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食堂の権力者

『わたし、ピーマンはたべたくない!』


魔王はフレイヤの発言にびっくりした。食堂には沈黙が走った。魔王は緊張してメイド長の方に振り向いた。フレイヤを見ながらメガネを光らせる様子が見えた。

メイド長はメガネをかけ直した。それが合図だったのかフレイヤの後ろで待機していたフットマンが彼女に近づいた。フレイヤに何するつもりなの!と魔王は叫びたかったが、緊張で声が出なかった。

魔王も何回もユーズに逆らおうとしたが、いつも結果はさんざんだった。彼女は次起こることが恐ろしくて目を閉じてしまった。

フットマンは手を伸ばして…トングでフレイヤの皿のピーマンを取り除いた。


『え?』


暫くしてこわごわ目を開けた魔王は、それで終わり?と思った。フットマンはそのまま下がろうとしていた。彼女は再びメイド長の様子を窺った。メイド長はまだ食卓の方をじっと見ていた。


『まって。』


フレイヤはフットマンを呼び止めた。


『わたしセナおねえちゃんがつくってくれたりょうりからたべたい。』


そんなことできる訳ないじゃん!魔王城では皿に置かれたものから食べる決まりだった。魔王がいつも食いたいものしか食べないからユーズが作った規則だった。

フットマンはフレイヤの望み通りグラタンを取り分けてくれた。魔王はもう一回後ろを見た。メイド長はフレイヤには適えないというように目をそらした。食堂での権力戦でフレイヤが勝ったのだ。


『うわあ!』


魔王はフレイヤを見直した。彼女の目にその子はもうただのちびじゃなかった。魔王がフレイヤの勝利に感動している時、メイド長は思っていた。あの方はどうしてちょくちょくこっちを見るんだろうと。


『ユリアおねえちゃんにもグラタンあげて。』


フレイヤの一言で魔王の後ろのフットマンも動いた。彼はグラタンを取り分けた後、こう聞いて来た。


『ほかに必要なものはありませんか?』


これは機会じゃん!ピーマンを退治できる機会!と魔王は思った。でもこの食堂の権力者はフレイヤのみ。あの子に許されたとして自分にも許されるとは限れなかった。

返事を貰えなかったフットマンは元の位置へ戻ろうとした。時間がない。この機会を見逃したら、後ろのフットマンを呼ぶ勇気が出せそうになかった。メイド長が見張っているから。

その時、一行の帝王学の教えが彼女の脳裏をよぎった。「権力者というのはその存在だけで味方に権利を与えられる者。」


『あの…』


魔王は自分がフレイヤの味方であることを信じてみることに決めた。


『ピーマン、抜いてくれない…?』

『かしこまりました。』


緊張する間もなく、フットマンは実に優雅な動きでピーマンを排除してくれた。


『フレイヤ、ありがとう!』


魔王は心を込めて礼を言った。フレイヤは無邪気に答えた。


『やっぱりおねえちゃんもグラタンがたべたかったね。』


魔王はようやく本格的に食事を始めた。皿の上のグラタンを一口で食べ、ローストビーフ二枚を一気に口に運んだ。その肉からは炎の風味と血の香りがした。それはいわば権力の味だった。

食事が終わったらメイド長が出入口を開けてくれた。魔王はフレイヤの後ろにつき、メイド長のそばを通りながら虎の威を借りる狐のように笑った。メイド長は深くお辞儀をしながらこう思った。なんだろう本当に。

肉体的にも、精神的にも満足いく食事をした魔王はもううたたねの宿に帰るつもりだった。お別れの挨拶をしようとする彼女を子供たちはいきなり手のひらで叩き、逃げ始めた。


『鬼ごっこしよう!』

『ユリアおねえちゃんがおにだよ!』


それを聞いた魔王は一瞬いらっとした。鬼は魔界に住む下等魔物の一種。


『こら、魔王に鬼だなんて!』


魔王は叫びながら子供たちを追いかけて行った。


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