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あんた、本物だね!

『そうだよ!あたしは魔王だよ!』


魔王は戸惑うどころか誇らしそうに答えた。人間界の誰も自分が魔王だということを信じてくれなくて寂しかったのだ。


『一目で分かったわ!その服装から魔王の権威と恐ろしさが伝わってくる!』


魔王は一層嬉しくなった。


『綺麗でしょ?』

『素敵よ!魔王の服その物!』


女性は魔王に近づいて服装をまじまじと見た。


『歴史書によれば、 戦場の魔王はいつも真っ白なジュストコールを着ていたという。そこに真っ赤なケープレットフードを纏い、胸には赤いジャボとクラバット、手首にはレースのカフスをつけていて、指示を出しながら手を振る時には血が波打つように見えたって。あんたの服、歴史書から飛び出して来たようだわ!』


話を盛り上げていく女性は魔王の服をあっちこっちさわり始めた。


『下に白いスカートを履いた理由はなに?歴史上、純白のキュロットだと記されているけど。まあ、再現も重要だけど何より大事なのは自分なりの解釈か?』


魔王にはまくし立てる女性を止めようがなかった。


『責めているわけじゃないよ。このスカートとても似合ってるから。伝説のキュロットみたいに赤いレースもたっぷりついているし、可愛らしさを強調したかったのならありだね。ストッキングの選択がちょっと難しかったでしょう?本物が白だったか赤だったかあいまいだから。でも、絶えず血で染まっていたという記録はあるから、赤で正解だと思うわ!』


女性は魔王のストッキングを伸ばして離した。


『ヒッ!』


ストッキングのゴムに打たれた魔王は痛そうな声を出した。


『あっ、ごめんごめん。かわいい服を見たらたまらなくて…こうだからいつもだらしないと言われるんだよ…とにかく、あんた誰だっけ?』

『魔王だって。』

『それは知ってるよ。魔王のコスチューム着てるから。魔王の誰だっけ?』

『魔王のユリアだよ!』

『マオウノ・ユリア?魔王のマオウノ・ユリア…』


女性は何か思い出そうとするように手を顎に当てて眉をひそめた。暫くして、彼女はポンと手を打った。


『ああ、フレイヤが言ってたその子ね?秋祭りの。あんた本当に日常的に祭りのコスチューム着るわね?』

『コスチューム?』

『今着てる魔王の服のこと。』

『だって、あたし魔王だもん。』

『あんた本物だね!』


女性は両手で魔王の両手を掴んだ。魔王はそれがいやではなかった。

魔王が魔王であることを信じて貰えないのは人間界だけでのことじゃなかった。魔界でも魔王を初めて見た魔族は彼女を無視した。角が小さいから。ただの小娘にしか見えないから。無視されるたびにユーズが力で魔王の権威を示してくれた。だが、今ユーズはいない。それなのに女性は魔王を本物だと認めてくれたのだ。


『本物…』

『私あんたみたいな本物を待っていたわ。ほかに必要なコスチュームがあればいつでも言って。作ってあげるから。』

『うん!』


魔王は服にはあんまり興味がなかったが、認められたことが嬉しくて一応肯定した。


『そう言えばあんた、今日はなんの用?』


その時だった。


『ママ!』


と叫びながらリーフとフレイヤが部屋に入って来た。二人は魔王を見て立ち止った。


『ユリアおねえちゃんママといっしょにいたの?』

『鬼なのにどうしておいかけてこない?』


鬼という言葉に魔王はまたいらっとした。あたしは鬼なんかじゃない!と怒ろうとする所だった。女性、つまり、リーフとフレイヤの母親がその先にこう言った。


『このおねえちゃんは鬼じゃなくて魔王だから。それも本物の。』


魔王は感激した。


『でも鬼ごっこしているから!』


文句を言うリーフに兄妹の母は言った。


『鬼ごっこしていたわね。でもお昼だからご飯にしよう。』

『でもママ、ひるごはんはもうたべたよ。』


フレイヤが言ったら母はびっくりした。


『えっ?いつ?』

『ユリアおねえちゃんがセナおねえちゃんのりょうりもってきたとき!』


母は魔王を振り向いた。


『セナさんの料理の配達今日だったんだ!』


と叫んでまた子供たちの方を見た。


『全部食べた?』

『うん!』

『おいしかったよ。』

『私も食べたかったのに。』

『こんどたべよう!』

『仕方ないわね。じゃ、引き続き遊ぼうか?』

『ママはおなかすいてない?』

『大丈夫よ!今回はかくれんぼしよう。鬼は私。百まで数えて探すからね。』


母の話が終わった途端二人の子供は部屋から駆け出した。


『ごめんね。迷惑かけて。子供と遊んで疲れたでしょう。配達もしてくれたのに。』

『大丈夫!あたしもご飯一緒に食べたもん。』

『よかったね。セナさんにはありがたい気持ちばかりだわ。いつもうちのフレイヤとリーフの面倒を見てくれるから。本当のきょうだいだからと言っても偉いよね。でも、セナさんにそろそろ自分のために生きてほしいと思うの…』


屋敷の正門を出ながら、魔王はふと疑問に思った。本当のきょうだいなのに、リーフとフレイヤはこんなに贅沢な所に住んでいて、どうしてセナは物置みたいな所で暮らしているんだろう。

お読みいただきありがとうございます。

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