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あんた、魔王でしょ?

廊下の両壁には数え切れないほどのドアがあった。リーフは右側のドアの一つに、フレイヤは左側のドアの一つに入った。鬼呼ばわりしたのはフレイヤだったので、魔王はその子を追った。

魔王はフレイヤをすぐ捕まえられると思った。その子は幼く、魔王はかけっこに自信があったからだ。


『待て!』


と叫びながらドアを開けた途端、魔王は腰を抜かした。


『ヒィィッ!』


部屋の中には勇者が待ち伏せしていた。鎧を身につけた彼は聖剣を高く持ち上げ、魔王に向けて振り回した。彼女は反射的に両腕をあげて攻撃を防ごうとした。聖なる光に覆われた彼女は思った。

そういえば子供に近づくのは危険だった。勇者がいつも見守っているから。帝王学の大事な教えを忘れるなんて。油断してしまった。人間の子と馴れ合ってはいけなかった。

魔王は自分の愚かな行動を後悔しながら目をぎゅっとつむった。彼女は聖剣に切られ、倒れてしまっ…たりはしなかった。


『え?』


何も起こらなかった。魔王はこわごわと目を開けてみた。前には再び剣を振ろうとする勇者がいた。


『ひっ!』


今回こそ魔王の首は切り落とされ…なかった。よく見ると、魔王の目の前にあったのは天井から床まで垂れ下がった巨大な旗だった。そこに勇者が描かれていたのだ。その絵には魔法が掛けられていて、勇者が剣を振る場面を何回も繰り返し再現していた。


『なんでこんな絵を描くんだろう。怖いじゃん。』


魔王は地団駄を踏んだ。


『わざとこの部屋におびき寄せたんだね。』


彼女は一層悔しくなって邪魔な旗を回って走り出した。展示されている鎧や兜などを後にして反対側のドアから部屋を出た。遠くにまた隣の部屋に入ろうとするフレイヤが見えた。魔王と目が合ったその子はキャッキャ笑いながらドアを閉じた。


『こらっ!』


魔王はムカついて追撃した。今回入った所は書庫だった。壁のような巨大な本棚が、奥に向かって二列にずらりと並んで立っていた。その間を走るフレイヤは五つ目の棚の通路で右に曲がった。

魔王は追いかけた。でもフレイヤが消えた通路でその子は見えなかった。魔王はその通路の果てまで行ってみたが、やっぱり誰もいなかった。


『え?』


魔王は戸惑って周囲を見回した。


『ユリアおねえちゃんこっちだよ!』


後ろからフレイヤの声がした。来た道に戻ってみたがその子は見えなかった。


『どこへ行っちゃったんだろう。』


魔王は書庫を走り回った。でもフレイヤはやっぱり見当たらなかった。

実はフレイヤは最初に曲がったその通路の本棚の一番下に隠れていた。何回も自分を見つけられず過ぎていく魔王の足を見ながら、声を抑えて笑っていた。

フレイヤは魔王の足が三回目に過ぎた時、棚から出て入って来たドアの反対側にあるドアを通じ、廊下に出た。

ガチャ、

と音がして魔王はフレイヤが書庫を出たということに気づいた。でも彼女はフレイヤが出たドアじゃなく、入って来たドアから出てしまった。


『もう!』


フレイヤを見失った魔王は色んな絵が掛けられている長い廊下を通っていた。ドアを発見するたびにチェックしてみたが、どこでもリーフとフレイヤは見つからなかった。二人を捕まえようとする心はもう折れて、彼女はただ両側にある絵をみながら歩いた。


『あっ。』


魔王は足を止めた。目を引く絵があったのだ。それはリーフ、フレイヤ兄妹と二人の両親が描かれている絵だった。


『セナがいない。』


魔王は首を傾げた。シグリッド一家の絵をじっと見ていた魔王の耳にカタカタと歯車が回るような音が聞こえてきた。すぐそばにあるドアから漏れていた。魔王はそのドアに耳を澄ませた。小さく、歌声まで聞こえた。子供たちかも知れない。魔王である自分をからかって楽し気に歌を歌っているなんて!彼女はドアを蹴り開けた。


『もう逃がさん!』


部屋の中にはいろんな衣装を着たマネキンが並べられ、色とりどりの布が蜘蛛の糸のように掛けられていて雑然としていた。その真ん中に足踏みミシンを回している一人の女性がいた。ドアが開く音で振り返った女性の顔は家族の絵の中の兄妹の母親とそっくりだった。彼女は勝手に入って来た魔王を見た途端叫んだ。


『あんた、魔王でしょ?』

お読みいただきありがとうございます。

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