入り口の四つの角に聖水を吹きかけた。


「よし、これで幽霊を逃がすことはないよ!」

「恐れ入りますが、このマスクはどうしてつけるのですか?」


手燭を持ったセナは自分の顔のマスクをつけ直して聞いた。マスクは勿論、手袋までつけた魔王は真剣に答えた。


「純度の高い聖水に当たるとやけどするかも知れないから!」

「さようでございますか?」


セナは首を傾げたがそれ以上は尋ねなかった。


「次行こう!」

「かしこまりました。」


二人はペンキのようなものが入った缶を一つずつ持ち上げ、階段を上がった。

第三型の幽霊の退治は他の幽霊とは違う。第三型は知性があるため、身の危険を感じると外へと脱出することも少なくない。逃げた幽霊は必ず自分が執着する家に帰って来るので、逃がさず除霊することが大事なのだ。


「窓には吹きかけなくてもよろしいでしょうか?」

「うん!どうせ人の出入り口からしか出られないから!」


逃げ道を塞いだら次することは部屋から誘い出すこと。


「幽霊を誘い出す印をつける!」


最上階についたら魔王は太いブラシを取り出した。そして持ってきた缶に浸し、その中の液体を目の前のドアに星の形で塗った。


「水に溶いた小麦粉をドアに…?」

「うん。魔法陣の効力が部屋の隅々まで届くようにしてくれるから。もし人に取り憑いていても効果があるよ。」

「なるほど。」


セナもブラシを取り出した。


「私は左の方を担当します。」

「あたしは右!」


二人は区域を分けて最上階から地下の倉庫までドアごとにその液体を塗って行った。そしてまたロビーで集合した。


「よし、これですべてのドアに印はつけたよ!」

「お疲れ様でした。いよいよ本番でございますね。」

「うん!魔法陣を描くから材料の準備をお願い。」

「かしこまりました。」


魔王は水に溶いた小麦粉で餌づくりの魔法陣を描いた。セナは昼間に作っておいた饅頭を蒸し目皿に並べ、浅く水を張った鍋に入れた。


「饅頭が幽霊をおびき寄せる餌になるとは存じませんでした。幽霊も美味しいものがお好きなんでしょうか。」

「第三型の幽霊は人の頭に取り憑くから。肉の入った包みを人の頭だと錯覚させるの。」


魔法陣を完成させた魔王は鍋の中に聖水を一滴落とし、蓋をした。すると、鍋が空中に浮かび、魔法陣の中心に移動した。


「魔法ってとても不思議です。」

「でしょ?餌に火が通ったら幽霊が出るはずよ!次は呼び寄せた幽霊に聖水を吹きかけるだけ。」

「火ですか?ここで?」


魔王は答えず呪文を唱えた。


「こい!」


一瞬、魔法陣に沿って炎が立ち上がった。


「えっ!」


セナがビクッとした。


「ごめん、セナちゃん。びっくりしたよね、いきなり火が上がって…」

「いいえ、火じゃなくてその向こうに…」


セナが指した所をよく見ると人のシルエットが見えた。


「あれって、幽霊でしょうか?」

「分からない。こんなに早く出る訳ないんだけど…」


炎と共に揺らいでいたそれは二人が話している間に突然消えてしまった。


「見えなくなりました。」


二人は緊張した。でも時間が経ってもシルエットがまた現れることはなかった。


「見間違えたのかな。」

「そう思われます。それより、宿に火が移る恐れがあるのでは…」

「大丈夫!餌が完成したらすぐ消えるから。」


気を抜いていた二人の後ろから突如冷たい声がした。


「また君ね。」


魔王は振り向いた。そこには例の黒髪ストレートの少女がいた。


「ヒイイッ!出た!」


魔王は焦って聖水を少女に吹きかけた。少女はびくともせず魔王をじっと睨んでいた。


「え?どうして効かない?」

「マオウノ様、その方は…!」


セナは何か言おうとしたが、魔王は構わず聖水を乱射した。


「もう終わり?」


少女は眉をひそめ、素早い手つきで魔王の手から聖水を奪った。そして、


「ヒイイッ!」


と悲鳴をあげる魔王の顔に聖水をシュッ、お見舞いしてやった。

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